BABE /PIG IN THE CITY |
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1998年作品。アメリカ映画。96分。配給=UIP。 監督=ジョージ・ミラー(George Miller)。 脚本=ジョージ・ミラー、ジュディ・モリス、マーク・ランレル。製作=ジョージ・ミラー、ダグ・ミッチェル、ビル・ミラー。アニマトロニクス=ニール・スキャンラン・スタジオ。 視覚効果&アニメーション=リズム&ヒューズ、ザ・ミル・アニマル・ロジック。 アニマルアクション=カール・ルイス・ミラー。アート・ディレクター=コリン・ギブソン。衣装=ノーマ・モリシュー。 プロダクション・デザイナー=ロジャー・フォード。製作総指揮=バーバラ・ギブス。 編集=ジェイ・フリードキン、マーガレット・シクセル。 音楽=ナイジェル・ウェストレイク。撮影=アンドリュー・レスニー、A.S.C.。 キャラクター創作=ディック・キング・スミス。エズメ=マクダ・ズハンスキー、アーサー=ジェームズ・クロムウェル、女主人=メアリー・ステイン、ファグリー=ミッキー・ルーニー
前作の「ベイブ」(クリス・ヌーナン監督)は、農村ののどかな雰囲気の中でベイブの活躍を描いたが、今回は都会の騒々しさ中で物語が進む。登場する動物たちが格段に増え、動きも個性も豊かになっている。前向きで心優しいベイブが利己的な動物たちを団結させ、危機を乗り越えるストーリーだが、動物を管理しようとする都会の怖さが伝わってこないので、素朴な感動は少なく、どたばた劇で終ってしまった。
今回は、ベイブよりも都会の動物たちの名演技が印象的。とりわけズーティーら猿たちのCGでは描けない内面的なしぐさに驚かされた。病んだ後ろ足を台車に乗せて活躍する犬のフリーリックには泣かされた。堂々たる体格ながらエズメ夫人の予想を上回るアクションシーンも迫力十分。人間と動物の共生を願うホテルの女主人がもう少し描けていたら、農村に移るハッピーエンドがより生きたと思う。
Central do Brasil |
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1998年作品。ブラジル映画。111分。配給=日本ヘラルド映画。 監督=ヴァルテル・サレス(Walter Salles)。脚本=ジョアン・エマヌエル・カルネイロ、マルコス・ベルンステイン。原案=ヴァルテル・サレス。撮影監督=ヴァルテル・カルバーリョ。美術=カシオ・アマランテ、カルラ・カフェー。音楽=アントニオ・ピント、ジャック・モルランボーム。ドーラ=フェルナンダ・モンテネグロ(Fernanda Montenegro)、イレーネ=マリリア・ペーラ、ジョズエ=ヴィニシウス・デ・オリヴェイラ、アンナ=ソイア・リラ、セザール=オトン・バ ストス、ペドロン=オターヴィオ・アウフスト、ヨランダ=ステラ・フレイタス、イザイアス=マテウス・ナシュテルゲーレ、モイゼス=カイオ・ジュンケイラ
「セントラル・ステーション」は、1998年第48回ベルリン映画祭金熊賞(グランプリ)、 銀熊賞(主演女優賞)受賞作品。ブラジル映画が国際映画祭でグランプリを受賞するのは初めて。派手さはないが熟成された脚本を、手堅い映像が人間ドラマへと肉付けしている。過酷なブラジルの現在を背景にしながら、映画と人間性への確かな信頼がある。往年の作品を彷佛とさせる素直な感動を運んでくる。久しぶりに「珠玉の名作」という言葉を思い出した。
代書屋をしているドーラは、人々の切実な手紙を嘲笑し出さずに捨ててしまうほど心が荒んでいる。母親が交通事故で死んだ少年ジョズエをいったんは売り飛ばすが、臓器として売られることを知り、助け出して少年の父を訪ねる旅に出る。少年の純真さに触れるうちに、都会で荒れた心と過去のトラウマから解放されていく。ユーモアをちりばめながら、その過程が実に自然。ドーラ役フェルナンダ・モンテネグロの貫禄のある演技は賞賛に値するが、ジョズエを演じたヴィニシウス・デ・オリヴェイラには天賦の才能を感じた。この作品の製作に日本が関わったことを嬉しく思う。
The Well |
