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2006.10

 パビリオン山椒魚 「パビリオン山椒魚」の画像です

 2006年作品。日本映画。98分。配給=東京テアトル、スタイルジャム。監督=富永昌敬。エグゼクティブ・プロデューサー=甲斐真樹。製作=松下晴彦、御領博。撮影=月永雄太。照明=大庭郭基。美術=仲前智治。音楽=菊地成孔。飛鳥芳一=オダギリジョー、アキノ=麻生祐未、みはり=KIKI、日々子=キタキマユ、あづき=香椎由宇、香川守弘=光石研、四郎=高田純次


 天才レントゲン技師が、伝説のオオサンショウウオ“キンジロー”が本物かどうか調べるために誘拐する-。最初から、くだらなくてばかばかしい映画を撮ろうとした監督の試みは理解できる。くすくすと笑いながら、ゆるゆると横滑りしていく快感は確かにあるが、キャストの魅力に頼りすぎて手を抜いたばかりに、後半はひどくだるい作品になってしまった。やるなら、もっとばかばかしく、冒険してほしい。

 キャスティングは、本当に面白い。オダギリジョーは、思わず力が抜ける奇妙な方言を連発するはじけっぷり。塚本晋也監督の「ヴィタール」で独特な存在感を見せた KIKIも、令嬢の役にはまっている。麻生祐未もなかなかの熱演だった。


 太陽 「太陽」の画像です

 2005年作品。ロシア・イタリア・フランス・スイス合作。115分。配給=スローラーナー 。監督=アレクサンドル・ソクーロフ。撮影監督=アレクサンドル・ソクーロフ。脚本=ユーリ・アラボフ。アート・ディレクター=エレナ・ズーコワ。デザイナー=ユーリ・クペール。コスチューム・デザイナー=リディア・クルコワ。音楽=アンドレイ・シグレ。サウンド・デザイナー=セルゲイ・モシュコフ。編集=セルゲイ・イワノフ。プロデューサー=イゴール・カレノフ、アンドレイ・シグレ、マルコ・ミュラー。共同プロデューサー=アレクサンドル・ロドニアンスキーアンドレイ・ツェルツァロフアントワーヌ・ド・クレモン-トネール。昭和天皇=イッセー尾形、マッカーサー将軍=ロバート・ドーソン、 香淳皇后=桃井かおり、侍従長=佐野史郎、老僕=つじしんめい、研究所長=田村泰二郎、マッカーサー将軍の副官=ゲオルギイ・ピツケラウリ、鈴木貫太郎総理大臣=守田比呂也、米内光政海軍大臣 =西沢利明、阿南惟幾陸軍大臣=六平直政、木戸幸一内大臣=戸沢佑介、東郷茂徳外務大臣=草薙幸二郎、梅津美治郎陸軍大将=津野哲郎、豊田貞次郎海軍海軍大将=阿部六郎、安倍源基内務大臣=灰地順、平沼騏一郎枢密院議長 =伊藤幸純、迫水久常書記官長=品川徹


 アレクサンドル・ソクーロフ監督が歴史上の人物を描く全4部作のうち、ヒトラーの「モレク神」、レーニンの「Telets」に続く昭和天皇を描いた3作目。敗戦直前から人間宣言を決断するまでを描く。このテーマは、確かに冒険だ。しかし躊躇も感じられる。

 冒頭、天皇が「日本は私以外の人間がみんな死んでしまうのではないか」と侍従長(しじゅうちょう)に質問する場面がある、何気ない一言だが、衝撃的だった。終始、夢の中にいるような色調と雰囲気。戦争末期という切迫した雰囲気が乏しい。ただ、天皇が東京大空襲の悪夢を見て場面は鮮烈。B29爆撃機は巨大な魚で、焼夷弾ではなく、大量の小魚を産み落とし、東京を焦土にする。海洋生物学に没頭していた天皇らしい夢だ。

 イッセー尾形は、孤独と怖れを感じながら、家族を思って生きる等身大の天皇を演じている。緊迫した場面での「あ、そう」という言葉には、奇妙なユーモアがある。疎開した皇后(こうごう)との再会で天皇が「私は、神であることの運命を拒絶した」と話すと、驚きもせずに皇后が「あ、そう。そうだと思ってました」と答えたのには、思わず笑ってしまった。アメリカの従軍カメラマンの写真撮影に応じ、「チャップリンそっくりだ」と言われるシーンも印象的だ。

 ラストシーンは、痛みが残った。別室で待っている子どもたちに会いに行く前に、天皇は侍従長に聞く。「私の国民への語りかけを記録してくれた、あの録音技師はどうなったかね?」「自決しました」と侍従長は答える。 「止めたんだろうね?」「いいえ」


