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2007.11

 ミッドナイト イーグル 「ミッドナイト イーグル」の画像です

 成島出(ナルシマ・イズル)監督。米空軍のステルス型戦略爆撃機・通称「ミッドナイト イーグル」が、特殊爆弾を積んだまま、極寒の北アルプスで墜落する。国際紛争が絡んだ壮大なスケールの山岳サスペンスという設定だが、その表現はあまりにも情けない。冬山自体の描き方は悪くない。しかし最大の見せ場となるミッドナイト イーグルの内部が、恥ずかしくなるほど安っぽい。激しい銃撃戦に緊迫感が感じられない。政府関係者の発言、行動が、何とも不自然すぎる。自国で解決しようとしながら、最後はあっさりとアメリカに頼る日本政府。アマチュア無線のむちゃくちゃな使い方といい、突っ込みどころ満載の仕上がりだ。キャスティング的には、竹内結子と吉田栄作の演技が印象に残った。

 しかしながら本当の欠点は、そこにはない。一番問題なのは、家族愛というオブラートに包んで、結局は日本政府のあり方を肯定している点だ。ジャーナリズムの基本を平気で踏みにじっている点だ。ナパーム弾を憎んでいた戦場カメラマンの、なんというラストの皮肉な選択。平和を望むことへの悪意が込められている。犠牲死という美学に見せかけて、一方的な政治宣伝が行われている。ひどく頼りなく描かれている自衛隊が、大掛かりで協力している理由もそこにあるのだろう。家族愛に涙しながら、どうにも後味が悪かった。


 クワイエットルームにようこそ 「クワイエットルームにようこそ」の画像です

 28歳のフリーライター佐倉明日香は、ストレスの多い多忙な日々を送っている。ある日目覚めると、見知らぬ白い部屋でベッドに拘束されていた。薬とアルコールの過剰摂取で精神科の閉鎖病棟に閉じこめられたのだ。失った記憶に戸惑いながら、精神科の女子閉鎖病棟で暮らす人々との付き合いが始まる。

 松尾スズキ原作・脚本・監督の「クワイエットルームにようこそ」は、複雑で重たいテーマを低い温度で軽妙に描く。俳優たちも、熱のこもった演技を軽快に見せる。ギャグとシリアスのバランス感覚がとても良い佳作だ。

 佐倉明日香役の内田有紀。彼女の快活さが、この作品の基本トーンとなっている。結末のどんでん返しも、鮮やかに決まる。彼女の恋人鉄雄役の宮藤官九郎が、びっくりするほどうまい。病棟の主・西野役の大竹しのぶは、さすがの貫禄。拒食症の役にはまり込んでいる蒼井優も、こわいほど。看護婦役のりょうは、初めてギャグの演技を見せる。そのほかの俳優たちも、見事な演技が光った。


 自虐の詩 「自虐の詩」の画像です

 業田良家による4コマ漫画作品の映画化。あの漫画のラストには、驚かされた。はたして映画であの雰囲気が出せるのだろうかと思っていたが、堤幸彦監督が強引に自分の世界に連れ込んでいく。パンチパーマの阿部寛が、ちゃぶ台をひっくり返すと、ご飯や味噌汁がスローモーションで宙を舞う。まさに堤ワールド。前半は、どたばた喜劇が展開される。そして、後半。ストーリーは急に叙情的になる。監督の狙い通りに何度も泣かされた。

 終わってみれば、幸江(ゆきえ)役の中谷美紀(なかたに・みき)、イサオ役の阿部寛(あべ・ひろし)は、ともに好演。小春おばちゃん役のカルーセル麻紀らも、悪くなかった。幸江の中学時代を演じた岡珠希(オカ・タマキ)は、不幸を引き寄せそうな顔で、適役。中学時代の熊本さん役丸岡知恵(まるおか・ちえ)も、個性的で良かった。ただし、大人になった熊本さん役が、アジャ・コングというのはなあ。それでも、最後の再会シーンでは大泣きしたのだけれど。


 ALWAYS 続・三丁目の夕日 「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の画像です

 映画が始まって、5分で料金の元が取れたと感じた。ゴジラファンの私には、たまらないオープニング(この映画の公開初日11月3日は、ゴジラの誕生日だ!)。そして前作と同じ昭和30年代の世界に、すっと入り込んでしまった。今回は前作の終了時点から4ヵ月後に設定。完成後の東京タワー、東京駅、羽田空港、日本橋、DC-6B、特急こだまが再現されている。当時の映像がよみがえり、まったく違和感がない。

