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2005.12


 乱歩地獄 「乱歩地獄」の画像です

 2005年作品。日本映画。135 分。配給=アルバトロス・フィルム。監督=竹内スグル「火星の運河」、実相寺昭雄「鏡地獄」、佐藤寿保「芋虫」、カネコアツシ「蟲」。プロデューサー=宮崎大。原作=江戸川乱歩。脚本=竹内スグル「火星の運河」、薩川昭夫「鏡地獄」、夢野史郎「芋虫」、カネコアツシ「蟲」。撮影=竹内スグル、八巻恒存、芦澤明子、山本英夫。衣裳=北村道子。エンディングテーマ=ゆらゆら帝国。浅野忠信=「火星の運河」「鏡地獄」「芋虫」「蟲」、成宮寛貴=「鏡地獄」、松田龍平=「芋虫」、森山開次=「火星の運河」、shan=「火星の運河」、小川はるみ=「鏡地獄」、吉行由実=「鏡地獄」、大家由祐子=「鏡地獄」、市川実日子=「鏡地獄」、中村友也=「鏡地獄」、寺島進=「鏡地獄」、原知佐子=「鏡地獄」、堀内正美=「鏡地獄」、寺田農=「鏡地獄」、岡元夕紀子=「芋虫」、韓英恵=「芋虫」、大森南朋=「芋虫」、緒川たまき=「蟲」、田口浩正=「蟲」


 江戸川乱歩の未映像化作品の映画化に挑戦したオムニバス。監督、俳優の選択からして、なかなか挑発的だ。賛否両論を巻き起こすことは間違いない。乱歩といえば、エログロのねっとり感が持ち味だが、今回はテイストが違う。乱歩地獄と言うよりも、猟奇天国。プロローグとしての実験映像風「火星の運河」から、実相寺昭雄監督の手慣れた「鏡地獄」を経て佐藤寿保監督の「芋虫」に至ると、ひと味違った乱歩の世界。そして極彩色のキッチュな「蟲」では笑いをとってしまった。乱歩を突き抜けた独自の映像作品になった。

 江戸川乱歩に浅野忠信を持ってくることからして、既存の乱歩ワールドを打ち破ろうという果敢な姿勢が読み取れる。そして浅野は浅野でありながら乱歩の世界を独自に再構築してみせる。天晴れと言うしかない。女優では「芋虫」の岡元夕紀子と「蟲」の緒川たまきが驚きの演技を見せる。とくに緒川たまきの冒険は高く評価したい。


 男たちの大和/YAMATO 「男たちの大和/YAMATO」の画像です

 2005年作品。日本映画。145 分。配給=東映。監督=佐藤純彌。製作=角川春樹。プロデューサー=厨子稔雄、小柳憲子、村上典吏子。製作総指揮=高岩淡、広瀬道貞。企画=坂上順、早河洋。原作=辺見じゅん『決定版 男たちの大和』(ハルキ文庫刊)。脚本=佐藤純彌。撮影=阪本善尚。特撮監督=佛田洋。美術=松宮敏之、近藤成之。編集=米田武朗。音楽=久石譲 Joe Hisaishi。主題歌=長渕剛。VFXスーパーバイザー=進威志。照明=大久保武志。整音=瀬川徹夫。録音=松陰信彦。森脇庄八=反町隆史、内田守=中村獅童、内田真貴子=鈴木京香、神尾克己=松山ケンイチ、伊達俊夫=渡辺大、西哲也=内野謙太、常田澄夫=崎本大海、児島義晴=橋爪遼、唐木正雄=山田純大、茂木史朗=高岡建治、川添=高知東生、玉木=平山広行、大森=森宮隆、町村=金児憲史、臼淵=長嶋一茂、野崎妙子=蒼井優、玉木ツネ=高畑淳子、西サヨ=余貴美子、前園敦=池松壮亮、組合長=井川比佐志、森下信衛=勝野洋、能村次郎=野崎海太郎、小池久雄=春田純一、古村哲蔵=本田博太郎、草鹿龍之介=林隆三、文子=寺島しのぶ、神尾スエ=白石加代子、有賀幸作=奥田瑛二、伊藤整一=渡哲也、神尾克己=仲代達矢


 「男たちの大和」という題名は、戦争賛美的な匂いがするが、内容は戦争の惨さと理不尽さを描いた重厚な人間ドラマだ。原作は、辺見じゅんが戦艦大和の生存者や遺族に膨大な取材を敢行して書き上げたドキュメント。約6億円を投じ、広島県尾道市に原寸大の大和(艦首から艦橋まで、全長190メートル!)の広大なセットを再現した。CGによる戦闘シーンも、日本の作品としては迫力ある出来だ。このリアルさが、戦争を描くためには必要だった。