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1997年作品。オーストラリア映画。102分。配給=アスミック。 監督=サマンサ・ラング(Samantha Lang)。製作=サンドラ・レヴィ。脚色=ローラ・ジョーンズ。撮影監督=マンディ・ウォーカー。編集=ダニー・クーパー。プロダクション・デザイン=マイケル・フィリップス。衣裳デザイン=アナ・ボーゲージ。音楽=スティーヴン・レイ。へスター=パメラ・レイブ(Pamela Rabe)、キャスリン=ミランダ・オットー、 ハリー=ポール・チャブ
サマンサ・ラング。ジェーン・カンピオンに続くオーストラリアの女性監督が誕生した。すでに確固とした自分のスタイルを持っている。ブルーに統一された色調が多くを語らない主人公たちの内面を写し出す。中でもへスター役のパメラ・レイブは、自分の性を抑圧し続けている女性の寒々とした心境を好演している。
井戸というと「夏の庭」(相米慎二監督)や「リング」の貞子を連想してしまうが、ここでは女性たちの隠された欲望を象徴している。ただ、ラストで種明かしされるので、余韻は少ない。カンピオン監督の作品に比べダイナミックさに欠ける面はあるが、今後が楽しみな一人である。
鮫肌男と桃尻女 |
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1998年作品。日本映画。107分。配給=東北新社。 原作=望月峯太郎「鮫肌男と桃尻女」 (講談社「ミスターマガジン」連載)。監督・脚本=石井克人。撮影=町田博。照明=木村太朗。美術=丸尾知行。衣装デザイン(鮫肌)=菊池武夫。衣装=宇都宮いく子。ビジュアルエフェクト・スーパーバイザー=伊藤太一。音楽=Dr.StrangeLove。鮫肌黒男=浅野忠信、桃尻トシコ=小日向しえ、田抜=岸部一徳、沢田=寺島進、ミツコ=真行寺君枝、ミツル=鶴見辰吾、ソネザキ=島田洋八、山田=我修院達也(若人あきら)
オフビート感覚で畳み込んでくる映像と会話を楽しませてもらった。文句なく楽しい日本映画は貴重だ。とりわけ、銀行強盗のシーンの最初と最後のノリには浮き浮きさせられた。物語自体は単純なのだが、登場人物の造形が魅力的。音楽、衣装ともハイセンス、映像のテンポも快調だ。
鮫肌黒男役の浅野忠信は、相変わらず柔軟に役を自分のものにしている。その他、鶴見辰吾、寺島進ら濃い俳優たちを集め、一人ひとりがそれなりに個性を発揮していた。しかし我修院達也(若人あきら)は、その中でも飛び抜けた存在感を放っていた。そのコミック的なキャラクターは他を寄せつけない。突然の大ブレークだ。小日向しえの初々しさと真行寺君枝の貫禄ある美しさも拾い物だった。ただ、パンフレット1,200円は高すぎる(作品とは関係ないけれど)。
AMONG GIANTS |
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1998年作品。イギリス映画。92分。配給=シネカノン。 監督=サム・ミラー。脚本=サイモン・ボーフォイ。製作=スティーブン・ガーレット。撮影=ウィトルド・ストック。編集=エレン・ピアース・ルイス、ポール・グリーン。音楽=ティム・アタック。美術=ルアナ・ハンソン。衣装=ステファニー・コリー。レイ=ピート・ポスルスウェイト、ジェリー=レイチェル・グリフィス、スティーヴ=ジェームズ・ソーントン、ウイーゼル=ロブ・ジャーヴィス、 ショーベル=レニー・ジェイムス、ボブ=アンディ・サーキス、フランク=アラン・ウィリアムス、デレク=スティーブ・ハイソン、リン=シヤロン・バウワー
サム・ミラー監督の初長篇作品は、北イングランドのシェフィールドが舞台。同じシェフィールドを舞台にした「フル・モンティ」は、失業した鉄鋼労働者たちの悪戦苦闘の物語だったが、「マイ・スウィート・シェフィールド」は、アウトサイダーである個性豊かなロック・クライマーたちの危険な鉄塔塗装の物語だ。使われなくなった巨大なガスタンクや工場の冷却塔が重要な役割を果たす野心的な展開。しかし、映像は実直なスタンスを崩さず、時には壮大な自然をゆっくりと俯瞰する。高所恐怖症の人には、辛い映画かもしれない。
