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 神に選ばれし無敵の男  「神に選ばれし無敵の男」の画像です

 2001年作品。ドイツ・イギリス合作。130分。配給=東北新社。監督・脚本=ヴェルナー・ヘルツォーク(Werner Herzog)。製作=ヴェルナー・ヘルツォーク、ゲイリー・バート(Gary Bart)。共同製作=ロベルタス・ウルボナス。製作総指揮=ジェームズ・ミッチェル。撮影=ペーター・ツァイトリンガー。編集=ジョー・ビニ。衣装:ジェニー・テミム。音楽=ハンス・ジマー、クラウス・バデルト。ハヌッセン=ティム・ロス(Tim Roth)、ジシェ・ブレイトバート=ヨウコ・アホラ(Jouko Ahola)、マルタ・ファーラ=アンナ・ゴウラリ(nna Gourari)、ベンジャミン=ヤコブ・ウェイン(Jacob Wein)、ヘルドルフ伯爵=ウド・キアー(Udo Kier)、司会者=マックス・ラーベ(Max Raabe)


 ドキュメンタリー作品以外では10年ぶりのヴェルナー・ヘルツォーク監督の新作。ナチスが台頭してきた1932年を舞台に、千里眼として有名になったハヌッセンと並外れた力持ちのジシェという2人の実在の人物を取り上げる。しかし、かつてのヘルツォーク作品のような極限的な状況、主人公の過剰な情熱、壮絶な映像美を期待すると、肩透かしをくらう。過酷な時代にほんろうされた人々を描きながらも、重厚な展開にならず、静かに淡々と終わる。かつてのヘルツォークなら、後半にもう30分を使って、さらにドラマを盛り上げたに違いないが。ただ、ジシェの夢の中に出てくるおびただしい数の紅い蟹の群れだけは、まさにヘルツォーク的センスだった。

 ジシェ役は、「世界一の力持ち」タイトル保持者のヨウコ・アホラ、ジシェが思いを寄せるピアニスト・マルタ役は世界的なピアニストのアンナ・ゴウラリ。重要なキャストに、演技経験が全くない二人を抜てきした。ナチスを手玉に取ろうとするハヌッセンには、名優ティム・ロスを選んだ。ティム・ロスの妖しい魅力は、複雑な性格のハヌッセンにぴったりだった。そして、特筆すべきはジシェの弟ベンジャミン役のヤコブ・ウェイン。ユダヤ人にとっての宗教心の深さを象徴する名演技を見せる。個人的にはウド・キアーの登場で、にやりとした。


 六月の蛇  「六月の蛇」の画像です

 2002年作品。日本映画。77分。配給=ゼアリズエンタープライズ。製作・監督・脚本・撮影監督・美術監督・編集=塚本晋也。音楽=石川忠。アソシエートプロデューサー&助監督=川原伸一。助監督=小出健、黒木久勝。撮影=志田貴之。照明=吉田恵輔。制作&メイク=福山秀美。衣装=岩崎浩子。スチール=天満眞也。録音=小原善哉。音響効果=北田雅也、柴崎憲治。特殊メイク=織田尚。りん子=黒沢あすか、辰巳重彦=神足裕司、飴口道郎=塚本晋也


 2002年ベネチア国際映画祭審査員特別大賞を受賞した塚本晋也監督の新作。ブルーグレイの映像が印象的。一人のストーカーの過酷な行為が、こわばった夫婦の関係を壊しつつ再構築するストーリー。いつもながら、激しく痛みをともなう展開だが、最後は夫婦の新たな関係というハッピーエンドで終わる。いつものような突き抜けていく破壊力はない。

 黒沢あすかの官能性には、はっとさせられた。欲動のほとばしりが、凄まじい。彼女の捨て身の演技がなければ、とてもぬるい作品になっただろう。潔癖性の夫役をコラムニストの神足裕司が演じているが、納まりが悪かった。確かに熱演しているのだが、役になりきっていない。