 2005年4月6日、鹿児島県・枕崎の漁港。一人の女性が、「北緯30度43分、東経128度4分」まで船を出して欲しいと頼みにくる。そして一人の老漁師が了解し、15歳の少年を連れて船を出す。最初は、ぎこちない運びに思われたが、60年前の史実とシンクロし始め、戦争の姿を現代に伝える巧みな仕組みだと納得させられた。男たちのというよりも、男も女も悲劇に巻き込む戦争というものが、実感できる。久石譲の音楽は効果的だったが、長渕剛の歌は余計だ。


 キング・コング 「キング・コング」の画像です

 2005年作品。186 分。ニュージーランド・アメリカ合作。配給=UIP。監督=ピーター・ジャクソン(Peter Jackson)。製作=ジャン・ブレンキン(Jan Blenkin)、キャロリン・カニンガム(Carolynne Cunningham)、ピーター・ジャクソン(Peter Jackson)、フラン・ウォルシュ(Fran Walsh)。原案=メリアン・C・クーパー(Merian C. Cooper)。エドガー・ウォレス(Edgar Wallace)。脚本=ピーター・ジャクソン(Peter Jackson)、フラン・ウォルシュ(Fran Walsh)、フィリッパ・ボウエン(Philippa Boyens)。撮影=アンドリュー・レスニー(Andrew Lesnie)。特殊メイク=リチャード・テイラー(Richard Taylor)。プロダクションデザイン=グラント・メイジャー(Grant Major)。衣装デザイン=テリー・ライアン(Terry Ryan)。編集=ジェイミー・セルカーク(Jamie Selkirk)。音楽=ジェームズ・ニュートン・ハワード(James Newton Howard)。アン・ダロウ=ナオミ・ワッツ(Naomi Watts)、カール・デナム=ジャック・ブラック(Jack Black)、 ジャック・ドリスコル=エイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)、キング・コング/ランピー=アンディ・サーキス(Andy Serkis)、ジミー=ジェイミー・ベル(Jamie Bell)、ブルース=カイル・チャンドラー(Kyle Chandler)、プレストン=コリン・ハンクス(Colin Hanks)、イングルホーン船長=トーマス・クレッチマン(Thomas Kretschmann)


 ピーター・ジャクソン監督は1933年の「キング・コング」を観て、監督になろうと思った。ジャクソン監督が長年夢みてきた悲願のリメイク・プロジェクト。3時間のSF大作。まだ興奮がさめない!!。「ロード・オブ・ザ・リング」の雄大なカメラワークとCGの見事さに感心したが、本作では斬新なカメラワークとさらに進歩したCG技術によって、驚くばかりの映像が続く。めくるめくような迫力ある映像は、今後の映画のクオリティを間違いなく押し上げるだろう。

 アン・ダロウにひかれるキング・コングとキングコングを愛おしむアン・ダロウ。異質な種が心を通いはじめる。互いの思いが映像から、ひたひたと伝わってくる。激しいアクションシーンと対照的な繊細さに感動する。氷の上での楽しげなふたりのシーンも捨て難いが、何と言っても静かに夕日を見つめる場面が心に残る。

 


 アワーミュージック 「アワーミュージック」の画像です

 2004年作品。80 分。フランス映画。配給=プレノンアッシュ。監督=ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)。製作=アラン・サルド(Alain Sarde)、ルート・ヴァルトブルゲール(Ruth Waldburger)。脚本=ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)。撮影=ジュリアン・ハーシュ(Julien Hirsch)。美術=アンヌ=マリー・ミエヴィル(Anne-Marie Mieville)。編集=ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)。オルガ・ブロスキー=ナード・デュー(Nade Dieu)、ジュデス・ラーナー=サラ・アドラー(Sarah Adler)、ラモス・ガルシア=ロニー・クラメール(Rony Kramer)、C・マイアール=ジャン=クリストフ・ブヴェ(Jean-Christophe Bouvet)、ジャン=リュック・ゴダール=ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)、オリヴィエ・ナヴィル=サイモン・エイン(Simon Eine)、ネイティブアメリカン=ジョルジュ・アギラ(George Aguilar)、ネイティブアメリカン=ルティツィア・グティエレス(Leticia Gutierrez)


 映像的にも音楽的にも、こんなにも美しく巧みで、政治的なメッセージにあふれたゴダール作品に出会えるとは。凝縮された映像のみずみずしさにぞくぞくし続けた。サラエヴォを訪れたゴダールと彼の講義を聴きに来た一人の少女オルガとの束の間の交感を描く「煉獄編」を中心に、ダンテの『神曲』に擬えて「地獄編」と「天国編」を加えた3つのパートで構成している。多くの謎がちりばめられている。

 第1部の「地獄編」では、ニュース映像から劇映画まで、戦争にまつわる大量の映像が10分間映し出される。オルガの内面であるとともに現実の歴史でもある。広島の原爆とともに、ゴダールが高く評価する北村龍平の「VERSUS -ヴァーサス」からも引用している。

