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2006.12

 007/カジノ・ロワイヤル 「007/カジノ・ロワイヤル」の画像です

 2006年作品。アメリカ・イギリス合作。144分。配給=ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント。監督=マーティン・キャンベル。製作=バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン。製作総指揮=アンソニー・ウェイ、カラム・マクドゥガル 。原作=イアン・フレミング 『007/カジノ・ロワイヤル』(東京創元社刊)。 脚本=ニール・パーヴィス 、ロバート・ウェイド 、ポール・ハギス。撮影=フィル・メヒュー 。プロダクションデザイン=ピーター・ラモント。衣装デザイン=リンディ・ヘミング 。編集=スチュアート・ベアード 。音楽=デヴィッド・アーノルド 。テーマ曲=モンティ・ノーマン (ジェームズ・ボンドのテーマ) 。主題歌= クリス・コーネル。ジェームズ・ボンド=ダニエル・クレイグ、ヴェスパー・リンド= エヴァ・グリーン、ル・シッフル=マッツ・ミケルセン、M=ジュディ・デンチ、フェリックス・レイター= ジェフリー・ライト 、マティス=ジャンカルロ・ジャンニーニ、アレックス・ディミトリオス=サイモン・アブカリアン 、ソランジュ=カテリーナ・ムリーノ、ヴァレンカ=イワナ・ミルセヴィッチ、モロカ=セバスチャン・フォーカン、ミスター・ホワイト=イェスパー・クリステンセン


 アクション映画として、とても良くできていた。これまでのボンド映画のクールな既成観念を打ち破った、スピード感あふれるリアルな肉弾戦が満載。今回のジェームズ・ボンドは、空港でのカーチェイスなど超絶アクションを生き抜くマッチョな体格だ。だから、とても痛い拷問シーンが生きてくる。ストーリー自体は、悪役が小粒な感じがするものの、考える暇を与えないほど、変化に富んでいる。携帯電話が、きわめて重要な役割を持つ点が、いかにも現代的。ノートパソコンのVAIOも活躍している。

  まずオープニングタイトルに感激した。作品の核となるポーカーをイメージしたトランプの絵柄が、次々と変化していく。レトロ風に見えるが、映像処理のセンスは斬新。とても魅力的な愛すべきタイトルだ。そして、激しいアクションの連続。鉄橋アクションから大使館の大爆発までの息つく暇もないアクションシーンは、人間の限界すれすれ。しかしカメラワークがさえ、とてもリアルに感じる。公開前はミス・キャストと言われていたジェームズ・ボンド役のダニエル・クレイグは、若き時代のボンドとしては、それなりの魅力がある。新しいボンド像を生み出した。ボンドガール以上に華を添えているヴェスパー・リンド 役のエヴァ・グリーンは、聡明な美しさが一段と際立っていた。


 鉄コン筋クリート 「鉄コン筋クリート」の画像です

 2006年作品。日本映画。111分。配給=アスミック・エース。監督=マイケル・アリアス。 アニメーション制作=STUDIO4℃。 動画監督=梶谷睦子。 演出=安藤裕章 。プロデューサー=田中栄子、鎌形英一、豊島雅郎、植田文郎。エグゼクティブプロデューサー= 北川直樹、椎名保、亀井修、田中栄子。原作=松本大洋 『鉄コン筋クリート』。脚本=アンソニー・ワイントラーブ 。デザイン=久保まさひこ (車輌デザイン)。美術監督=木村真二。編集=武宮むつみ。音楽=Plaid 。主題歌=ASIAN KUNG-FU GENERATION 『或る街の群青』。CGI監督=坂本拓馬。キャラクターデザイン=西見祥示郎。サウンドデザイン=ミッチ・オシアス。 作画監督=久保まさひこ、浦谷千恵 。色彩設計=伊東美由樹。総作画監督=西見祥示郎 。クロ=二宮和也、シロ=蒼井優、木村=伊勢谷友介、沢田= 宮藤官九郎、チョコラ=大森南朋、バニラ=岡田義徳 、小僧=森三中、じっちゃ=納谷六朗、藤村=西村知道、組長= 麦人、ネズミ(鈴木)=田中泯、蛇=本木雅弘


 息を飲むシーンの連続。マイケル・アリアス監督のあまりにも純粋な情熱と、STUDIO4℃ の高い技術が結びつき、希有の密度と美しさを備えたアニメが完成した。どの場面も全力投球。高い目標を掲げ、妥協を許さないアリアス監督の執念が、びしびしと伝わってくる。完成までに9年かかった。いや完成したのが奇跡のようだ。すげぇ。夢はあきらめてはだめだ。

 声優が良い。クロ役二宮和也、シロ役蒼井優。どちらも、ぴったりとはまっている。2人は、2006年を代表する役者でもある。とくに蒼井優は、ダントツの存在感だ。おまけに、こんな才能まであるのかと、本当に舌を巻いてしまった。彼女もすげぇ。ほかの俳優たちも、違和感がない。有名な俳優が声優を務めて失敗した「ゲド戦記」とは、大違い。


