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2007.6

 憑神(つきがみ) 「憑神(つきがみ)」の画像です

 「鉄道員(ぽっぽや)」の原作・浅田次郎と監督・降旗康男が、8年ぶりにタッグを組んだ幕末人情喜劇。今風に言えば、ニート状態のしがない下級武士・別所彦四郎が、出世を願って神様にお祈りするが、間違って貧乏神、疫病神、死神という災いの神に取り憑かれてしまう。その災難と闘いながら、自分の生き方を見つけていく。

 多彩な登場人物たちの、掛け合い漫才のような会話の面白さに、幾度となく笑った。会話のテンポが心地よい。ベテラン俳優たちの、力の抜けた演技が光る。母・トイ役の夏木マリ、そば屋役の香川照之、そして主人公の兄・別所左兵衛役・佐々木蔵之介の、いかにもだらしない仕草もうまい。イメージと全く逆の神様を演じた西田敏行、赤井秀和は、まずまず。西田敏行の悶え演技に笑わされた。しかし死神役の少女・森迫永依(もりさこ・えい)には、舌を巻いた。9歳にして、この演技力。そして、かわいすぎる笑顔。彦四郎と心を通わせていく場面は、最高に魅力的だった。

 最後に原作者の浅田次郎が登場し、物語を現代につなぐ趣向は、失敗に終わった。それまでの作品の雰囲気を壊してしまった。ただ、主題歌の米米CLUB「御利益」は、映画の雰囲気とぴったり合っていた。エンドロールを気持ちよく眺めることができた。


 ラブデス 「ラブデス」の画像です

 「LOVEDEATH ラブデス」は、北村龍平監督の自主映画。原作・プロデュースはマンガ家・高橋ツトム。人の一生にはターニングポイントとなる日「クリサリス・デイ」がある。その日を乗り切ろうとするサイとシーラの物語だが、ストーリーは暴走を続ける。このハイテンションな狂乱ぶりこそ、北村作品の初心だ。しかし、「ヴァーサス」のような畳み掛けるアクションシーンの連続はない。むしろ、くだらないギャグが、繰り返されていく。インディーズ映画の醍醐味である悪ふざけだ。それを、多彩な俳優たちが嬉々として演じている。寒いギャグも少なくないが、158分間飽きることはない。

 サイを演じる武田真治は、ワイルドで安定感がある。映画初出演でヒロインに抜擢されたNorA(ノーラ)は、北村監督好みのエロティックで濃厚な存在感がある。ヤクザの組長クロガネ役の船越英一郎の怪演に注目が集まっているが、むしろ刑事役の六平直政のぶっ飛んだ演技こそ、注目されていい。数々の怪演の中でも、特筆すべき怪演だ。

 エンドロールで、ヤクザたちの宴会シーンが流れる。そこでハウンド・ドッグのボーカル大友康平が熱唱する場面が一番笑えた。内紛が続くハウンド・ドッグは、どこへいく。  この作品は、ハリウッド進出前の北村監督最後の日本映画ということだが、この桁外れな才能が、ハリウッドのこうかつな連中によって骨抜きにされないことを祈るばかりだ。


 ゾディアック 「ゾディアック」の画像です

 1960年代末から1970年代にかけてアメリカを深く震撼させた歴史的な劇場型の猟奇殺人「ゾディアック事件」。ゾディアックと名乗る犯人は、複数の新聞社に謎の暗号文を送付し、「新聞に載せないと大量殺人を決行する」と脅して紙面に暗号文を掲載させた。サンフランシスコ・クロニクル紙の記者エイブリーと風刺漫画家グレイスミス、サンフランシスコ市警の刑事トースキーとアームストロングは、事件の真相に迫ろうとして、自らの運命を狂わされていく。

 デビッド・フィンチャー監督は、事件の全体を徹底的にリサーチし、ドキュメンタリーのような正攻法で作品を練り上げていく。推理し調査し挫折する。その繰り返しが描かれていく。興奮と疲労の連続。そこに、フィンチャー監督らしい派手な表現は登場しない。しかし、147分間、片時も緊張の糸は途切れなかった。見事な脚本と編集の賜物だが、映像の力も見事だ。そして、登場人物たちとともに、静かに深く事件に翻弄されていく。それは、「セブン」とは別の新しい次元のフィンチャー・マジックだ。

