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2007.8

 トランスフォーマー 「トランスフォーマー」の画像です

 タカラの変形ロボット玩具・トランスフォーマー。もともとはタカラの製品で、アメリカのハスブロ社が他の変形ロボット玩具と一緒に『TRANSFORMERS』として販売しアメリカで大ヒット。それを日本に逆輸入したものが『トランスフォーマー』シリーズだ。ロボット生命体が正義と悪に分かれて戦っているという背景設定がある。今回は、少年サムを主人にし、正義のロボットたちとともに闘うというスピルバーグらしい設定にしている。少年の恋や車への憧れが、うまく生かされている。そして流れるようなロボットの変身。ロボットの重量感がびしびし伝わってくる映像。バトルシーンの迫力とスピードは、見事というしかない。

 最初の中東・カタールにあるアメリカ軍基地が破壊される場面は、手に汗握る緊張感があった。しかし、大統領専用機でデータを盗み出すへんてこなロボットの登場。サムの両親のとって付けたような演技。正義のロボットの間抜けな振る舞い。映画は、次第にお笑いへとトランスフォームしていく。寒いギャグが炸裂し、コメディとも呼べないようなドタバタが繰り返される。シリアスな展開の中に、お笑いを仕込んだというには、バランスが悪すぎる。肝心のストーリーも、支離滅裂にしか思えない。私に理解できないお約束があるのかもしれないが...。感動的な大迫力バトルと笑えないギャグが、両方楽しめるお得な作品。


 ヒロシマナガサキ 「ヒロシマナガサキ」の画像です

  原爆の記録映像・資料、14人の被爆者と原爆投下に関与した4人のアメリカ人の証言などを組み合わせ「原爆」を浮き彫りにするドキュメンタリー『ヒロシマナガサキ』。さまざまな観点、さまざまな問題を86分にまとめあげている。その巧みな編集によって、これまでとは違う感触の原爆ドキュメンタリーとなった。スティーヴン・オカザキ監督が、日系3世であることも影響している。

 やはり、被爆当事者の肉声は、心の奥に届く。差別され、病に苦しみながら生き抜いてきた人たちの声。この強さと柔らかさを併せ持つ声が、戦争を是認する固い心を、ときほぐすことだろう。この声は、なんとしても記録しなければならない。伝えなければならない。監督の思いが込められている。

 1965年、ダイアンの作品が、ニューヨーク近代美術館の「最新入手作品」四十点のうちの3点として展示される。そのひとつが「ヌーディストキャンプのある家族の夕べ」。作品に対する観客の反応は厳しく、展示されている間、職員は毎日ダイアンのポートレイトに吐きかけられた唾を拭き取らなければならなかった。マスコミや一般の観客の評価は「奇怪」「悪趣味」「覗き趣味」「フリークの写真家」と、悪意に満ちたものがほとんどだった。

 日本とアメリカの関係の変化を見せながら、アメリカに向けたメッセージ性を強く感じたが、より普遍的なメッセージも、底に流れている。冒頭、日本の若者が原爆投下の日をも忘れている事実をさりげなく伝える。日本の今後を危惧する静かな警告だと思う。


 夕凪の街 桜の国 「夕凪の街 桜の国」の画像です

 こうの史代の漫画を映像化した。当事者の視点を重視した斬新な表現で、多くの賞を受賞した漫画作品だが、映画は、作品全体の雰囲気を生かしながら、映画ならではの表現で観る者の心に迫る。被爆直後の惨劇から時間が経った後の悲劇。原爆の破壊は、今も確実に続いている。物語は、けっして声高に語りはしない。だからこそ、心に響く。静かに優しく、そして深く心をえぐる。佐々部清監督の抑制の利いた佳作。

