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2004.03

 パリ・ルーヴル美術館の秘密 「パリ・ルーヴル美術館の秘密」の画像です

 1990年作品。フランス映画85分。配給=セテラ・インターナショナル。監督=ニコラ・フィリベール。製作=ラ・セット、A2、ルーブル美術館、レ・フィルム・ディシ、CNC、フランス外務省。撮影=ダニエル・バロー、リシャール・コパン、フレデリック・ラブラス、エリック・ミヨー、エリック・ピタール。録音=ジャン・ウマンスキー。編集=マリー・H・カントン、モニーク・ブーショー。音楽=フィリップ・エルサン。監督助手=ヴァレリー・ガイヤール。統括プロデューサー=セルジュ・ラルー、ドミニク・パイーニ。


 世界最大の美術館ルーブル。所蔵美術品は、約35万点。地下通路は15キロに及ぶ。そこで働く人々は、学芸員、金メッキ師、大理石職人、清掃員、警備員、案内係、資料係、写真家、庭師、音響学者、物理・科学者、調理人、管理人、消防士ら約1200人。彼らが働くルーブルの舞台裏を、初めてとらえた。職員たちは、細心の注意を払いながらも、手作業中心の淡々とした日々を送る。カメラは、説明のないまま日常業務を記録し続ける。作為のないドキュメンタリー作品だ。1990年の製作なので、現在はもっと機械化されているかもしれない。

 ルーヴル美術館に関心がない訳ではないが、あまりの単調さに幾度となく睡魔が襲った。確かに初めてカメラが記録した貴重な映像なのだろうが、めりはりがなければ、退屈してしまう。ラスト近くになって、ルーブル美術館の展示方法は、有名な作品を一堂に集めて観光客を喜ばせるのではなく、多様な作品に関心を持ってもらうように配慮していることが明らかにされる。急患への対応も興味深かった。散漫な印象の作品だったが、ダ・ビンチなどの名画の質感が分かったので、作品の水準は別にして個人的には収穫があった。

 ●ルーヴル美術館・公式日本語サイト


 この世の外へ クラブ進駐軍 「この世の外へ クラブ進駐軍」の画像です

 2003年作品。日本映画。123分。配給=松竹。監督・脚本=阪本順治。プロデューサー=桜井友紀子。撮影=笠松則通。照明=杉本崇。美術=原田満生。録音=柿澤潔。整音=橋本文雄。編集=深野俊英。スクリプター=今村治子。音楽監督=立川直樹。企画アドバイザー=内野二朗。広岡健太郎=萩原聖人、池島昌三=オダギリジョー、浅川広行=MITCH、平山一城(ジョーさん)=松岡俊介、天野明=村上淳、ラッセル・リード=シェー・ウィガム、ジム=ピーター・ムラン、依田涼子=前田亜季、英子=高橋かおり、ケリー・ツカモト=真木蔵人、堅田常政=池内万作


 阪本順治監督が、9.11の同時多発テロに触発されて取り組んだ作品。太平洋戦争終結から2年後を舞台にジャズを通じて人々が出会い、信頼しあった歴史を描いている。見事なセットに支えられて敗戦後の混乱ぶりと人々のバイタリティが伝わってくる。さらに、米軍の兵士たちの苦悩も丹念に追っている。登場人物へのまなざしは、みな温かいが、社会運動をして警察に弾圧される人たちへのまなざしには温もりが感じられない。

 音楽を通じた友愛という希望を浮き彫りにしようとした狙いは理解できる。しかし、「武器を楽器に」という監督の思いとは裏腹に、「武器も楽器も」戦争にかり出されているのが現実だろう。一方、音楽が壁を超えるきっかけになることも事実だ。ただし、異質なものを理解しようとしなければ、共存や平和は訪れはしないだろう。


