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 リーベンクイズ(日本鬼子)  「リーベンクイズ(日本鬼子)」の画像です

 2000年作品。日本映画。160分。配給=イメージフォーラム。監督・製作=松井稔。製作=小栗謙一。撮影=小栗謙一。音楽=佐藤良介。ナレーション=久野綾希子。出演=土屋芳雄、永富博道、篠塚良雄、船生退助、絵鳩毅、鹿田正夫、鈴木良雄、金子安次、榎本正代、湯浅憲、小山一郎、富永正三、久保田哲二、小林武司


 日中15年戦争で、日本軍が日常的に行っていた多くの残虐行為を、加害者である元日本兵士が、告白したドキュメンタリー作品。「ゆきゆきて神軍」(原一男監督)のように、追い込んで告白させるのではなく、当事者が自分の意志で語っているということの意味は大きい。大変に貴重な記録である。そして、すぐれた作品である。多義的で、さまざまなとらえ方ができる。戦争にともなう残虐行為は、日本軍だけのことではないが、近代戦では極端にひどかったといえる。

 「中国に洗脳されて嘘を話している」という見方もあるようだが、実際にこの作品を見れば、紋切り型ではないリアリティに打ちのめされるだろう。当事者でなければ、なしえない語り口が、そこにある。証言した14人は、みな犯罪的な行いをしていた。しかし、深刻ぶって話す人は少ない。むしろ、淡々と、ときに笑いすらする。「娘を犯して、殺して、食べたんです」と言って「へへへ」と、笑うのだ。

 私は、まだ告白した人たちへの評価が定まらない。非難も美化もしたくない。長い年月を経て、今話し始めた気持ちを、なんとか理解しようとしている。そして、何故そうしたのかを。平凡な生活を送っていた彼等が、何故「子どもをたき火の中に投げ込んで笑っていられる」心境になるのか。楽し気に農家を焼きつくし、女性を強姦し、遊びのように次々に兵士でない人々を殺すことができたのか。

 「女を見て強姦、人を見て殺し、物一つ奪えなくては、戦友から仲間はずれにされた」という証言に引き付けられた。仲間はずれになることが怖くて、最初は嫌々残虐行為に参加し、やがて面白く感じ、日常化していった。軍隊という組織が人間を変える典型的なパターンだ。ここにも、戦争の恐ろしさのひとつがある。

 もちろん、戦争のむごさは、このような行為だけにとどまるものではない。戦争そのものが、十二分にむごいものだ。過去から現在まで連綿と続いている戦争という愚行を思う時、理想主義的に見られがちな憲法9条が、現実を鋭く見つめた現実的な決意であることが分かる。製作者の意図よりも、おそらくはさらに深く、戦争という愚行を再認識させる力がある。見たら、二度と忘れることのできない作品だ。


 KT  「KT」の画像です

 2002年作品。日本=韓国合作。138分。配給=シネカノン。監督=阪本順治。原作=中薗英助『拉致−知られざる金大中事件』(新潮文庫刊)。脚本=荒井晴彦。音楽監督=布袋寅泰。ゼネラルプロデューサー=李鳳宇。プロデューサー=椎井友紀子。アソシエイトプロデューサー=石原仁美。撮影=笠松則通。録音=橋本文雄。美術=原田満生。照明=松隈信一。編集=深野俊英。スクリプター=今村治子。装飾=大光寺康。衣裳=岩崎文男。メイク=豊川京子。主題歌=「FROZEN MEMORIES」布袋寅泰(東芝EMI)。製作=『KT』製作委員会。富田満州男=佐藤浩市、金車雲(キム・チャウン)=キム・ガプス、金大中(キム・デジュン)=チェ・イルファ、金甲寿(キム・ガプス)=筒井遺隆(つつい・みちたか)、李・政美(イ・ジョンミ)=ヤン・ウニョン、金俊権(キム・ジュングォン)=キム・ビョンセ、押川昭和(かみかわ・しょうわ)=原田芳雄、塚田昭一=大口ひろし、高島俊子=中本奈奈、趙勇俊=平田満、金君雄=木下ほうか


