黒い十人の女 |
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1961年作品。日本映画。103分。製作=大映東京。配給=大映。 監督=市川崑。脚本=和田夏十。撮影=小林節雄。照明=伊藤幸夫。美術=下河原友雄。音楽=芥川也寸志。風松吉=船越英二、石ノ下市子=岸恵子、風双葉=山本富士子、三輪子=宮城まり子、四村塩=中村玉緒、後藤五夜子=岸田今日子、虫子=宇野良子、七重=村井千恵子、八代=有明マスミ、櫛子=紺野ユカ、十糸子=倉田マユミ、百瀬桃子=森山加代子、本町芸能局長=永井智雄、野上=大辻伺郎、花巻=伊丹十三、特別出演=ハナ肇とクレイジー・キャッツ
遊びに満ちながらスタイリッシュな映像、コメディとミステリーを巧みにブレンドした密度の高い脚本、それぞれの個性を開花させた多彩な俳優たちの魅力。とてつもない傑作が、ほとんど日の目を見ずに隠されていた。文字通りの「早すぎた傑作」だ。
フランス映画も真っ青になる若き市川崑監督の実験精神と見事な映像の成果を大いに味わったが、和田夏十の襞に満ちた会話の魅力は、それ以上の発見だった。何という優れた才能だろう。十人の女が中心のストーリーも斬新だが、一人ひとりの女性が生々しく息づいている。中でもクールさと情熱を合わせ持つ女優を、岸恵子が凛とした姿勢で演じ、強いインパクトを残した。船越英二もテレビ局の中で浮遊しつつ時間に追われながら刹那的に生きるプロデューサー、元祖「軽い男」をさらりと演じ切った。
同時上映された1966年製作のライオン歯磨のコマーシャルも新鮮。シナリオは和田夏十、谷川俊太郎、市川崑。1分間の映像で、小悪魔的な加賀まりこの魅力をあざやかに切り取っている。放送されなかった幻のCM。もしかしたら、まだまだ多くの早すぎた傑作が眠っているかも知れない。
STARSHIPTROOPERS |
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1997年度作品。アメリカ映画。138分。配給ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。 監督ポール・バーホーベン(Paul Verhoeven)。脚本エド・ニューマイヤー。原作ロバート・A・ハインライン。撮影ヨスト・ヴァカーノ。編集マーク・ゴールドブラット、キャロライン・ロス。クリーチャー視覚効果フィル・ティペット。音楽バジル・ポールドゥリス。ジョニー・リコ=キャスパー・ヴァン・ディーン、ディジー・フローレス=ディナ・メイヤー、カルメン・イバネス=デニース・リチャーズ、エース・レビー=ジェイク・ビジー
ポール・バーホーベン監督は「ロボ・コップ」「トータル・リコール」という秀作を生み出した後、自らのテイストをより露わにし始め「氷の微笑」「ショーガール」と、暴力、エロスを全面に打ち出す派手な映像をたたきつけながらも、登場人物に深みがない作品を製作した。しかし、この薄っぺらでどこか虚無的な乱痴気騒ぎが、私は嫌いではない。ただ、今回ばかりは一緒に楽しめなかった。ストーリーがあまりにもデタラメすぎる。さまざまな素材が無造作に投げ込まれているが、全体の味はかえって台なしになっている。
極めて精密に動く膨大な虫の群れ(バグズ)のCGの見事さは誰もが認めるだろうが、肝心の虫たちの姿はやぼったい。プラズマ・バグ、ホッパー・バグはCG効果のために作られたのだろう。虫と言うよりは兵器そのものだ。「風の谷のナウシカ」の王虫を百倍猥褻にしたようなブレイン・バグに至っては、空いた口が塞がらない。カマキリを思わせるウォリアー・バグはシャープで気に入ったが、ランカマキリのように優雅な美しさを持ちながら、人間たちをバラバラに解体して捕食すれば、さらに上品になっただろう。
無数のウォリアー・バグと人間たちの闘いで十分だ。監督はどうせ残虐に殺される人間たちを撮りたかっただけなのだから。「ビバリーヒルズ高校白書」以下の無表情な青春コメディを含めて、あとは付け足し。矛盾だらけで現実感など何もない。「ファシズム批判だ」「戦争批判映画だ」という監督の言葉は、映画に出てくる政府のプロパガンダ以上に信用できない。
私家版 |
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1996年度作品。フランス映画。85分。配給アミューズ。監督・脚本ベルナール・ラップ。原作ジャン=ジャック・フィシュラル。音楽ジャン=フィリップ・グード。撮影ロマン・ウィンディング。美術フラン・ノワ・コムテ。衣装アニー・ベルス。編集アナ・バズルコ。キャスト=テレンス・スタンプ、ダニエル・メズギッシュ、マリア・デ・メディシュ、シャン=クロード・ドレフィス、フランク・フィンリー、ハナー・ゴートン、アミラ・カザール
小説家を断念した編集者のエドワード・ラム(テレンス・スタンプ)は、ふとしたきっかけでかつての恋人を自殺に追い込んだ人物が、身近な流行作家であることを発見。別の作家の偽りの「私家版」を巧妙に作り、彼の新作がその本からの盗作であるようにみせかけて、彼を自殺に向かわせる。いかにもイギリス的な悪意と典雅を備えた復讐法だ。テレンス・スタンプは、無言で淡々と準備を進める男の孤独な情念を表現することに成功している。
