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2005.1

 ヴィタール 「ヴィタール」の画像です

 2004年作品。日本映画。86 分。配給=ゼアリズエンタープライズ。監督=塚本晋也。製作=塚本晋也。プロデューサー= 日下部圭子、日下部孝一、朱京順。脚本=塚本晋也。撮影監督=塚本晋也。美術監督=塚本晋也。編集=塚本晋也。音楽=石川忠。エンディングテーマ曲=Cocco「blue bird」。音響効果=北田雅也。照明=吉田恵輔。録音=小原善哉。高木博史=浅野忠信、涼子=柄本奈美、吉本郁美=KIKI、柏淵教授=岸部一徳、大山三郎=國村隼、高木隆二=串田和美、高木慎子=りりィ、大山のり子=木野花、中井教諭=利重剛


 全身を揺さぶられる暴力的な塚本作品のファンにとっては、あまりにも静かな展開が物足りないかもしれない。人体解剖という生々しいテーマを扱っていながら、この作品の基調は叙情的で幻想的だ。身体に包まれた「意識」の不思議さ、「記憶」の不思議さを手探りしている。そして肉体の「もろさ」と「かけがえのなさ」が、個々人の存在の「もろさ」と「かけがえのなさ」を浮かび上がらせる。映像の静ひつな美しさが、死への思索を促す。煙突のシーンは、かつての力強い塚本映像だが、不要に感じた。

 これまでの塚本作品には不釣り合いな雰囲気の浅野忠信だが、今回は不思議なオーラが新しい塚本映画の誕生に貢献している。そして塚本監督は浅野忠信の不気味さを見事にえぐり出していた。クラシック・バレリーナの柄本奈美のキレの良い踊りが、作品の広がりを支えている。モデルのKIKIも尖った存在感を見せた。

 塚本監督は「鉄男」から「双生児(GEMINI)」まで手回しのフィルム編集機を使ってきたが、今回初めてFinal Cut Proでデジタル編集した。これまでは4カ月かかっていた編集作業が1日で終わったとか。音と絵のシンクロが非常に簡単にできるなど、1人で編集全体が進められるので、とても効率的だったらしい。これまでもかなりの部分を手掛けてきたが、Final Cut Proでは「スタッフゼロ」で作品が創り出せる。「このままだと自分のやりたい映画が一生のうちにできない」とデジタル編集を始めた塚本監督。これまで以上のペースで新作に出会えそうだ。


 シルヴィア 「シルヴィア」の画像です

 2003年作品。イギリス映画。110分 。配給=ザナドゥ エレファント・ピクチャー。監督=クリスティン・ジェフズ(Christine Jeffs)。製作=アリソン・オーウェン。脚本=ジョン・ブラウンロウ。撮影=ジョン・トゥーン。編集=タリク・アンウォー。作曲=ガブリエル・ヤレド。音響デザイン=デヴィッド・クロージア。美術デザイン=マリア・ジャーコヴィク。衣装デザイン=サンディ・パウウェル。メイクアップ=レベッカ・ラフォード。ヘアデザイン=ケイ・ジョルジオ。シルヴィア・プラス=グウィネス・パルトロー(Gwyneth Paltrow)、テッド・ヒューズ=ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)、 オーレリア・プラス=ブライス・ダナー(Blythe Danner)、 トーマス教授=マイケル・ガンボン(Michael Gambon)、アル・アルヴァレス=ジャレッド・ハリス(Jared Harris)、 アッシア・ウェヴィル=アミラ・カサール(Amira Casar)


 30歳で自殺したピュリッツァー賞作家・女性詩人シルヴィア・プラスの生涯を描いた作品。アメリカの上流家庭に育ちながらも、早くに父を亡くしファザーコンプレックスを克服していない。10代で文学的才能が認められ、優れた詩人になるべくケンブリッジに入学し、イギリス人大学院生テッド・ヒューズの詩に感動。交際が始まり、やがて結婚する。テッドは詩人として有名になるが、シルヴィアは創作の時間が少なくなり、テッドの女性関係に対してさい疑心が強くなる。苦しい経験を通じて力強い詩が創造される。しかし、やがて精神状態は限界を超える。

 芸術家どおしの結婚が悲劇に終わりやすいことは、容易に想像できるが、シルヴィア・プラスの場合はファザーコンプレックスという底流があった。作品は、比較的静かに進んでいく。そこから芸術家の苦悩を読み取れるかどうかで、評価が分かれる。グウィネス・パルトローとしては、名演技の部類だろうが、美しくて恐ろしい詩を書いたシルヴィア・プラスの凄みには欠ける。