ピート・ポスルスウェイトは、「ブラス!」の頑固者から一転して、若き美貌のクライマー・ジェリーとのラブロマンスを演じている。渋い役の多かったこれまでの彼を知っている者にとって、冷却水を浴びながらの激しいラブシーンは、水を全身に浴びるほど新鮮な驚きだった。ジェリー役のレイチェル・グリフィスもまずまずの演技。互いを思いやりながら別れていくラストは、クライマーたちの生き方を象徴しているのだろう。ピンクに塗られた1基の鉄塔が心に残る。
a bug's life |
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1998年作品。アメリカ映画。94分。配給=ブエナ ビスタ インターナショナル。 監督ジョン・ラセター(John Lasseter)。共同監督アンドリュー・スタントン。製作ダーラ・K・アンダーソン、ケビン・リハー。脚本アンドリュー・スタントン、ドナルド・マッケネリー、ボブ・ショー。音楽ランディ・ニューマン。編集リー・アンクリック。美術ティア・W・クラッター、ボブ・パウリー。フリック(働きアリ)=デイブ・フォーリー(宮本充)、ホッパー(バッタ)=ケビン・スペイシー(壌晴彦)、アッタ姫=ジュリア・ルイス=ドレイファス(土井美加)、ドット姫=ヘンデン・パネティエーリ(須藤祐実)
「トイ・ストーリー」から、3年。ピクサーが再びフルCGアニメを完成した。この3年間のCG技術の進歩は凄まじく、フルCGというだけでは誰も驚かない。しかし「バグズ・ライフ」は、確かな感動を与えてくれた。アイデアがワイドスクリーンいっぱいに詰め込まれている。何気ない草のそよぎ、背景の虫たちの動き、ちょっとしたしぐさから、スタッフのわくわくしながら創っている喜びが伝わってくる。躍動感あふれる宮崎アニメのセンスもしっかり学んで、クライマックスを盛り上げている。
登場する虫たちのキャラクターが鮮明。一匹一匹に命が吹き込まれている。とりわけ悪役ホッパーのCGと性格づけは見事だ。ただ「トイ・ストーリー」ほどの毒はない。サーカス団の悲哀をもう少し描いてほしかった。おっちょこちょいだが創造的なフリックが旅をして新しい状況を切り開き、弱い蟻たちが協力してバッタに立ち向かう。子供向けながら、個性と友愛を大切にするメッセージにも共感した。そして、エンドクレジットの後に用意された抜群の「お楽しみ」。登場した虫たちのNG集には、心底笑わされた。次はどんな作品を見せてくれるのか、とても楽しみだ。
ガメラ3 邪神イリス覚醒 |
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1999年作品。日本映画。108分。配給=東宝。総指揮=徳間康快。監督=金子修介。脚本=伊藤和典、金子修介。特技監督=樋口真嗣。音楽=大谷幸。撮影=戸沢潤一。美術=及川一。編集=冨田功。長峰真弓=中山忍、比良坂綾奈=前田愛、草薙浅黄=藤谷文子、浅倉美都=山吹千里、倉田真也=手塚とおる
「ガメラ 大怪獣空中決戦」(95年)、「ガメラ2 レギオン襲来」(96年)と続いたシリーズの完結編。「私はガメラを許さない」というコピーや予告編を見て、公開前からわくわくしていた。今回のガメラは凶暴な風貌。私は、ガメラが「人間の味方」過ぎる点や、教育映画になっている点を批判してきたが、完結編は一転してガメラの恐怖と被害者の憎しみを描いて新鮮だった。渋谷の破壊シーンは、ハリウッドの手法も取り込み、かつてない迫力。美しい翼を広げるイリスのデザインも独創的だ。特撮の樋口真嗣監督のセンスが冴える。クライマックスの直前で映画を閉じる思い切った終り方は、悲劇的な展開を予感させつつ圧倒的な余韻を残す。
「2」でハンサムになったガメラの顔が、再び変わった。渋谷を容赦なく壊滅させる無慈悲な表情は、悪くない。
「ええかっこしい」の片鱗がのぞくものの、苦悩しつつ闘いに臨む、悲愴美漂うラストシーンは感動的だ。ガメラとギャオスの闘いで両親を失いガメラを憎む少女比良坂綾奈を、前田愛が凛として演じている。「トイレの花子さん」の時から注目してきたが、今後が楽しみな女優だ。山吹千里、手塚とおるの怪演も嬉しい。
Les Miserables |