ラムにとって、流行作家への憎悪は最大限にまで増幅されたはずだ。恋人の自殺の原因であり、その自殺を機に彼は小説を書くことをやめた。流行作家は、くだらない作品ばかりを書きながら人気がある。真相を知るきっかけになった流行作家の作品は、素晴らしい出来栄だった。しかし小説の中では真実は歪められていた。さらに強姦したことを反省していない。創作のきっかけになったと喜んでいるー。復讐を決意するのに十分な条件がそろった。そして復讐は完全犯罪として成功する。ラムに同情し、一緒に成功を喜びそうになるが、彼の復讐には小説家になれなかった者の小説家への嫉妬も含まれていたのではないか。その辺りは、シャーロック・ホームズにでも、鮮やかに解いてもらいたい。
As Good AsIt Gets |
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1997年度作品。アメリカ映画。138分。配給ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。 監督ジェームズ・L・ブルックス(James L.Brooks)。原案マーク・アンドラス。脚本マーク・アンドラス、ジェームズ・L・ブルックス。撮影監督ジョン・ベイリー,ASC.。編集リチャード・マークス,A.C.E。音楽ハンス・ジマー。メルビン・ユドール=ジャック・ニコルソン、キャロル・コネリー=ヘレン・ハント、サイモン・ビショップ=グレッグ・キニア、フランク・サックス=キューバ・グッディングJr.、ビンセント=スキート・ウールリッチ、ビバリー=シャーリー・ナイト、バーデル=ジル
毒舌家で潔癖症の小説家が、ふとしたきっかけで周囲に心を開き、女性を愛するようになるという大人のコメディ・ロマンス。第70回アカデミー賞で最優秀主演男優賞にジャック・ニコルソン、同じく最優秀主演女優賞にヘレン・ハントが選ばれた。たしかに心憎い設定による愛すべき作品ではあるが、それほど傑出した作品といえるかと言えば、否定的にならざるをえない。
新しい味付けはしているものの、結局は納まるところに納まるラブストーリー。ニコルソンにとっては経験の範囲内での演技。ヘレン・ハントも気丈さと人の良さには共感するが、惚れ込むほどの人間味はない。名演技にうなったのは、むしろとても重要な役回りをこなした犬のジルの方だ。表情の的確さは見事。最優秀犬優賞もの。
四月物語 |
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1998年度作品。67分。日本映画。製作・配給=ロックウェルアイズ。監督・脚本=岩井俊二(Shunji Iwai)。撮影=篠田昇。照明=中村裕樹。美術=都築雄二。キャスト=松たか子、田辺誠一、加藤和彦、藤井かほり
松たか子主演の砂糖菓子のような短編。ほのぼのとした映像に甘美なそよ風が吹く。いつもはわざとらしさがつきまとう松たか子の、自然な表情を引き出す演出力に拍手しよう。四月の匂いがただよう住宅街と大学の中で、卯月役の松たか子はすがすがしく前向きに生きていく。大きな事件は何も起こらないが、ほほえましい青春の一ページが心にしみ込んでいく。
しかし「ラブレター」で、あれだけの世界を構築できた岩井監督にとっては、それほど難しい仕事ではなかったはず。むしろ、力を抜いた印象が残った。自前で撮った時代劇「生きていた信長」も十分に遊び心が伝わってこない。「スワロウテイル」のパワーあふれる映像とは、対極的な作風だ。今世紀中には、「PiCNiC」の質感をも取り込んだ大きな岩井ワールドが観たいものだ。
ALIENRESURRECTION |
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1997年度作品。アメリカ映画。107分。配給20世紀フォックス。 監督ジャン=ピエール・ジュネ(Jean-Pierre Jeunet)。脚本ジョス・ウェドン。撮影ダリアス・コンジ,A.F.C.。編集ハーヴ・シナイド,A.C.E.。音楽ジョン・フリゼール。リプリー=シガニー・ウィーバー、コール=ウィノナ・ライダー、ジョーナー=ロン・パールマン、ペレズ将軍=ダン・ヘダヤ、レン=J・E・フリーマン、ゲディマン=ブラッド・ダーリフ、エルジン=マイケル・ウィンコット、ブライエス=ドミニク・ピノン、クリスティ=ゲーリー・ドゥアダン、ディステファーノ=レイモンド・クルツ、パービス=リーランド・オーサー、ヒラード=キム・フラワーズ
ジャン=ピエール・ジュネによるグロテスクな味わいの「エイリアン」。エイリアンとのにらめっこなど独特のユーモアを交えながら、水のシーンでは映像の魔術をみせてくれた。物語の底に流れているのは今日的なテーマであるクローンとハイブリッド化。振り返ってみると、1979年の「1」が「異質な他者との出会い」、86年の「2」が「母性の闘い」、92年の「3」が「自己犠牲による死」と、その時々の切実なテーマが核となっていた。今回は、それらを含みながら「異種融合」がストーリーの根幹にある。テーマを批判する訳ではないが、その方向性は疑問だ。