 ブラック・ダリア 「ブラック・ダリア」の画像です

 2006年作品。アメリカ映画。121分。配給=東宝東和。監督=ブライアン・デ・パルマ 。 製作=ルディ・コーエン 、モシュ・ディアマント 、アート・リンソン。 製作総指揮=ロルフ・ディール、ダニー・ディムボート、ジェームズ・B・ハリス、ヘンリク・ヒュイッツ 、ジョセフ・ローテンシュレイガー、アヴィ・ラーナー、トレヴァー・ショート 、アンドレアス・ティースマイヤー、ジョン・トンプソン。原作=ジェームズ・エルロイ 『ブラック・ダリア』(文春文庫刊)。 脚本=ジョシュ・フリードマン。撮影=ヴィルモス・ジグモンド 。美術=ダンテ・フェレッティ。衣装=ジェニー・ビーヴァン。編集=ビル・パンコウ。音楽=マーク・アイシャム。バッキー・ブライカート=ジョシュ・ハートネット 、リー・ブランチャード= アーロン・エッカート、ケイ・レイク=スカーレット・ヨハンソン 、マデリン・リンスコット=ヒラリー・スワンク、エリザベス・ショート= ミア・カーシュナー


 「L.A.コンフィデンシャル」の原作者ジェームズ・エルロイのベストセラーをブライアン・デ・パルマ監督が映画化した。女優の卵が胴体を真っ二つに切断された惨殺死体で発見されるという、1940年代にロサンジェルスで実際に起こった猟奇殺人事件。デ・パルマ監督の腕が鳴る題材だ。当然期待も高まる。出だしの雰囲気はとても良い。死体が発見される場面のめくるめくようなクレーンショットの緊迫感も見事。しかし、物語の運びがまずい。捜査に当たった2人の刑事が絡む複雑な三角関係など、ストーリーが散漫になっている。伏線なら分かるが、殺人事件の真相は、別のところにあり、ラストでばたばたと種明かしされる。釈然としないまま、映画は終わる。最後にグロテスクなショットを残して。

 殺されたエリザベス・ショート役のミア・カーシュナー は、再三残されたフィルムに登場する。とても魅力的だ。スカーレット・ヨハンソンも官能的だが、もっと甘ったるい官能の香りを漂わせる。アトム・エゴヤン監督の「エキゾチカ」(1994年)でダンサーのクリスティ-ナ役を演じた映像が、鮮烈に記憶に残っている。彼女のおかげで、この失敗作は、とても救われたと思う。


 ワールド・トレード・センター 「ワールド・トレード・センター」の画像です

 2006年作品。アメリカ映画。129分 。配給=UIP。監督:オリヴァー・ストーン 製作:マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シェア、モリッツ・ボーマン、オリヴァー・ストーン、デブラ・ヒル。脚本:アンドレア・バーロフ。撮影:シーマス・マッガーヴェイ。プロダクションデザイン:ヤン・ロールフス。 衣装デザイン:マイケル・デニソン 。編集:デヴィッド・ブレナー 、ジュリー・モンロー。 音楽:クレイグ・アームストロング 。ジョン・マクローリン=ニコラス・ケイジ、ウィル・ヒメノ=マイケル・ペーニャ、アリソン・ヒメノ=マギー・ギレンホール、ドナ・マクローリン=マリア・ベロ、スコット・ストラウス= スティーヴン・ドーフ、スコット・ストラウス= ジェイ・ヘルナンデス


 オリヴァー・ストーン監督の「ワールド・トレード・センター」は、アメリカにとっての9.11の意味から、眼をそむけさせることで、十分に政治的な作品と言える。世界貿易センタービルに救出に向かった港湾警察官がビルの崩壊で生き埋めになり、2人が奇跡的に生還したという実話をもとにしている。

 しかし、瓦礫の中からの感動の救出劇を描くのなら、ワールド・トレード・センターでなくてもいいだろう。大地震などで、多くの実話が残っている。わざわざ、「ワールド・トレード・センター」と名付けて、涙を流させることで、本質的なテーマを隠し、アメリカのその後の政策を不問に付すことに加担していると思う。こういうスタイルの鎮魂は誤りだ。ひりひりするような現場のリアル感の演出のうまさは認めるが、私はこの作品を評価しない。


