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2004.11

 ハウルの動く城 「ハウルの動く城」の画像です

 2004年作品。日本映画。119分。配給=東宝。監督・脚本=宮崎駿。プロデューサー=鈴木敏夫。製作担当=奥田誠治、福山亮一。原作=ダイアナ・ウィン・ジョーンズ「魔法使いハウルと火の悪魔」(徳間書店刊)。音楽=久石譲。主題歌=倍賞千恵子「世界の約束」。作画監督=山下明彦、稲村武志、高坂希太郎。美術監督=武重洋二、吉田昇。色彩設計=保田道世。デジタル作画監督=片塰満則。映像演出=奥井敦。録音演出=林和弘。整音=井上秀司。効果=野口透。制作=スタジオジブリ。ソフィー倍賞千恵子、ハウル=木村拓哉、荒地の魔女=美輪明宏、カルシファー=我修院達也、マルクル=神木隆之介、小姓=伊崎充則、かかしのカブ=大泉洋、国王=大塚明夫、ヒン=原田大二郎、サリマン=加藤治子


 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ「魔法使いハウルと火の悪魔」が原作なのに、これまでの宮崎駿作品のおいしいところをつなぎ合わせたような印象が残った。冒頭から登場する動く城は、良く考えられていて楽しい。城の内部も丁寧に描かれている。自然描写の美しさ、お得意の飛翔感も健在だ。しかし、物語がぎくしゃくしている。ちぐはぐなまま強引にまとめられている。だから、はらはらどきどき、わくわくするような躍動感が乏しい。「反戦」というメッセージも、この物語では付け足しにすぎない。宮崎駿作品としては及第点だろうが、大きな感激はわいてこなかった。

 18歳から90歳までのソフィー役を務めた倍賞千恵子。さすがに10代の声は違和感があった。しかし、さまざまな年令の声を次々と使い分けていくという離れ業は、倍賞千恵子のようなベテラン俳優でなければ難しいかもしれない。ハウル役の木村拓哉は、棒読み調がクールに響いて、なかなか良かったが、クライマックスになるとさすがに物足りなさを覚えた。荒地の魔女役の美輪明宏だけは、コミカルさも加わり貫禄十分だった。

 


 理由 「理由」の画像です

 12004年作品。日本映画。160分。製作=WOWWOW、PSC。配給=アスミック・エース。監督= 大林宣彦 。プロデューサー=戸田幸宏、大林恭子、山崎輝道。脚本=大林宣彦、石森史郎。原作= 宮部みゆき。 音楽= 石森史郎 、 山下康介、 學草太郎 。撮影= 加藤雄大 。照明= 佐野武治 。美術= 竹内公一 。録音= 井家眞紀夫 。衣装= 千代田圭介 。編集= 大林宣彦 、 内田純子 。出演=村田雄浩、加瀬亮、根岸季衣、寺島咲(新人)、厚木拓郎、入江若葉、岸部一徳、左時枝、嶋田久作、大和田伸也、細山田隆人、根岸徹、久本雅美、ベンガル、裕木奈江宝生舞、伊藤歩、中江有里、松田美由紀、立川談志、赤座美代子、南田洋子、風吹ジュン、石橋蓮司、山田辰夫、麿赤兒 、渡辺裕之、小林捻侍、榎本明、宮崎将、渡辺えり子、宮崎あおい、菅井きん、永六輔、小林聡美、勝野洋、小手川裕子、片岡鶴太郎


 大嵐の晩、超高層マンションで、4人が惨殺される。家族と思われた被害者たちは、捜査が進むにつれ、全くの他人だったことが明らかになる。大林宣彦監督は、原作のドキュメンタリー形式を尊重し、107人ものキャストをそろえ、複雑な構成を見事な手さばきで重層的な人間ドラマに仕上げた。歴史を背景にした群像劇としては成功したが、肝心の犯人の暗い心理には近づいていない。そして、ラストには蛇足としか思えない映像とコメントが添えられている。

 大林監督の劇場映画第一作「ハウス」 に出演した南田洋子を筆頭に、松田美由紀、風吹ジュン、小林聡美、高橋かおり、宝生舞、中江有里、伊藤歩、宮崎あおい、裕木奈江ら、かつて大林映画を駆け抜けたヒロインたちが出演する。さながら大林映画の歴史を振り返るようだ。そして、みなノーメイクなので、不思議な迫力が生まれている。