 1973年8月8日に起こった金大中氏拉致事件をテーマにした本格的な政治サスペンス。日韓の政治に深く関わる事件だけに、その映画化は衝撃的だった。まさに、今でしかなし得ないタイミングを見事につかんで、ワールドカップに先駆けて公開された。確かに、骨太な政治ドラマである。手ごたえがある。しかし、登場人物の背景を描くことで、社会的な問題をあぶりだすというかつての手法が使われるわけではない。それぞれの境遇は、簡単に語られるだけだ。政治を利用しようとして、政治にほんろうされる男たちの姿が、冷えたタッチで描かれていく。

 人間の生きざまを描いた作品なら、別な感触になったはずだ。富田満州男(佐藤浩市)と押川昭和(原田芳雄)の会話の中で「狼と豚」という比喩が出てくる。あまり良い比喩とは言えないが、何かの主義や目的のために鮮やかな瞬間を目指して生きるのか、大きな目的に殉じることなく日々を楽しみ自分のために生きるのか。この生き方の選択は、戦後の大きなテーマだが、ごく軽く触れられるだけだ。娯楽作を目指したのだから仕方がない。布袋寅泰の音楽は、最初、あまりに芸がなくてへきえきさせられたが、クライマックスでは的確な効果を上げていた。


 紅色の夢  「紅色の夢」の画像です

 1997年作品。日本映画。87分。配給=東北新社。監督・脚本=中田昌宏。製作=植村徹。企画=小坂憲一、田辺隆史。原作=花村萬月(「紅色の夢」徳間書店刊)。プロデューサー=竹本克明、公野勉、新井英夫。音楽=神尾憲一。撮影=伊藤嘉宏。照明=上島忠宣。美術=山本正。SFXプロデューサー=岡野正広。愛子=夏生ゆうな、貴子=冴木かおり、天馬=村上淳、細川=山崎一、女医=八木亜希子、信子=佐々木ユメカ、山城=藤田敏八、教授助手=入江雅人


 久しぶりに掘り出し物に出会った。姉の腹部にあるケロイド状の傷によって結び付けられた姉妹の残酷で耽美的な愛を描いた佳作。数々の幻想シーンが、わざとらしくならず、二人の情念を的確に描いていて、凄みがある。このような優れた作品が、長く劇場公開されなかったことが、とても残念だ。今回も短期間の特別公開だった。花村萬月の初期の傑作を見事に映像化していた。

 何といっても、姉・貴子役の冴木かおりの演技が素晴らしい。奔放にふるまい、男たちを幻惑するが、心の深いところで妹に依存している弱さを鋭く認識した演技だ。妹・愛子役の夏生ゆうなは、これまであまり感心したことがなかったが、今回は自然な演技で好感が持てた。壊れそうな感性の底にある強靱な意志を表現していた。そして、特筆すべきは、老画家として登場する藤田敏八の演技。狂おしい老境の心理にうたれた。藤田敏八は、1997年8月29日、65歳で肺ガンのために死去。この作品が遺作になった。


 ハッシュ!  「ハッシュ!」の画像です

 2001年作品。日本映画。135分。配給=シグロ。監督・原作・脚本=橋口亮輔 。撮影=上野彰吾。照明=矢部一男。録音=高橋義照。整音=斉藤禎一。美術=小川富美夫。装飾=大坂和美。スクリプター=西岡容子。衣装=宮本まさ江。ヘアメイク=豊川京子。キャスティング・プロデューサー=上田直彦。音楽=ボビー・マクファーリン。栗田勝裕=田辺誠一、長谷直也=高橋和也、藤倉朝子=片岡礼子、栗田容子=秋野暢子、長谷克美=冨士眞奈美、栗田勝治=光石研、永田エミ=つぐみ、マコト=沢木哲


 「渚のシンドバッド」から5年、やっと橋口亮輔監督の新作が完成した。これまでの作品も、ゲイの世界を超えた広がりを持っていたが、今回の作品は、各世代にまたがるさまざまな人間関係のあり方を鋭く問いながら、さらに大きな世界を描いていた。しかも、コミカルさを十分に生かして。笑いに包まれるラストの軽さと、その先に予想される試練の重さ。この軽さと重さの共存こそ、「ハッシュ!」の新しい魅力である。

