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エディット・ピアフ 愛の讃歌 | ![]() |
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オリヴィエ・ダアン監督作品。2007年フランス・チェコ・イギリス合作。エディット・ピアフの波乱に満ちた47年間の生涯を描いた。撮影監督に「大停電の夜に」の永田鉄男を起用。とても、柔らかく繊細な映像になっている。イブ・モンタンとの恋という有名エピソードを削除し、飛行機事故死で幕を閉じたボクサー、マルセル・セルダンとの純愛を中心に置いた意図は理解できるが、ピアフの反ナチ活動、レジスタンスへの貢献までも、まったく描かないのでは、ピアフ像があまりにも薄くなると思う。弱々しさばかりが印象に残る。1947年のアメリカ初公演で出会ったマレーネ・ディートリッヒとの深い交友も活きてこない。 マリオン・コティヤールは、ピアフ特有の激しい感情の起伏を表現し、複雑な性格を見事に演じた。まさに、なりきっていた。一種のトランス状態だ。そして、一見地味だが、本物のピアフの歌声に合わせて歌うプレイバックのシーンも、高く評価しなければならないだろう。驚くほど、ぴったりと合っていた。 |
パンズ・ラビリンス | ![]() |
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1944年のスペイン。内戦で父を亡くしたオフェリアは、母カルメンの再婚相手で独裁者フランコに心酔するヴィダル大尉の元に連れてこられる。子供を宿した母は日に日に衰弱し、孤独と不安の日々を送るうちに、オフェリアはの迷宮へと足を踏み入れ、試練に向かう。 ファンタジーは、あまりにも過酷な現実に対して生み出されるが、この作品は、その切実さを生々しく明らかにしていく。子供も巻き込むスペイン内戦の目を背けたくなる残酷さが、ラストの甘美さを輝かせている。悲劇がそのまま祝福になるマジック。この辺は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラストを連想させる。しかし、それは現実の肯定ではない。そこには深い悲しみが漂っている。血みどろの現実世界を生み出し続ける人間を告発している。 このところ、メキシコ出身の映画監督に勢いがある。「バベル」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督。「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」のアルフォンソ・キュアロン監督。そして「ヘルボーイ」のギレルモ・デル・トロ監督。トロ監督の作品ではカイル・クーパーの見事なタイトルで有名な「ミミック」が素晴らしい。「ブレイド2 」も、悪くなかった。この3人の監督は、2007年に共同で映画製作会社「チャ・チャ・チャ」を設立し、製作を始めている。今後も、目が離せない存在になるだろう。 メキシコ映画には、スペイン内戦で国を離れ、メキシコで多くの作品を生み出したルイス・ブニュエル監督の毒とユーモアが、引き継がれているように感じる。 |
大統領暗殺 | ![]() |
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2006年作品。イギリス映画。監督・脚本・製作=ガブリエル・レンジ。現職のブッシュ大統領の暗殺を仮定した疑似ドキュメンタリー。本物の映像シーンを巧みに組み合わせて虚構を作り上げている。2007年10月19日、アメリカ中部時間20時13分、ジョージ・W・ブッシュ大統領が、シカゴでの演説の際に大規模な反戦デモに遭遇し、会場を去る際に何者かに銃弾を受け暗殺される。そして確たる証拠がないまま、中東系の男性がテロリストとされる。 精密なシミュレーションによって、アメリカの抱える深刻な問題をあぶり出していく。新しい手法による政治サスペンス・ドラマだ。FBI、警察、マスコミなどの危険な実態を検証していく姿勢は、驚くほど手堅い。けっしてキワモノの作品ではない。事実と間違えてしまう作品を示すことで、私たちが信じている事実に、揺さぶりをかける高度な手法。志の高い優れた作品だ。 2006年9月10日、トロント国際映画祭で上映され、国際批評家賞を受賞。イギリスでは劇場公開はされず、劇中での暗殺日の1年前に当たる2006年10月19日にチャンネル4で放映された。全米では2006年の10月27日に公開。500館以上の劇場で公開される予定だったが、圧力により91館という限定された劇場での公開を余儀なくされた。2007年3月に公開されたイタリアでも、予定されていた劇場のうち30%が上映を辞退するなど、世界各国で物議をかもしている。 日本でも、社会問題化した。最初「ブッシュ暗殺」という邦題で発表された。しかし、その邦題とポスターが映倫で「審査不可能」とされた。映倫によると「あらゆる国の主権を尊重し、元首、国旗、国家及び民族的習慣の取り扱いには注意する」という条項に抵触すると判断した。配給会社のプレシディオでは、1982年に公開された「食人大統領アミン」を例にあげ、「ブッシュ暗殺」という邦題での審査通過を交渉したが、却下された。映倫の審査が通らないと劇場での公開はかなり難しく、ほぼ全ての映画館で上映を拒否される。このため、やむなく邦題を「大統領暗殺むに変更し、ポスターもブッシュだと認識できないようにした。 |
ショートバス | ![]() |
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ニューヨークを舞台に、人とのつながりや愛を求めてさまよう男女7人の姿を見つめたドラマ。監督は前作「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」が大絶賛されたジョン・キャメロン・ミッチェル。9・11以降の傷ついたニューヨークの人々に温かなまなざしを向ける。真正面から表現しているが、映像は柔らかい。「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」が、怒りに満ち、とげとげしかったのとは対照的。人間の孤独とつながりというテーマは深められているが、映画としての魅力は薄められた。温かな気持ちになるが、衝撃は少ない。 |
ヘアスプレー | ![]() |
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ダンスと歌の大好きな女子高校生トレーシーが元気に歌う「グッドモーニング・ボルチモア」で、唐突に始まる。そして、ボルチモアの1960年代の風景が、音楽とともに切り取られていく。素敵な映画に出会えそうな予感が広がる。肥満差別や黒人差別との闘いという骨太のデーマを貫きながらも、次々と繰り出される軽快な歌とダンスで十二分に楽しませてくれる。登場人物がみんな生き生きしている。楽しさと主張が共存している。 トレーシー役の新人ニッキー・ブロンスキーは、屈託なく可愛い。母親役のジョン・トラボルタが、チャーミングな演技を披露する。父親役クリストファー・ウォーケンとのデュエット「タイムレス・トゥ・ミー」は、ベテラン二人の見せ所。悪役のミシェル・ファイファーは、「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」のうまさを思い出させてくれる。そして、クライマックスの「ユー・キャント・ストップ・ザ・ビート」は、最高の盛り上がり。クイーン・ラティファの歌のうまさにしびれた。 この映画は、ジョン・ウォーターズ監督の「ヘアスプレー」がミュージカルになり、そのミュージカルをさらに映画化したもの。ここまで、楽しくみせてくれれば、大満足。そこかしこに、毒が隠してあるところも、なかなか良い。ジョン・トラボルタが演じた母親役をジョン・ウォーターズ作品で演じたのは「ピンク・フラミンゴ」「フィメール・トラブル」のディヴァイン。この作品が遺作となった。 |
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