 パッチギ! 「パッチギ!」の画像です

 2004年作品。日本映画。119分 。配給=シネカノン。エグゼクティブプロデューサー=李鳳宇。原案=松山猛「少年Mのイムジン河」。脚本=羽原大介、井筒和幸。監督=井筒和幸。音楽=加藤和彦。撮影=山本英夫、金田克美。照明=高村智。録音=白取貢。編集=冨田伸子。松山康介 (府立東高2年生)=塩谷瞬(しおや・しゅん)、リ・アンソン (朝鮮高校3年生)=高岡蒼佑(たかおか・そうすけ)、リ・キョンジャ (朝鮮高校2年生/アンソンの妹)=沢尻エリカ(さわじり・えりか)、桃子 (アンソンの彼女)=楊原京子(やなぎはら・きょうこ)、モトキ・バンホー (朝鮮高校3年生/アンソンの親友)=波岡一喜、チョン・ガンジャ (朝鮮高校3年生)=真木よう子、吉田紀男 (府立東高2年生/康介の同級生)=小出恵介、チェドキ (朝鮮高校2年生/アンソンの弟分)=尾上寛之、坂崎 (康介に「イムジン河」を教える坂崎酒店の若主人)=オダギリジョー、布川先生 (康介と紀男の担任)=光石研


 おおらかで暴力的な熱血青春映画。とにかく面白いが、しっかりとした歴史観に支えられた傑作だ。「ガキ帝国」の初心に帰りながら、痛苦な歴史を省みない日本の現状をも批判している。その姿勢には共感できる。

 グループ・サウンズ全盛の1968年が舞台。いきなり失神シーンが登場し笑わせる。次は京都府立東高校の空手部と朝鮮高校の番長・アンソンらによる乱闘シーン。激しくぶつかり合い血が飛ぶ。主人公の松山康介は、アンソンの妹でフルートが得意なキョンジャに心を奪われる。そして彼女が奏でる美しい曲が「イムジン河」という朝鮮半島に思いをはせた歌だと、音楽に詳しい坂崎に教えられる。康介は、ギターの弾き語りで「イムジン河」を練習し、朝鮮語の独学を始める。そして日本と朝鮮の歴史に目覚めていく。この辺の展開は、スムーズで無理がない。さすが熟達な井筒和幸監督である。坂崎役のオダギリジョーは、相変わらず軽妙で魅力的。松山康介を演じた塩屋瞬は、すがすがしい姿が印象的だった。


 北の零年 「北の零年」の画像です

 2004年作品。 日本映画。168分。配給:東映。監督:行定勲(ゆきさだ・いさお)。脚本:那須真知子。撮影:北信康。照明:中村裕樹。美術:部谷京子。装飾:大庭信正。録音:伊藤裕規。編集:今井剛。VFXプロデューサー:尾上克郎。小松原志乃=吉永小百合、アシリカ=豊川悦司、馬宮伝蔵=柳葉敏郎、小松原多恵=石原さとみ、小松原多恵(少女時代)=大後寿々花、馬宮加代=石田ゆり子、持田倉蔵=香川照之、小松原英明=渡辺謙、稲田家家老=石橋蓮司、モノクテ=大口広司、政府役人=田中義剛


 明治維新により、故郷を追われ、北海道移住を命じられた淡路・稲田家の武士とその家族の苦闘を描く上映時間168分の大作。吉永小百合111本目の出演作としても話題になった。ストーリーに粗さがあるものの、観終わって、確かな感動が残る。ただし北海道開拓の過酷さをリアルに再現した群像ドラマと呼ぶことには抵抗がある。むしろ気高い女性たちへの賛歌を寓話的に歌い上げていると言った方がいい。脚本は「デビルマン」の那須真知子。今回も、一歩間違えば大駄作になりかねない奇妙な脚本だ。しかし、それを厚みのある映像にした行定勲の力量は、相当なものだ。歴史大作にありがちな、図式的な単純化を避け、錯綜し奥行きのある作品に仕上げた。物語の背景にアイヌ民族の懐の深さ、知恵の深さを感じさせるのも、素晴らしい。