 リトル・ミス・サンシャイン 「リトル・ミス・サンシャイン」の画像です

 2006年作品。100分。アメリカ映画。配給=FOX。監督=ジョナサン・デイトン 、ヴァレリー・ファリス。 製作=アルバート・バーガー、デヴィッド・T・フレンドリー 、ピーター・サラフ、マーク・タートルトーブ、ロン・イェルザ。脚本=マイケル・アーント。撮影=ティム・サーステッド。衣装デザイン=ナンシー・スタイナー。編集= パメラ・マーティン。音楽=マイケル・ダナ。リチャード・フーヴァー=グレッグ・キニア、シェリル・フーヴァー=トニ・コレット、フランク=スティーヴ・カレル、グランパ=アラン・アーキン、ドウェーン・フーヴァー=ポール・ダノ、オリーヴ・フーヴァー=アビゲイル・ブレスリン


 独自の成功者論を唱えて負け組を全否定する父親のほか、家族一人一人が問題を抱えた家族の絆は、ぼろぼろ。崩壊寸前の状態にある。小太りの眼鏡っ子オリーヴに念願の美少女コンテスト出場のチャンスが訪れ、一家は旅費節約のため黄色いミニバスに乗り込み、開催地のカリフォルニアを目指す。このバスが、途中で故障。家族全員が協力しないと動かなくなり、家族関係が変わり始める。

 新しいタイプのロードムービー。父親の変化が面白い。そして、美少女コンテストでのオリーヴの踊りにぶっ飛んだ。止めようとした主催者に飛びかかり、オリーヴとともに踊る家族たち。美少女コンテストの価値観をも転換するクライマックスシーンに驚かされる。偉大なる「負け組」の輝き。最初にニーチェの顔のタペストリーが出てくる訳だ。

 監督は夫婦でもあるジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリス。手作りっぽいインディーズ・テイスト。しかし、演技もしっかりとした、なかなかの力作だった。不意をつかれたって感じ。第19回東京国際映画祭で最優秀監督賞、最優秀主演女優賞、観客賞を受賞した。


 王の男 「王の男」の画像です

 2006年作品。122分。韓国映画。配給=角川ヘラルド映画=CJ Entertainment。監督=イ・ジュンイク。製作総指揮=キム・インス。原作=キム・テウン (演劇『爾』)。脚本=チェ・ソクファン。撮影=チ・ギルン。衣装=シム・ヒョンソップ。音楽=イ・ビョンウ。アートディレクター=カン・スンヨン。チャンセン=カム・ウソン、コンギル=イ・ジュンギ、ヨンサングン(燕山君)=チョン・ジニョン、ノクス=カン・ソンヨン、チョソン=チャン・ハンソン、ユッカプ=ユ・ヘジン、チルトゥク= チョン・ソギョン、パルボク=イ・スンフン


 韓国史上最悪の暴君として語り継がれている16世紀の王・燕山君(ヨンサングン)を、大道芸人の視線で描いた作品。芸人のチャンセンとコンギルは、王を笑わせることに成功し、宮殿に住むことを許される。そして、奇妙な人間関係が生まれる。やや類型化されている部分もあるが、ストーリーは良く練られていた。権力者である王の孤独と脆さ、権力を風刺する芸人の自由と逞しさ。その対比が面白い。当時の宮廷を再現した絢爛豪華なセットや風景も見とれるほど美しい。

 ヨンサングンの弱さを演じたチョン・ジニョンは見事だったが、芸人チャンセン役のカム・ウソンの豪快さとコンギル役イ・ジュンギの妖艶さの前では、かすんでしまう。ほかの俳優たちも、みなキャラが立っていて、魅力的だ。 韓国歴史映画の醍醐味を、久しぶりに堪能した。


 武士の一分 「武士の一分」の画像です

 2006年作品。121分。日本映画。配給=松竹。監督=山田洋次。製作=久松猛朗。プロデューサー=深澤宏、山本一郎。製作総指揮=迫本淳一。原作=藤沢周平 『盲目剣谺返し』(文春文庫刊『隠し剣秋風抄』所収)。脚本=山田洋次 、平松恵美子、山本一郎。 撮影=長沼六男。 美術= 出川三男。 衣裳=黒澤和子。 編集=石井巌。 音楽=冨田勲。 音楽プロデューサー=小野寺重之。三村新之丞=木村拓哉、三村加世=檀れい、徳平=笹野高史、樋口作之助=小林稔侍、山崎兵太=赤塚真人、滝川勘十郎=綾田俊樹、加賀山嘉右衛門=近藤公園、波多野東吾=岡本信人、滝川つね=左時枝、玄斎=大地康雄、木部孫八郎=緒形拳、波多野以寧=桃井かおり、島田藤弥=坂東三津五郎