エイリアンは、もともと寄生した生き物とハイブリッド化する生物で、初代の形態もすでに人間的になっていた。他種の身体に寄生して遺伝子融合し、身体を食い破って成長するというところに、エイリアンの特異性があるはずだ。人間と融合した結果、寄生性を脱ぎ捨ててしまうというのは、エイリアンの遺伝子的な敗北だろう。 だいたい、脱出するためとはいえ、シャープなエイリアンに合議による犠牲死は似合わない。
エイリアンの血を持ち凶暴なはずのクローン・リプリーは、後半になるとすっかり善人になってしまう。失敗したクローンを見て、あんな取り乱すことはない。エイリアンの人間化だけが進行していく。外骨格系エイリアンの自己否定に等しいニューボーン・骸骨エイリアンのデザインは酷い。そして最後に宇宙船に空いた穴から宇宙に散ってしまうのは、「おいおい嘘だろう」というほどのB級アイデアだ。お笑い「エイリアン」にするのなら、ラストの「地球は美しい」という言葉が無神経で 許しがたい。「5」の舞台が地球になるという伏線なのだろう。「エイリアン」もすっかり飼い慣らされてしまったものだ。
ヨーロッパのビザールなテイストとハリウッドのダイナミックさのハイブリットを期待したが、今回は満足のいく成果とはいえない。しかし何度でも試みることだ。クローン・リプリーは8回目に蘇ったのだから。
DOBERMANN |
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1997年作品。フランス映画。105分。配給コムストック。 監督ヤン・クーネン(Jan Kounen)。原作・脚本ジョエル・ウサン。製作フレデリック・デュマ、エリック・ネヴェ。製作総指揮マルク・バシェ。撮影ミシェル・アマチュー。編集ベネディクト・ブリュネ。美術ミシェル・バルテルミー。衣装シャトゥンヌ、ファブ。特殊効果マク・ガフ・リーニュ。音楽スキゾマニアック。ドーベルマン=ヴァンサン・カッセル、ナット・ラ・ジターヌ=モニカ・ベルッチ、クリスチーニ=チェッキー・カリョ、マニョ=ロマン・デュリス、ムス=アントワーヌ・バズレール、神父=ドミニク・ベタンフェルド、レオ=フランソワ・ルヴァンタルソニア=ステファーヌ・メッツゲール、ピットビュル=シック・オルテガ、ルフェーブル=パスカル・ドゥモロン、ボーマン=マルク・デュレ
ヤン・クーネン監督の長篇デビュー作。パンクなCGによるタイトルクレジットから、高らかにコミック的な作品であることを宣言し、ラストまでハイテンションのまま爆走する。計算されたスタイリッシュな構図と暴力的でハチャメチャなストーリーが絶妙に調和。映像のタメとスピードのバランス感覚が、ずば抜けている。監督自らと仲間の監督たちが出演するお祭り感覚とともに、「カイエ・ド・シネマ」で糞をふくという挑発もちゃっかり滑り込ませる悪意が嬉しい。
「フランスの松田優作」と騒がれているヒーローのヴァンサン・カッセルよりヒロインのモニカ・ベルッチの方がギンギンに尖っている。アクション手話も素晴らしい。スーパーモデルもどきの「アパートメント」から、俳優として大きく成長した。スキゾマニアックの音楽も秀抜。興奮を盛り上げ、ラストのクラブでの凄まじい銃撃戦に雪崩れ込む。クラブのデザインも泣かせる。何度でも楽しめる傑作の誕生だ。「エイリアン5」をつくるなら、監督はヤン・クーネンが面白いかも(塚本晋也でもいい)。
theWinterGuest |
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1997年作品。イギリス映画。110分。配給=K2 エンタテインメント。 監督・脚本アラン・リックマン(Alan Rickman)。脚本・原作シャーマン・マクドナルド。撮影シーマス・マクガーヴィー。編集スコット・トーマス。音楽マイケル・ケイメン。エルスペス=フィリダ・ロー、フランシス=エマ・トンプソン、アレックス=ゲイリー・ハリウッド、ニータ=アーリーン・コックバーン、リリー=シーラ・レイド、クロエ=サンドラ・ヴォー、サム=ダグラス・マーフィー、トム=ショーン・ビガースタッフ
俳優アラン・リックマンの監督第1作品。「ドーベルマン」とは対照的な静けさに満ちている。物語としては、ほとんど何も起こらない。しかし、人々が出会うことで人の心が変わっていく。断片的な会話に深い味わいがあり、それがスコットランドの冷え冷えとしながら清清しい風景とマッチして、珠玉の作品となっている。
凍り付いた海が幻想的で美しい。ラストで氷の海を歩くトムが話す「氷の民」という言葉が、心に響く。死と希望。氷の海の二重性。その凍てついた海のシーンがCGだと、パンフレットを読むまで全く気が付かなかった。これ見よがしのCGのオンパレードではなく、こうしたCGの使い方が映画の可能性を広げていくのだろう。
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