 第2部の「煉獄編」では、ゴダールが訪れた大学の講義の中で、イスラエルとパレスチナ、ユダヤとイスラムの非対称性を例にとり、「切り返しショット」という映画の手法を通じてこの世界を支配する対立の構造を捉えなおす試みを示す。庭いじりをしているゴダールの元に、オルガの叔父から、オルガがイスラエルで自爆テロに間違えられて射殺されたという知らせが届く。彼女が背負っていた大きなリュックの中には、爆薬ではなく書物が入っていた。

 第3部の「天国編」では、アメリカ兵に守られた楽園の穏やかなオルガが描かれる。それは単なる皮肉ではない。 


 大停電の夜に 「大停電の夜に」の画像です

 2005年作品。日本映画。132 分。配給=アスミック・エース。監督=源孝志。プロデューサー=荒木美也子。エグゼクティブプロデューサー=椎名保。脚本=相沢友子、源孝志。撮影監督=永田鉄男。美術監督=都築雄二。音楽=菊地成孔。VFXスーパーバイザー=石井教雄。照明=和田雄二。録音=深田晃。木戸晋一=豊川悦司 、佐伯遼太郎=田口トモロヲ、佐伯静江=原田知世、大鳥銀次=吉川晃司、杉田礼子=寺島しのぶ、草野美寿々=井川遥、李冬冬=阿部力、田沢翔太=本郷奏多、梶原麻衣子=香椎由宇、叶のぞみ=田畑智子、国東小夜子=淡島千景、国東義一=宇津井健


 1年で1番光り輝くクリスマス・イブの夜に東京で大停電が起こったという設定。しかしリアルな社会派映画ではなく、その暗闇を生かした12人の男女の幻想的な愛情物語となっている。なかなか洒落た大人のファンタジーに仕上がっている。バラバラのドラマが少しずつ重なっていく粋なストーリー。明かりを巧みに演出する撮影技術も傑出している。こういう作品こそ、劇場の暗がりで見るべき。クリスマス・イブの夜に観たら、忘れられない作品になるだろう。「大魔神」「大失恋」「大誘拐」と題名に「大」の付く邦画の佳作に、またひとつ「大停電」が加わった。

 俳優たちは、それぞれ良い味を出していた。中でも豊川悦司と田畑智子の掛け合いが素晴らしかった。吉川晃司もいいなあ。香椎由宇もすごいなあ。宇津井健と淡島千景の夫婦愛も胸にしみた。抑えた演技の原田知世も印象的だったが、露骨に分かるようにブレンディーを入れ替えていたのには笑った。せめて「東京マリーゴールド」の「ほんだし」のような自然さがほしい。


 SAYURI 「SAYURI」の画像です

 2005年作品。アメリカ映画。146分。配給=ブエナビスタ・松竹。監督=ロブ・マーシャル(Rob Marshall)。製作=スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)、ルーシー・フィッシャー(Lucy Fisher)、ダグラス・ウィック(Douglas Wick)。製作総指揮=ゲイリー・バーバー(Gary Barber)、ロジャー・バーンバウム(Roger Birnbaum)、ボビー・コーエン(Bobby Cohen)、パトリシア・ウィッチャー(Patricia Whitcher)。原作=アーサー・ゴールデン(Arthur Golden) 『さゆり』(文春文庫刊)。脚本=ロビン・スウィコード(Robin Swicord)、ダグ・ライト(Doug Wright)。撮影=ディオン・ビーブ(Dion Beebe)。プロダクションデザイン=ジョン・マイヤー(John Myhre)。衣装デザイン=コリーン・アトウッド(Colleen Atwood)。編集=ピエトロ・スカリア(Pietro Scalia)。音楽=ジョン・ウィリアムズ(John Williams)。さゆり=チャン・ツィイー(Zhang Ziyi)、会長=渡辺謙(Ken Watanabe)、豆葉=ミシェル・ヨー(Michelle Yeoh)、延=役所広司、おかあさん=桃井かおり、おカボ=工藤夕貴、さゆり(少女時代)=大後寿々花(オオゴ スズカ)、鳥取少将=ケネス・ツァン、初桃=コン・リー


 1人の芸者の運命を描いたアーサー・ゴールデンの世界的ベストセラー「さゆり」を、スティーヴン・スピルバーグ製作で、「シカゴ」のロブ・マーシャル監督が監督した。アメリカ人にとってのファンタジーとして花街を描いているので、いくぶん違和感を覚えるところもあるが、陰影の妙や華麗な映像美を楽しむことができた。ただ、その美しさは同時にとても虚ろな印象も残す。何かが欠けている。

 チャン・ツィイーの存在感は、今回も惚れ惚れするほど。踊りの場面では、「LOVERS」とはひと味違った妖艶さをみせる。さゆりがあこがれ会長役の渡辺謙は手慣れた感じ。演技派の役所広司、桃井かおりがハリウッド・デビューを果たした。そして、特筆すべきは、さゆりの少女時代を演じた大後寿々花の魅力だ。「北の零年」に続き、そのせつなげな瞳に、またも涙腺がゆるんだ。


 
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