 山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」に続く藤沢周平原作時代劇の3作目。「たそがれ清兵衛」ほどの深みや緊張感はないが、現代的な笑いを盛り込んだ不思議な味わいの時代劇に仕上がっている。毒味役の下級武士である主人公が、貝の毒で失明したあげく、妻との幸せな生活を踏みにじられ、亭主としての尊厳を懸けて決闘するという物語。「武士の一分」という題名だが、「武士」というよりも、亭主としての「一分」だ。

 主人公を演じた木村拓哉は、現代ドラマの雰囲気そのままで登場する。最初は軽く感じるが、失明した後は、凄みのある演技を見せる。妻役の檀れいは、この作品が映画デビュー。悪くない。そして、なんと言っても笹野高史の軽妙な演技が光った。実にうまい。ことしは「寝ずの番」でも、印象に残る演技を見せてくれた。


 パプリカ 「パプリカ」の画像です

 2006年作品。日本映画。90分。配給・宣伝=ソニー・ピクチャーズ エンタテイメント。原作=筒井康隆。監督=今敏 。企画=丸山正雄。脚本=水上精資・今敏。キャラクターデザイン・作画監督=安藤雅司。色彩設計=橋本賢。美術監督=池信孝。撮影監督=加藤道哉。編集=瀬山武司 。音楽=平沢進。音響監督=三間雅文。制作プロデューサー=豊田智紀。アニメーション制作=マッドハウス。パプリカ/千葉敦子=林原めぐみ、乾精次郎=江守徹、島寅太郎=堀勝之祐、時田浩作=古谷徹、砂川利美=大塚明夫、小山内守雄=山寺宏一、あいつ=田中秀幸、日本人形=こおろぎさとみ、氷室啓=阪口大助、津村保志=岩田光央、柿本信枝=愛河里花子、レポーター=太田真一郎、奇術師=ふくまつ進紗、ウェイトレス=川瀬晶子、アナウンス=泉久実子、研究員=勝杏里、所員=宮下栄治、ピエロ=三戸耕三、玖珂=筒井康隆、陣内=今敏


 今敏監督のアニメ「パプリカ」は、豊穣なイマジネーションが広がる妄想のカーニバルだ。今監督のアニメは、「パーフェクト・ブルー」「千年女優」のころから、現実と夢、妄想と事実が混濁した世界を描いてきた。監督自身、筒井康隆の「パプリカ」を意識してきたと語っている。つまり、アニメ「パプリカ」は、原点というべき作品だ。今監督作品の音楽を担当している平沢進は、今回も独創的な世界を見せる。

 パプリカは、夢の中でフランス人形、中国娘、孫悟空、ティンカーベル、人魚、ピノキオと七変化し、様々な玩具の人形、電化製品、郵便ポスト、自由の女神などが練り歩く妄想パレードが、現実に浸食してくるシーンなど、わくわくする場面が登場する。しかし「パーフェクト・ブルー」や「千年女優」を観たときのような驚きはない。物語の展開が平板だからだろう。


 硫黄島からの手紙 「硫黄島からの手紙」の画像です

 2006年作品。アメリカ映画。141分。配給=ワーナー。監督=クリント・イーストウッド。製作=クリント・イーストウッド 、スティーヴン・スピルバーグ 、ロバート・ロレンツ。製作総指揮=ポール・ハギス。原作=栗林忠道 『「玉砕総指揮官」の絵手紙』(小学館文庫刊)。原案=アイリス・ヤマシタ 、ポール・ハギス。脚本=アイリス・ヤマシタ。撮影=トム・スターン 。美術=ヘンリー・バムステッド 、ジェームズ・J・ムラカミ 。衣装デザイン=デボラ・ホッパー。編集=ジョエル・コックス 、ゲイリー・D・ローチ。音楽=クリント・イーストウッド。 栗林忠道中将=渡辺謙、西郷=二宮和也、バロン西(西竹一中佐)=伊原剛志、清水=加瀬亮、野崎=松崎悠希 、伊藤中尉=中村獅童、花子=裕木奈江


 「父親たちの星条旗」に続き、硫黄島での戦いを日米双方の視点から描く第2部。「父親たちの星条旗」では、戦場の理不尽さ、国家の欺瞞性が、伝わってきた。「硫黄島からの手紙」は、戦場の理不尽さとともに戦争の不毛性が、強く打ち出される。しかし、日本国家の欺瞞性は、それほどはっきりとした形では示されない。それを行うのは、日本人の責任だということだろう。最後に発見される60年前の手紙は、私たちに送られたものでもある。

 戦争の悲劇を描いて、感動の涙を誘うたぐいの映画ではない。静かに、しかし容赦なく戦場の惨劇をみせながら、戦争について深く考え込ませる作品だ。過去の戦争ではなく、現在も続いている戦争についても。戦争映画の新しい地平を切り開いた画期的な連作だ。


 
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