 ワイルドギャルズ・オブ・
  ザ・ネイキッドウエスト
 
「ワイルドギャルズ・オブ・ザ・ネイキッドウエスト」の画像です

 1965年作品。アメリカ映画。61分。配給:バイオタイド。監督・撮影・編集=ラス・メイヤー(Russ Meyer)。脚本=ラス・メイヤー、ジャック・モラン(Jacques Moran)。プロデューサー=ラス・メイヤー、ピーター・A・デセンジー(Peter A. DeCenzie)。美術=メル・ホーラー(Mel Fowler)。サミー・ギルバート(Sammy Gilbert)、テリー・テイラー(Terri Taylor)、フランク・ボルジャー(Frank Bolger)、ジュリー・ウィリアムス(Julie Williams)、ジャック・モラン(Jack Moran)


 さっぽろ映画祭で、ラス・メイヤー監督の「ワイルドギャルズ・オブ・ザ・ネイキッドウエスト」を観た。大スクリーンでラス・メイヤーの作品を見ることができるとは、思わなかった。ウエスタンと巨乳があふれる支離滅裂なアクション喜劇。低予算。全編、手抜きまくリだが、繰り返しによるギャグをはじめ、現代も通用するセンスも含まれている。突如現れるゴリラはいいね。

 ラス・メイヤー監督は、1922年3月21日、アメリカ・カリフォルニア州オークランド生まれ。第二次世界大戦中は陸軍の映画カメラマンとして活躍、戦後はカメラマンになり、やがてソフトコア映画でデビュー。1968年「女豹ビクセン」が大ヒット、20世紀フォックスと契約して問題作「ワイルド・パーティー」を1970年に発表する。2004年9月18日、82歳で死去。


 MAY 「MAY」の画像です

 2002年作品。アメリカ映画。94分。ラッキー・マッキー(Lucky McKee)。監督:ラッキー・マッキー(Lucky McKee)。製作:マリアス・バルチュナス、スコット・スタージョン。脚本:ラッキー・マッキー。撮影:スティーヴ・イェドリン。音楽:ジェイ・バーンズ=ラケット。メイ=アンジェラ・ベティス(Angela Bettis)、アダム=ジェレミー・シスト(Jeremy Sisto)、ポリー=アンナ・ファリス(Anna Faris)、ブランク=ジェームズ・デュヴァル(James Duval)、ニコール・ヒルズ(Nichole Hiltz)、ケヴィン・ゲイジ(Kevin Gage)


 可愛らしくって、怖い。キュートで残酷。ラッキー・マッキー監督のデビュー作「MAY」は、思春期の少女の切なさと猟奇殺人を見事に調和させている。センス抜群の映像と奇妙なギャグが混じるポップ感覚。ダリオ・アルジェントやロマン・ポランスキーに影響を受けたというが、新しいゴシックホラーに仕上がっている。

 メイを演じたベティスの演技は、本当に素晴らしい。各国の映画祭でも高く評価された。2003年ブリュッセル国際ファンタジー映画祭最優秀女優賞をはじめ、多数の女優賞を獲得。またこの作品によって、スティーヴン・キング原作「キャリー」のTVシリーズ版のキャリー役にも抜擢されている。


 17歳の処方箋 「17歳の処方箋」の画像です

 2002年作品。アメリカ映画。98分。配給=エスピーオー。監督・脚本=バー・スティアーズ(Burr Steers)。製作=リサ・トーネル、マルコ・ウェーバー、製作総指揮=ヘレン・ビーデルストン、ヴァネッサ・コフマン、フラン・ルッチ、デイヴィッド・ルービン。脚本=バー・スティアーズ。音楽=ヨーン=ウーヴェ・ファーレンクローク=ピーターセン。撮影=ウェディゴ・フォン・シュルツェンドーフ。編集=ウィリアム・M・アンダーソン、ロバート・フラゼン、パードリック・マッキンレー。美術=ケヴィン・トンプソン。衣装=サラ・エドワーズ。主人公イグビー・スローコム=キーラン・カルキン(Kieran Culkin)、兄オリバー=ライアン・フィリップ(Ryan Phillippe)、母ミミ・スローコム=スーザン・サランドン(Susan Sarandon)、スーキー・サーパスティン=クレア・デインズ(Claire Danes)、D.H=ジェフ・ゴールドブラム(Jeff Goldblum )、レイチェル=アマンダ・ピート(Amanda Peet)、ラッセル=ジャレッド・ハリス(Jared Harris)、父ジェイソン・スローコム=ビル・プルマン(Bill Pullman)