 ドッグヴィル 「ドッグヴィル」の画像です

 2003年作品。デンマーク映画。177分。配給=ギャガ・コミュニケーションズ。監督・脚本=ラース・フォン・トリアー(Lars von Trier)。製作=ヴィベク・ウィンドレフ。製作総指揮=ペーター・オールベック・イェンセン。撮影=アントニー・ドッド・マントル。編集=モリー・マレーネ・ステンスガード。美術=ピーター・グラント。衣装=マノン・ラスムッセン。グレース= ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)、グロリア=ハリエット・アンデルセン、マ・ジンガー=ローレン・バコール、大きい帽子の男=ジャン=マルク・バール、トム・エディソン=ポール・ベタニー、ヘンソン婦人=ブレア・ブラウン、大男=ジェームズ・カーン、ベラ=パトリシア・クラークソン、ビル・ヘンソン=ジェレミー・デイヴィス、 ジャック・マッキー=ベン・ギャザラひマーサ=シオバン・ファロン・ホーガン、ベン=ジェリコ・イヴァネク、コートの男=ウド・キア、オリビア=クレオ・キング、ジェィソン=マイルズ・パリントン、ヘンソン=ビル・レイモンド、リズ・ヘンソン=クロエ・セヴィニー、ジェーン=シャウナ・シム、チャック=ステラン・スカルスガルド、ナレーター=ジョン・ハート


 この作品は、アメリカ批判というよりも、普遍的な人々の弱さと傲慢を描いている。スタジオ内に、1930 年代アメリカの小さな町を作り上げ、その中だけで撮影を行った。本物のようなセットを作成するのではなく、通りや家の間取りを白い線で引いただけの、舞台のような空間に最小限の小道具を配置した。集落の全員の生活が筒抜けだという設定なのかと考えたが、この野心的なアイデアが効果的に生かされたようには思えない。低次元の露悪趣味にすぎないのではないか。

 人々の変心がポイントになるが、面白みのない紋切り型のストーリーだ。グレースに対するいじめや暴行は、もっと苛烈でなければラストの重さが響かない。ニコール・キッドマンも逆境の中で輝かない。トリアー監督お得意の高度な悪意に昇華していない。むしろトリアー監督の傲慢を感じたと言ったら、言い過ぎだろうか。「ドッグヴィル」は、勧めない。ぜひ、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観てほしい。


 美しい夏キリシマ 「美しい夏キリシマ」の画像です

 2002年作品。日本映画。118分。配給=パンドラ。監督=黒木和雄。製作総指揮=深江今朝夫。プロデューサー=仙頭武則。脚本=松田正隆・黒木和雄。音楽=松村禎三。撮影=田村正毅。照明=佐藤譲。録音=久保田幸雄。美術=磯見俊裕。編集=阿部亙英。音響効果=帆苅幸雄。。スクリプター=内田絢子。衣裳=二宮義夫・宮本茉莉。ヘアメイク=小堺なな。装置=平子吉文・亀園政文。装飾=須坂文昭。日高康夫=柄本佑、日高重徳=原田芳雄、日高しげ=左時枝、河合美也子=牧瀬里穂、青山宇知子=宮下順子、青山世津子=平岩紙、宮脇イネ=石田えり、宮脇なつ=小田エリカ、宮脇稔=倉貫匡弘、藤本はる=中島ひろ子、古寺秀行=寺島進、古寺寛子=入江若葉、豊島一等兵=香川照之、石嶺波=山口このみ、石嶺フミ=中村たつ、芹沢大尉=甲本雅裕、浅井少尉=眞島秀和


 映画を観た後、なかなか感想が書けない作品がある。黒木和雄監督の「美しい夏キリシマ」もそうだ。シアターキノで、監督自らの思いを聞いたということも、影響している。57年間、深いトゲとなって監督の胸に刺さっていた少年時代の体験。爆撃で級友が命を落とした衝撃。いや、級友に助けを求められながら、怖くて逃げたという負い目が、監督を苦しめ続けてきた。そして、監督の贖罪の思いは、長い時間によってユーモアと残酷、幻想と現実が溶け合った清明な映画作品へと結実している。

 映画には、戦闘シーンが登場しない。しかし、間違いなく戦時下の1945年の夏が描かれる。多くの級友を失った爆撃を生き延びた15歳の少年と周囲の人々の物語。主人公を演じるのは、柄本明の息子・柄本佑。これがデビュー作となる。思いつめているのか、あっけらかんとしているのか、にわかに判別できない15歳の少年が無気味なほどリアルだ。時代にほんろうされながらも、かけがえのない人生を生きる一人ひとりを丹念に描くことで、戦争の恐ろしさが深く刻み込まれていく。寡黙な監督の寡黙な作品は、雄弁に戦争を告発している。