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1998年作品。アメリカ映画。133分。配給ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。 監督ビレ・アウグスト(Bille August)。脚本ラファエル・イグレシアス。 製作サラ・ラドクリフ、ジェームス・ゴーマン。撮影イェルゲン・ペーション。美術アンナ・アスプ。編集ヤヌス・ビレスコフ=ヤンセン。衣装デザイン=ガブリエラ・ペスクッチ。音楽ベイジル・ポールドゥリス。ジャン・バルジャン=リーアム・ニーソン(Liam Neeson)、ジャベール警部=ジェフリー・ラッシュ(Geoffrey Rush)、ファンテーヌ=ユマ・サーマン(Uma Thurman)、コゼット=クレア・デーンズ、マリユス=ハンス・マセソン、ボーヴェ=レイン・ブリノルフソン、司教=ピーター・ボーン
御存じビクトル・ユーゴーの大河小説を大胆に圧縮し、133分にまとめあげた。原作の持つ重厚さは薄れたが、慈愛と法律というテーマは、くっきりと浮かび上がった。ジャン・バルジャンとジャベール警部の迫真のドラマは、現代的な意味を失っていない。丁寧な時代考証と品格のある映像が、映画的な魅力を高めている。「ああ無情」は、母ファンテーヌと娘コゼットの悲惨さがとりわけ印象に残っているが、涙なしでは観られないこの部分を思い切ってカットした脚本は、一つの見識といえるだろう。
ジェフリー・ラッシュが素晴らしい。「シャイン」でも熱演していたが、無慈悲な法律を守ることで自己を保とうとするジャベール警部には、説得力があった。ジャン・バルジャン役のリーアム・ニーソンは、逞しさと繊細さを合わせ持つ主人公にぴったり。薄倖のファンテーヌを演じたユマ・サーマンも、意外なほどはまっていた。超名作にあえて挑戦したビレ・アウグスト監督の賭けは、ほぼ成功した。
THE WINGS OF THE DOVE |
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1997年作品。イギリス映画。101分。配給エース ピクチャーズ。 監督イアン・ソフトリー(Iain Softley)。原作ヘンリー・ジェイムズ(Henry James)。脚本ホセイン・アミニ。製作デイヴィッド・パーフィット、スティーブン・ エヴァンズ。撮影影エドゥアルド・セラ。美術ジョン・バード。衣装サンディ・パウエル。音楽エド・シアーマー。ケイト=ヘレナ・ボナム・カーター(Helena Bonham Carter)、マートン=ライナス・ローチ(Linus Roache)、ミリー=アリソン・エリオット(Alison Elliott)、モード=シャーロット・ランプリング、スーザン= エリザベス・マクガヴァン、ケイトの父=マイケル・ガンボン、マーク卿 =アレックス・ジェニングス
撮影はパトリス・ルコント映画の常連エドゥアルド・セラ。まず端正で魅惑的な映像に引き込まれる。なんと神秘的なヴェニスだろう。その映像の中で、複雑な心理劇が進む。新聞記者のマートンと結婚するため策略をろうしながら、嫉妬に負けるケイト。間近に迫った死を感じながら、マートンを愛し、ケイトの策略を知りつつ二人を結び付けようとするミリー。1910年代を舞台にしているが、その三角関係はあまりにも生々しい。ラストの寒々としたベッドシーンは現代に通じている。ヘンリー・ジェイムズ原作の映画では、「ある貴婦人の肖像」(ジェーン・カンピオン監督)をしのぐ名作だ。
アリソン・エリオットは、「天使はこの森でバスを降りた」以上に魅力的。死の恐怖を胸に隠しつつ明るく快活に振る舞うミリーを好演した。ケイト役のヘレナ・ボナム・カーターは、悪女ながら弱さも持つ女性の振幅を表現。シャーロット・ランプリングは、脇に回って作品を引き締める。もっとも複雑な性格なのが、マートン。「司祭」(アントニア・バード監督)で強烈な印象を残したライナス・ローチは、偽善的であり誠実でもあるマートンの揺れを寡黙に演じた。彼の切なさと悲しみに共感できるかどうかで、この作品から受ける印象は、かなり違ってくるだろう。
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