 さすが大女優・吉永小百合には、凛とした存在感がある。顔のアップがなければ年令は気にならない。それにしても渡辺謙が、こんな汚れ役を演じるとは思わなかった。彼が演じたことで、単なる悪役には見えなかった。志乃の娘・多恵の役は、少女時代が大後寿々花、思春期が石原さとみ。二人ともなかなか良い演技を見せた。そして、迫力あるクライマックスでの馬たちの大熱演も書き留めておこう。

 エンドロールには、夕張でのロケを切望していた中田鉄治・前市長の名前が流れ、別の深い感慨にも包まれた。エンドロール全体に、ロケ地で協力してくれた人たちへの感謝の思いがあふれていた。


 お父さんのバックドロップ 「お父さんのバックドロップ」の画像です

2004年作品。 日本映画。98分 。配給=シネカノン。監督=李闘士男(第一回監督作品)。エグゼクティブプロデューサー=季鳳宇。プロデューサー=原田泉。Coプロデューサー=石原仁美。原作=中島らも(「お父さんのバックドロップ」集英社文庫刊)。脚本=鄭善信。音楽=coba。撮影=金谷宏二。照明=嶋竜。美術=佐々木季記貴。編集=宮島竜治。録音=甲斐田哲也。下田牛之助=宇梶剛士、下田一雄=神木隆之介、金本英恵=南果歩、金本哲夫=田中優貴、下田早苗=奥貫薫、下田松之助=南方英二(チャンバラトリオ)、菅原進=生瀬勝久


 笑って泣いて、元気をもらった。母を亡くした男の子と父親の、対立と和解という直球なストーリーだが、プロレスラーの父と、プロレスがかっこ悪いと思っている息子という設定とともに、関西下町の雰囲気と個性的な登場人物が作品をほのぼのと膨らませていく。札幌での劇場公開は1月1日と遅れたが、年の始めに観ることができて良かったと思った。感動的な盛り上がりの中に程よく笑いがブレンドされていた。

 プロレスラー役の宇梶剛士は、実直な父親と血みどろファイターを好演。神木隆之介は、かわいらく芯の強さ男の子を演じ、見事に泣かされた。祖父役の南方英二も良い味を出していた。原作者の中島らもが、床屋役で出演しているが、単なるゲスト出演ではなく、ちゃんと芸を見せていた。2004年7月26日に52歳で病死し、この作品が遺作となった。


 カンフーハッスル 「カンフーハッスル」の画像です

 2004年作品。中国・アメリカ映画。103分 。配給=ソニーピクチャーズ 。監督・脚本・製作=チャウ・シンチー 。製作=チュイ・ポーチュウ、ジェフ・ラウ 。製作総指揮=ビル・ボーデン、デヴィッド・ハン 。脚本=ツァン・カンチョン、チャン・マンキョン、ローラ・フオ 。アクション・コレオグラファー=サモ・ハン・キンポー 。撮影=プーン・ハンサン 。美術=オリバー・ウォン 。編集=アンジー・ラム 。視覚効果スーパーバイザー=フランキー・チャン 。衣装デザイナー=シャーリー・チャン 。音楽=レイモンド・ウォン 。チャウ・シンチー、ユン・ワー、ユン・チウ、ブルース・リャン、ドン・ジーホワ、チウ・チーリン、シン・ユー、チャン・クォックワン、ラム・シュー、ティン・カイマン、ラム・ジーチョン、ジア・カンシー、フォン・ハックオン、フェン・シャオガン、ホアン・シェンイー


 血なまぐさい殺りくシーンから始まるので、うわぁっと思うが、すぐにギャグ満載の展開になり、おおいに笑わせてもらった。冷酷無情なギャング団の名前が「斧頭会」(ふとうかい)。貧困地区のアパートの名前が「豚小屋砦」(ぶたごやとりで)。チャウ・シンチーのサービス精神は健在。ただ、あまりにもたくさんのギャグを連発したので、外したネタも多かった。アクション場面では、かつてカンフー映画で活躍した俳優が登場。まさにあり得ないほどの派手なシーンが続く。「カンフーの達人になるのが一番の夢、俳優は二番目」というチャウ・シンチーの、ブルース・リーらへのオマージュが詰め込まれている。「ドラゴンボール」を連想した人も多いはず。

 さんざん笑っておいてなんだけれど、「少林サッカー」ほどの驚きや爽快感はなかった。「少林サッカー」のツボを押さえたストーリー展開と、結末の鮮やかさに比べると、明らかに完成度は低い。とりわけ、最後のオチはイスから転げ落ちるほど、ひどかった。それでも楽しい作品であることは、間違いないが。


 
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