 前作は、やや肩に力が入り、感動を押し付けてくるようなしつこさがあったが、今回はほどよく肩の力が抜け、コミカルなシーンをちりばめながら、夕日町三丁目に住む人々の姿を描いていく。しかし、ラストに向けて、何度か涙が出た。心の奥から、じんわりと気持ちよくあふれてくる涙。みな好演しているが、特に子役たちがいい。「さくらん」のきよ葉役に続き、鈴木美加役を見事に演じた小池彩夢(こいけ・あやめ)、そして前作以上に巧みな演技を見せた鈴木一平役の小清水一揮(こしみず・かずき)。


 ボーン・アルティメイタム 「ボーン・アルティメイタム」の画像です

 ジェイソン・ボーンシリーズの第3作「ボーン・アルティメイタム」。ポール・グリーングラス監督が、緻密で切れのある演出をみせる。

 CIAの極秘プロジェクト「トレッドストーン計画」によって、記憶を奪われ暗殺者にされたジェイソン・ボーン。CIAにねらわれ愛するマリーを殺されたボーンは、復讐と自分探しの旅を続けている。今回は、その謎に満ちた過去が明らかにされる。

 トレッドストーン計画などに関する取材し記事を書いた新聞記者ロスにロンドンで接触しようとしたボーンは、CIAの現地要員に監視されていたロスを助けようとするが、ロスは狙撃され殺されてしまう。人の多い雑踏の中での行き詰まる駆け引き。きびきびと変わる映像が、緊張を高める。

 派手で大掛かりな戦闘シーンがある訳ではない。美女とのラブシーンがある訳ではない。ロンドン、タンジール、ニューヨークと場所を変えながら、ただ、ただ、逃亡と追跡、そしてアクションが繰り返される。そのテンポが、じつに絶妙。そして、カメラワークの臨場感がたまらなく魅力的だ。


 題名のない子守唄 「題名のない子守唄」の画像です

 ジュゼッペ・トルナトーレ監督、6年ぶりの新作。インターネットなどで、さまざまなネタばれ情報が流されているが、この作品は、全く予備知識なしに見るべき作品だ。ウクライナから北イタリア・トリエステにやってきたイレーナという女性の不可解な行動を、いろいろ憶測しながら見つめ続ける緊張感が、この作品の大きな魅力だから。ときおり襲う幻覚の痛々しさに、ときおり鋭く刺激されながらも、真相はなかなか明らかにならない。大きな謎を抱えながら、次第に映像にのめり込む。

 母性愛を、こんなストーリーでみせた映画は、これまでなかったと思う。ラスト近くで明らかにされる真実の過酷さに、身がすくんだ。あまりにも残酷。しかし、ラストに暖かなシーンを置くことで、この作品は悲劇に終わらなかった。いかにもトルナトーレ監督らしい。そして、モリコーネの音楽がすべてを包み込む。イレーナを演じたクセニヤ・ラパポルトの熱演は、鳥肌が立つほど。モニカ・ベルッチのマレーナ役もすごかったが、イレーナもすさまじい。


 バイオハザード3 「バイオハザード3」の画像です

 「バイオハザード」シリーズ3作目「バイオハザードIII」。今回は、1、2作とはかなり趣が異なる。ラクーンシティのTウィルス感染は、数年で世界中へと広まっている。ゾンビのようなアンデットに埋め尽くされた地上は砂漠と化し、わずかな生存者が限られた資源を求めて移動生活している。すべての元凶であるアンブレラ社の陰謀を阻止するために闘うアリスは、離ればなれになっていたカルロスと生存者集団に出会う。

 ミラ・ジョヴォヴィッチの魅力は認めるが、それだけに頼っている。アリスのクローンが登場し「エイリアン4」みたいだなと思っていると、「マッドマックス」的な砂漠のシーン。続いて、ヒッチコックの「鳥」を連想させる展開。さらに、アリスは「AKIRA」になる。どこかで見たようなシーンのパレードが続く。広大な砂漠が舞台だが、映像のスケール感は乏しい。「バイオハザード」の独自の持ち味は失われ、面白ければ何でもやってしまうB級映画のウィルスに感染している。B級映画には、B級映画の良さはあるが、これはいただけない。続編があるかもしれないようなラストだが、「バイオハザード」は、すでに死んでいる。


 
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