 マッチポイント 「マッチポイント」の画像です

 2005年作品。イギリス・アメリカ・ルクセンブルグ合作。124分。配給=アスミック・エース。監督=ウディ・アレン。製作=レッティ・アロンソン、ルーシー・ダーウィン、 ギャレス・ワイリー。製作総指揮=スティーヴン・テネンバウム。脚本=ウディ・アレン。撮影=レミ・アデファラシン。プロダクションデザイン=ジム・クレイ。衣装デザイン=ジル・テイラー。編集=アリサ・レプセルター。クリス・ウィルトン=ジョナサン・リス・マイヤーズ、ノラ・ライス=スカーレット・ヨハンソン、クロエ・ヒューイット・ウィルトン=エミリー・モーティマー、トム・ヒューイット=マシュー・グード、アレックス・ヒューイット=ブライアン・コックス、エレノア・ヒューイット=ペネロープ・ウィルトン


 ウディ・アレン監督の「マッチポイント」は、初めてロンドンで撮影したラブ・サスペンス。イギリスの上流社会を舞台に、運に翻弄される人々の姿を描く。主演はジョナサン・リース・マイヤーズ。共演は、ウディ・アレンの新たなミューズとして次回作への出演も決定したスカーレット・ヨハンソン。

 マイヤーズとヨハンソンのラブ・サスペンスなのに、まったく楽しめなかった。登場人物が、皆ぬけがらだからだ。ドストエフスキー・ネタも生きていない。だから、意外なオチは、いやらしい。ウディ・アレン監督との相性は、どんどん悪くなっていく。1970年、1980年代の作品とは、抜群に相性が良かったのに。

 


 フラガール 「フラガール」の画像です

 2006年作品。日本映画。120分。配給=シネカノン。監督=李相日。製作=李鳳宇、河合洋、細野義朗。プロデュース=石原仁美。企画=石原仁美。脚本=李相日、羽原大介。撮影=山本英夫。美術=種田陽平。編集=今井剛。音楽=ジェイク・シマブクロ。照明=小野晃。録音=白取貢。平山まどか=松雪泰子、谷川洋二朗=豊川悦司、谷川紀美子=蒼井優、熊野小百合=山崎静代、吉本紀夫=岸部一徳、谷川千代=富司純子


 李相日(リ・サンイル)監督は、すごい。「フラガール」という題名にだまされてはいけない。「フラガール」という軽い響きとは裏腹に、重く熱いドラマが展開される。ことし開業40周年を迎えた日本初のテーマパーク常磐ハワイアンセンターの成功物語や、女性たちのスポコンにとどまらず、炭鉱閉山という時代の大きな曲り角と、そこに生きる世代間の対立と和解をも描く重厚さもある。

 そして、フラダンスのダイナミックで華麗な踊りが、すべてを一体化させ、高揚させる。いくたの苦難を乗り越えて迎えたハワイアンセンターのオープン初日のステージでは、嬉しさのあまり涙が止まらなかった。すごく元気をもらった。よくある内容とバカにしないで、ぜひ観てほしい。

 9月15日にアメリカのアカデミー賞最優秀外国語映画賞部門に日本代表として出品されることが決定した。正式にノミネートが決定すれば、第76回アカデミー賞最優秀外国語映画賞部門にノミネートされた『たそがれ清兵衛』以来となる。正式なノミネーションは、2007年1月23日に発表される。

 蒼井優(あおい・ゆう)のダンスのうまさ、キレの良さに仰天した。まさに輝いている。練習だけではない、天性の才能がある。対照的な役だった「ハチミツとクローバー」も良かった。いつのまにか、若手女優のトップになった感じ。松雪泰子(まつゆき・やすこ)は、ダンスだけでなく、演技もめりはりがある。その瞬発力に驚く。彼女のすごさを知ったのは「MONDAY」(2000年、SABU監督)。そして、富司純子(ふじ・すみこ)が、貫禄を見せる。迫力あるなあ。昔は「藤純子」(ふじ・じゅんこ)と言っていたが、現在は富司純子(ふじ・すみこ)。3世代の女性たちが、生き方をめぐるバトルを繰り広げる。あきらめないこと、一生懸命である事の美しさ。その当たり前のことが、こんなにも激しく胸をうつ。

 とても印象的なシーンがありました。蒼井優が演じる紀美子の親友が、常磐炭鉱の合理化で夕張に引っ越し、その友だちが送ってくれた花飾りをして紀美子はステージに立つ。炭鉱の相次ぐ閉山という歴史が、今も傷跡を残していることをあらためて感じた。常磐のあと、夕張炭鉱も閉山し、ともに観光振興に生き残りを賭けたのだが。夕張市は財政再建団体に。そしてゆうばり国際映画祭は中止。この映画を、夕張で見たら、さらに深く、震えるほど感動したと思う。


 
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