 ブライアン・デ・パルマ監督の「ブラック・ダリア」のように、とってつけたような真相を持ってくることなく、作品は複数犯を暗示して終わる。事件解決のカタルシスはないが、作品としての品格は、鮮やかに残った。地味に見えながら、難易度の高い奇術だ。


 300 「300」の画像です

 紀元前480年、100万のペルシア大軍を300人のスパルタ軍が迎え撃ったという伝説的「テルモピュライの戦い」を基にしたフランク・ミラーのグラフィック・ノベルを斬新なビジュアルで映画化した。しかし、映像処理は「シン・シティ」の延長線にあり、それほど感動しない。

 ストーリーは、豪腕殺戮ばかりで、ひねりがない貧相な作品。戦争による殺戮シーンの連続だが、タブーへの挑戦ではない。紀元前という安全な場所での姑息な表現にすぎない。スパルタの民主主義と自由を守るという大義名分を掲げているが、肝心のスパルタに民主主義と自由が感じられない。レオニダスはペルシアの交渉人を惨殺し、戦争を挑発していた。戦死を美徳とする男たちの自己満足にしかみえない。アメリカのイラク戦争を背景にした戦意高揚映画と言われても、反論できないのではないか。

 こういうタイプの映画にありがちな障害者差別、ゲイ差別の匂いもする。しかし、スパルタの王レオニダスよりも、ペルシア大王クセルクセスの方が魅力的に見えたのは、私だけだろうか。そして、エンドロールのアニメが、とても良いセンス。この凡庸な作品は、最後のアニメの斬新な表現に、少し救われた。


 プレステージ 「プレステージ」の画像です

 世界幻想文学大賞を受賞したクリストファー・プリーストの『奇術師』を、「メメント」のクリストファー・ノーラン監督が映画化した。19世紀末のロンドンを舞台に、二人の天才マジシャンの壮絶な野心と復讐心を執拗に描き出す。主演はヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベイル。共演はスカーレット・ヨハンソン、マイケル・ケイン、デヴィッド・ボウイ。

 華麗で洗練されたパフォーマンスで魅せる“グレート・ダントン”ことロバート・アンジャーと、天才的なイマジネーションあふれるトリックメイカー“THE プロフェッサー”ことアルフレッド・ボーデン。ライバル関係にある2人のマジシャンは、イリュージョンの腕を競い合っていた。しかし、アンジャーの妻が脱出マジックに失敗し命を落とす。彼女の縄を縛ったのがボーデンだったため、アンジャーはボーデンへの復讐に燃える。ここから、復讐の連鎖が始まる。

 これでもか、これでもかと続く復讐劇。観ていてだんだん陰鬱な気持ちになる。二人とも野心と復讐心の固まりで、共感できない。女性たちの行動も、理由は分かるがしっくりこない。ただ、暗い物語の中で、スカーレット・ヨハンソンの存在は、映画に華やかさを添えていた。デヴィッド・ボウイは、変な科学者役で登場。残念ながら、あまり妖しい魅力を感じない。

 映画の最初で監督に「結末は誰にも言わないで」とお願いされたが、こんな禁じ手のような、結末は誰にも言えない。この作品はミステリーではなく、SFだ。


 監督・ばんざい! 「監督・ばんざい!」の画像です

 北野武の監督、脚本、編集。得意の暴力映画を撮ることをやめたキタノ・タケシ監督が、恋愛、SF、ホラー、忍者映画など、さまざまなジャンルの作品を作ろうとして挫折する過程をコミカルに描く。

 映画のジャンルを超えた実験作などではなく、「ひょうきん族」などのTV時代のギャグに回帰した作品だと思う。下品で、ばかばかしい。ずっこけの連続。岸本加世子、大杉漣、寺島進、渡辺哲という常連たちだけでなく、江守徹、宝田明、藤田弓子、内田有紀、木村佳乃、鈴木杏、松坂慶子という俳優たちも参加して、バカ映画を盛り上げている。中でも、江守徹と鈴木杏の演技は、突き抜けていて笑えた。「三丁目の夕日」への辛辣な批判、ラーメン屋でのプロレスバトルは、見応えがあった。ただ、全体としては、観客席でも「ずっこける」レベルの作品だ。

 カンヌ国際映画祭60回記念企画「To Each His Own Cinema」で「世界の映画監督35人」に日本人で唯一で選ばれた北野武作品も見たが、作品の意図がつかめなかった。懐かしい場末の映画館を見せれば良いという訳ではないだろう。


 
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