 ソラリス  「ソラリス」の画像です

 2002年作品。アメリカ映画。99分。配給=20世紀フォックス。監督・脚本・撮影=スティーヴン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)。製作=ジェームズ・キャメロン(James Cameron)、ジョン・ランドー(Jon Landau) 、 レイ・サンキーニ(Rae Sanchini)。製作総指揮=グレゴリー・ジェイコブス。原作=スタニスワフ・レム(Stanislaw Lem)「ソラリスの陽のもとに」(早川書房)。 音楽=クリフ・マルチネス(Cliff Martinez)。特殊効果スーパーバイザー=ヴェルナー・ハーンレイン(Werner Hahnlein)。視覚効果スーパーバイザー=トーマス・J・スミス(Thomas J.Smith)。ケルヴィン(Kelvin)=ジョージ・クルーニー(George Clooney)、ハーレイ(Harey)=ナターシャ・マケルホーン(Natasha McElhone)、ドクター・サルトリアス(Dr.Sartorius)=ジェレミー・デイヴィス(Jeremy Davies)、ドクター・ホレク・スナウト(Dr.Horek Snaut)=アルリッチ・トゥクール(Ulrich Tukur)


 予想はしていたが、これほどまでに無惨な出来とは。ソダーバーグの新作は、スタニスワフ・レムの小説に込められた「未知の知的生命体との出会い」という刺激的な主題を避け、「愛はすべてに勝つ」というハリウッド的な凡庸きわまりない結末でお茶を濁した。理解不能な異質の知性体に対して困惑し、自分におののく人間たち。「ソラリス」を映画化するのなら、驚くべき宇宙体験によって、人間の内面の不可解さがあぶりだされる展開にならなければ、意味がない。

 ソダーバーグの作品には、1972年のソビエト映画「惑星ソラリス」(アンドレイ・タルコフスキー監督)のような、思索を促す静ひつな映像の力がまるでない。ラブシーンがあり、あとはどたばたしているだけだ。ソラリスの海は幻想的だが、うわべだけの美しさに感じられる。ただ、リメイクした功績は大きい。タルコフスキーの「惑星ソラリス」が注目されるだろう。そして、スタニスワフ・レムの大傑作が広く読まれるきっかけになるだろう。


 8Mile  「8Mile」の画像です

 2002年作品。アメリカ映画。110分。配給=UIP。監督/製作=カーティス・ハンソン。製作=ブライアン・クレイザー、ジミー・イオヴィン。脚本=スコット・シルヴァー。製作総指揮=キャロル・フェネロン、ジェームス・ウィテカー、グレゴリー・グッドマン、ポール・ローゼンバーグ。音楽=エミネム。撮影=ロドリゴ・プリエト。美術=フィリップ・メシーナ。編集=ジェイ・ラビノウィッツ、クレイグ・キットソン。衣装=マーク・ブリッジス。ジミー=エミネム、ステファニー=キム・ベイシンガー、アレックス=ブリタニー・マーフィ、フューチャー=メキー・ファイファー、チェダー・ボブ=エヴァン・ジョーンズ、ソル・ジョージ=オマー・ベンソン・ミラー、DJイズ=ダンジェロ・ウィルソン、ウィンク=ユージン・バードジャニーン=タリン・マニング、リリー=クロエ・グリーンフィールド


 なつかしいフイルム・ノワールの味を持った血なまぐさい「L.A.コンフィデンシャル」で、多くの観客をうならせたカーティス・ハンソン監督は、デトロイト出身で世界的な人気の白人ラッパー・エミネムの自伝的な作品で、またも観客をうならせることだろう。さびれた街デトロイトで、白人としてのハイディを背負いながら、ラップで自分を表現しようとするジミー。挫折を繰り返す中から、自分の困難な立場を突き放して笑い飛ばせる過激な言葉を生み出し、成功していく。展開が、きれいすぎるようにも思えるが、エミネムのひたむきな姿勢によって、まっすぐな作品に仕上がっている。

 エミネムは、俳優としても驚くほど魅力的だ。誰もが、悲哀と怒りと誇りがないまぜになった彼の鋭いまなざしに引き込まれるだろう。クライマックスのラップ・バトルで、始める前に相手を見据え、無言で力を貯える瞳の輝きが、忘れられない。次の瞬間、露悪的で道化的な、ハイセンスのラップを叩き付ける。それは素晴らしくエキサイティングなシーンだった。バトルで優勝した後、夜のプレス工場に働きに帰る場面は、並みのサクセスストーリーを超える静かな感動を運んでくれる。


 
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