 半落ち 「半落ち」の画像です

 2003年作品。日本映画122分。配給=東映。監督=佐々部清。原作=横山秀夫(講談社刊)。脚本=田部俊行、佐々部清。撮影=長沼六男(J.S.C)。音楽=寺嶋民哉。主題歌=森山直太郎「声」(ユニバーサル ミュージック)。企画=坂上順、近藤邦勝。プロデューサー=中曽根千治、小島吉弘、菊池淳夫、濱名一哉、長坂勉。照明=吉角荘介。美術=山崎秀満。装飾=湯澤幸夫。録音=高野泰雄。編集=大畑英亮。キャスティング=福岡康裕。梶聡一郎=寺尾聰、梶啓子=原田美枝子、島村康子=樹木希林、志木和正=柴田恭兵、藤林圭吾=吉岡秀隆、中尾洋子=鶴田真由、植村学=國村隼、佐瀬銛男=伊原剛志、加賀美康博=嶋田久作、笹岡=斉藤洋介、栗原=豊原功補、小国鼎=西田俊行、片桐時彦=田辺誠一、岩村肇=石橋蓮司、藤林圭一=井川比佐志、植村亜紀子=高島礼子、高木ひさ江=奈良岡朋子


 アルツハイマー病を患う妻を殺し自首してきた元刑事の梶聡一郎は、妻殺しは認めたが、自首までの2日間については頑に自供を拒絶する。映画は、主人公が空白の2日間に何をしていたかを追う。殺人を犯さなければならなかった梶聡一郎の心情とともに、警察、検察、司法、マスコミに関わる、さまざまな人々の思いも丁寧に描いていく。そして、意外な真実が明らかになる。

 配役は、みな主役クラス。場面場面で、印象に残る演技をみせる。最初は刑事役の柴田恭兵に注目し、犯人役の寺尾聰の寡黙な演技に感心した。しかし、妻の姉の役で控えめな演技をしていた樹木希林が裁判で証言するシーンには感嘆した。感情が一気に高ぶり涙があふれた。その後にも感動的なシーンが波状的に続き、泣きながらラストの紅葉を見つめた。監督の上手さに脱帽。「完落ち」だ。


 イノセンス 「イノセンス」の画像です

 2004年作品。日本映画。99分。配給=東宝。監督・脚本=押井 守 。原作=士郎正宗(「攻殻機動隊」講談社刊) 。音楽=川井憲次(O.S.T. Victor) 。主題歌=伊藤君子「Follow Me」(VideoArts Music)。制作=プロダクション I .G。製作協力=スタジオジブリ。プロデューサー=石川光久、鈴木敏夫。演出=西久保利彦、楠美直子。キャラクターデザイン=沖浦啓之。メカニックデザイン=竹内敦志。プロダクションデザイナー=種田陽平。レイアウト=渡部隆。作画監督=黄瀬和哉、西尾鉄也。美術監督=平田秀一。デジタルエフェクトスーパーバイザー=林 弘幸。ビジュアルエフェクト=江面 久。ラインプロデューサー=三本隆二、西沢正智。録音監督=若林和弘。 整音=井上秀司。サウンドデザイナー=ランディ・トム。バトー=大塚明夫 、草薙素子=田中敦子 、トグサ=山寺宏一 、荒巻=大木民夫 、イシカワ=仲野裕 、キム=竹中直人 、ハラウェイ=榊原良子、謎の少女=武藤寿美


 この作品は、当初「攻殻機動隊2」として企画された。人とサイボーグとロボットが共存する2032年の日本が舞台。押井守の全力投球による骨太な作品である。その驚くべき作品の密度に圧倒され、ヘトヘトになりながら、幾度も磨かれた魅惑的な映像に飲み込まれた。押井守による身体論、人間論。会話には古典の引用が異様に多い。けっして分かりやすい作品ではないが、これから数年は目標になるはずの水準にあるアニメだ。何よりも深い美意識に支えられた映像に打ちのめされる。

 ほとんど機械のバトーと、ほとんど生身トグサというふたりの刑事が主人公。機械と身体がクロスし、やがて幻想と現実の間の壁も見分けがつかなくなる。根底には「人間性という幻想」という押井らしいテーマがある。そして「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」で電脳ネットワークの中に消えた草薙素子が、ラストのクライマックスで登場し大活躍する。


 
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