 「夕凪の街」は、原爆症発症の不安を抱えながら、自分が生き延びたことの負い目を感じている皆実(みなみ)が主人公。「うちは、この世におってもええんじゃろうか」と泣く皆実を、打越は「生きとってくれて、ありがとうな」と抱きしめる。その後、皆実は原爆症を発症し、衰弱して死んでいく。麻生久美子の静かに震えるような演技が深い悲しみを表現する。「桜の国」は、皆実の弟・旭の娘である石川七波(ななみ)が主人公。父の不審な行動を追う中で、広島の歴史、自分の存在の意味を噛み締める。田中麗奈の現代的で、さらりとした演技が、かえってリアリティを増した。最後に、二つの物語がつらがり、映画は静かに終わる。


 アヒルと鴨のコインロッカー 「アヒルと鴨のコインロッカー」の画像です

 ミステリー作家・伊坂幸太郎の同名小説を映画化。言葉遊びが、核になっているので、たしかに映画化しにくい作品だろう。しかし、だからこそ、面白い味が出ている。ぶっきらぼうで、ひょうひょうとしていて、しかし見事にまとまっているストーリー。ばかばかしいようで、妙に切ない。映像の構図も、型にはまらない感じで、不思議な雰囲気を醸し出していた。個人的には、ボブ・ディランの「風に吹かれて」で、一気に引き込まれた。

 登場人物が、皆変わっている。大学入学で一人暮らしをするために、アパートに引っ越してきた椎名(濱田岳)は、たよりない。アパートの隣人・河崎(瑛太)は、いかがわしい。彼の元カノの琴美(関めぐみ)は、正義感は強いが無防備。ペットショップ店長・麗子(大塚寧々)は、ミステリアスだ。ばらばらの感じの登場人物たちが、少しずつ関係を深めながら、物語は意外な事実を示し、余韻を残して終わる。


 レミーのおいしいレストラン 「レミーのおいしいレストラン」の画像です

 ピクサーのアニメに外れはないが、今回もそうだった。パリの風景もさまざまな料理も美しく、人間とネズミが助け合うストーリーも心地よい。涙が出るほどおいしいアニメだった。予告編では、一見地味な感じ。冒険が待っているようには思えない。しかし、高級レストランに存在してはならないネズミが、シェフとなってフランス料理をつくるという発想こそ、おおいなる冒険だった。ピクサーのアニメでは、いつも既成観念の問い直し、夢の実現という基本テーマがあるが、今回もそのテーマは貫かれている。ネズミがフランス料理をつくるのだ。

 さらに高級レストランで料理の基本に返るという転換も行っている。辛辣な評論家が、料理の基本に気づく場面で、フランスの家庭料理「ラタトゥイユ」が出てくる。Rataは軍隊言葉で「ごった煮」、Touillerは「混ぜる」だが、英語のRat(ネズミ)をかけているのだろう。


 インランド・エンパイア 「インランド・エンパイア」の画像です

 「マルホランド・ドライブ」から5年。デヴィッド・リンチ監督の3時間の新作。「マルホランド・ドライブ」は、映画としてとても魅力的なシーンの断片にあふれていたが、「インランド・エンパイア」には、それが少ない。通常の意味での映画としては、壊れている。ここには,インターネットやDVカムコーダーの存在が大きく影響している。

 現実と虚構の境界があいまいになっていくというよりも、そもそも境界はない。ストーリーを説明すると、かえってこの作品の本質から外れるので、ここでは書かない。物語や意味を探し始めたら、リンチの作品は逃げていく。ねっとりとした多重幻覚に、どっぶりと浸るしかない。普段使わない部分の脳が、何かを感じ始めるだろう。その助けをするのが、絶えず鳴り響いている音楽だ。

 裕木奈江(ゆうき・なえ)が、終盤近くでホームレスとして出演している。ちょい役かと思ったら、俳優の中で一番長い台詞を話していた。あの、ちょっとぼーっとした感じが、ささくれ立ったリンチワールドに、奇妙に似合う。 クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」に続く快挙。私は「光の雨」(高橋伴明監督)での演技から、評価している。


 
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