 秋野暢子、冨士眞奈美といったベテランを起用したことが、作品に新鮮な奥行きをもたらした。主人公・藤倉朝子役の片岡礼子は、鬼気迫るほど役にはまり込んでいた。人生を諦めようとしながら、それに耐えられずに荒んでいく生活を、全身で鮮烈に演じている。田辺誠一、高橋和也もなかなかの好演だった。


シアターキノ・5月6日プレミア上映会での橋口亮輔監督トーク(RA形式)

橋口亮輔監督
pin上映前にあいさつする橋口亮輔監督
pin今後の予定について話す橋口監督


 アナトミー  「アナトミー」の画像です

 2000年作品。ドイツ映画。99分。配給=ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント。監督・脚本=ステファン・ルツォヴィツキー。製作=ヤコブ・クラウセン、トマス・ヴュブケ、アンドレア・ウィルソン。撮影=ぺ一夕ー・フォン・ハラー、BVK。音楽=マリウス・ルーランド。キャスティング=ネジー・ネスラウアー。セット・デザイン=イングリド・ヘン、SFK。解剖室デザイン=アンドレアス・ドンホイザー、レナーテ・マルチィン。編葉=ウエリ・クリステン。衣装=ニコーレ・フィッシュナラー。メーキャップ=ステファニー・ヒルケ。SFXメーキャップ=マジコン=ヨアヒム・グリュニンガー、ビルガー・ラウベ。パウラ=フランカ・ポテンテ、ハイン=ベンノ・フェルマン、グレッチェン=アンナ・ロース、カスパー=セバスチャン・ブロムヘルグ、フィル=ホルガー・スペックハーン、グロムベック教授=トウラゴッド・ブーレ、デイヴィッド=アルンドゥト・シュヴェリング=ゾーンレイ、ルートヴィヒ=オリバー・K・ヴヌク、フランツ=アンドレア・ギュンター、ガビ=アントニア・ケシリア・ホルフェルダー、パウラの父=リューディガー・フォークラー、パウラの母=バーバラ・マグダレーナ・アーレン、パウラの祖父=ヴェルナー・ディーゼル


 冒頭から始まるエロティックでショッキングなシーンの連続、青春映画のつぼを心得たストーリー展開、メタリックで明るく統一された美術、そしてナチスからの歴史を引きずっているドイツ医学への批判。生体解剖をテーマにしたキワモノ系のB級ホラーだと思っていたが、なかなかの水準だった。ドイツでヒットしたわけだ。ステファン・ルツォヴィツキー監督の音楽を含めたセンスの良さは、これからが楽しみ。「2」も製作するらしい。

 治療よりも研究を重視する医学界の秘密結社「AAA!」。ナチスドイツの時に隆盛を極めた。ナチスの人体実験は、これまで社会派映画でもB級エロティック映画でも多く登場したが、この作品では独特な取り上げられ方をしている。本物の死体から水分を取り除き樹脂を注入して保存するプラスティネーションの強烈な美しさが、「AAA!」のメンバーを狂わせ、生体解剖したプラスティネーションの製作にのめり込ませる。生きながら解体されて模型に組み立てられる恐怖。猟奇的なテーマだが、全体に重苦しくない。ときに、青春映画の明るさ、清清しさ、ユーモアさえ感じさせる。最初の場面、死体が並ぶ解剖教室で響きわたる学生たちの明るい笑い声が、いつまでも耳に残った。


 スパイダーマン  「スパイダーマン」の画像です

 2002年作品。アメリカ映画。130分。配給=ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。監督=サム・ライミ。製作=イアン・ブライス、ローラ・ジスキン。製作総指揮=アビ・アラド、スタン・リー。脚本=デビッド・コープ、サム・ライミ、スコット・ローゼンバーグ、アルヴィン・サージェント。ストーリー=ジェームズ・キャメロン。撮影=ドン・バージェス。編集=アーサー・コバーン、ボブ・ムラウスキー。音楽=ダニー・エルフマン。SFX=デジタル・ドメイン、ILM、イメージ・ワークス。特殊効果スーパーバイザー=ジョン・ダイクストラ。特殊効果=カレン・E・ゴーレカス。プロダクションデザイン=ニール・スピザック。衣装デザイン=ジェームス・アチソン。スパイダーマン/ピーター・パーカー=トビー・マグワイア、グリーン・ゴブリン/ノーマン・オズボーン=ウィレム・デフォー、メリー・ジェーン・ワトソン=キルスティン・ダンスト、ハリー・オズボーン=ジェイムズ・フランコ、J・ジョナ・ジェイムソン=J・K・シモンズ、ボーン・ソウ・マグルー=ランディ・ポッフォ、バーグラー=マイケル・パパジョン、フラッシュ・トンプソン=ジョー・マンガニエロ、ホフマン=テッド・ライミ、ベン・パーカー=クリフ・ロバートソン、リング・アナウンサー=ブルース・キャンベル


 遺伝子操作で生まれた蜘蛛に噛まれて身体が変化し、悩みつつもその能力を生かして正義のために活躍する庶民的ヒーロー・スパイダーマン。生誕40周年の今年、初の実写版としてスクリーンに登場した。滑空感あふれるアクションと純情さあふれる青春恋愛が、とてもバランス良く溶け合っている。気持ち良く引き込まれ、はらはらし、すっきりと終わる。エンターテインメントの鏡のような作品。サム・ライミ監督は、すっかり職人タイプの監督になった。

 スパイダーマンに親しみやすいトビー・マグワイアを起用したのは、正解だった。等身大のヒーロー役としては、彼のようなタイプが向いている。そして、恋人メリー・ジェーン・ワトソン役のキルスティン・ダンストも、最初は地味すぎる感じがしたが、ピーターへの愛に気づき始めるころから、キュートさが増してくる。スパイダーマンとメリーの逆さまキスシーンは、映画史に残る名場面になるかもしれない。そして、グリーン・ゴブリンを演じたウィレム・デフォーは、「バットマン」のジャック・ニコルソンに匹敵する存在感だった。すでに、サム・ライミ監督での「2」製作が決まっている。


 アザーズ  「アザーズ」の画像です

 2001年作品。アメリカ・スペイン・フランス合作。104分。配給=ギャガ・ヒューマックス共同。監督・脚本=アレハンドロ・アメナーバル。プロデューサー=フェルナンド・ボヴァイラ、ホセ・ルイス・クエルダ、サンミン・パーク。エグゼクティブ・プロデューサー=トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー、ボブ・ウェインスタイン、ハーヴェイ・ウェインスタイン、リック・シュワルツ。撮影=ハビエル・アギーレサロベ。ライン・プロデューサー=エミリアーノ・オテグール 、ミゲール・アンヘル・ゴンザレス。美術=ベンジャミン・フェルナンデス。音楽=アレハンドロ・アメナーバル。録音=リカルド・スタインバーグ。編集=ナチョ・ルイス・カピージャス。衣装=ソニア・グランデ。アソシエイト・プロデューサー=エドゥアルド・チャペロ-ジャクソン。 特殊効果=フェリックス・ベルゲス。 グレース=ニコール・キッドマン、ミセス・ミルズ=フィオヌラ・フラナガン 、チャールズ=クリストファー・エクルストン、アン=アラキナ・マン 、ニコラス=ジェームズ・ベントレー 、ミスター・タトル=エリック・サイクス 、リディア=エレーン・キャシディ、 老婆=ルネ・アシャーソン 、ビクター=アレクサンダー・ビンス 、ミスター・マリッシュ=キース・アレン ミセス・マリッシュ=ミッシェル・フェアリー、付き人=ゴードン・レイ


 1945年、第2次世界大戦末期の英国ジャージー島を舞台にしたゴシック・ホラー。これ見よがしのショッキングなシーンを一切排し、古典的な手法で静かに、手堅く恐怖を膨らませていく。戦場に行った夫を待つ妻グレースの2人の子どもが、日光アレルギーだという設定が効いている。闇と光による自在な演出が可能になった。怪奇現象から2人の子どもを守ろうとするグレースを、ニコール・キッドマンが、見事なまでに演じている。古典的な舞台には、端正な美女が似合う。

 物語は、視点の移動によって、あっと驚く結末を迎える。しかしながら、「シックス・センス」のように結末を教えるなと言うような、了見の狭さはない。結末のどんでん返しが分かっていたとしても、ストーリーの切なさは変わらない。戦争にほんろうされた女性の悲しみが、研ぎすまされた映像から伝わってくる。怖いと言うよりも哀れな物語である。


 
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