 原題は「IGBY GOES DOWN(イグビーは落ちる)」。主人公イグビーの自分探しの物語。インディーズ作品なのに、キャストがとても豪華だ。キーラン・カルキン、ライアン・フィリップ、スーザン・サランドン、クレア・デインズ、ジェフ・ゴールドブラム、アマンダ・ピート、ジャレッド・ハリス、ビル・プルマンが共演している。麻薬に溺れるアマンダ・ピートの演技が印象的。

 富裕層の家族崩壊と子どもの自立、その周辺の人たちを描いているが、誰にも感情移入できない。だから、深く感動したわけではないが、俳優たちの存在感とストーリーの微妙なバランスに助けられて、観終わって物足りない感じはしなかった。西海岸に旅立つ主人公イグビーが兄オリバーと別れの抱擁をしたときに、オリバーが手にしていたグラスが落ちて割れる。旅立ちの不安がうまく表現されていた。


 エイリアンVS.プレデター 「エイリアンVS.プレデター」の画像です

 2004年作品。アメリカ映画。101分。配給=20世紀フォックス映画。監督= ポール・W・S・アンダーソン(Paul W.S. Anderson)。製作= ゴードン・キャロル、ジョン・デイヴィス、デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル、ジョエル・シルヴァー、ローレンス・ゴードン、デヴィッド・ミンコフスキー、マシュー・スティルマン、クリス・サイムズ。製作総指揮= ウィック・ゴッドフレイ、トーマス・M・ハメル、マイク・リチャードソン。脚本= ポール・W・S・アンダーソン、シェーン・サレルノ。撮影= デヴィッド・ジョンソン。編集= アレクサンダー・ベルナー。配役= ドナ・アイザックソン、クリスチャン・カプラン、スザンヌ・スミス。音楽= マルコ・ベルトラミ、アラン・シルヴェストリ。Alexa 'Lex' Woods=サナ・レイサン(Sanaa Lathan)、Sebastian Wells=ラウル・ボーヴァ(Raoul Bova)、Max Stafford=コリン・サーモン(Colin Salmon)、Charles Bishop Weyland=ランス・ヘンリクセン(Lance Henriksen)、Graham Miller=ユエン・ブレムナー(Ewen Bremner)、Adele Rousseau=アガト・ド・ラ・ブーレ(Agathe De La Boulaye)、Verheiden=トミー・フラナガン(Tommy Flanagan) 、Quinn=カーステン・ノルガード(Carsten Norgaard) 、Connors=ジョセフ・ライ(Joseph Rye)、Thomas=サム・トラフトン(Sam Troughton)、Lead Alien=トム・ウッドラフ・Jr(Tom Woodruff Jr.)


 待ちに待った「エイリアンVS.プレデター」を観た。「プレデター2」(1990年)で事実上予告されて14年。リドリー・スコット監督の「エイリアン」から4半世紀が経過した。舞台は現代。監視衛星が熱反応で南極大陸の氷の下600メートルに巨大な建造物を発見する。それはピラミッドのかたちをしていた。探検チームが調査に向う。そこは若きプレデターがエイリアンと戦い、戦士として試練を受ける儀式の場所だった。「フレディVSジェイソン」ほど、説得力はないが、人類とエイリアンとプレデターが出会うためには、順当な設定だろう。

 ストーリーは、スムーズに転がっていく。氷の下の動くピラミッドのデザインと質感は、なかなか凝っている。「流星からの物体X」「CUBE」などを連想させるのは、いかにもアンダーソン監督らしい。エイリアンが登場する前も、安直なつくりをしていない。エイリアンとプレデターの闘いではプレデターの戦士たちがばたばたと倒されて、やや意外。クイーンエイリアンが闘いに参加すると、プレデターは敗色が濃厚になる。ここでシガニー・ウィバーならぬサナ・レイサンが活躍する。闘いは、あまり引っ張ることなく終わりを迎えるが、ここでもアンダーソン監督らしいラストシーンが楽しめる。全編にわたり、相当面白い。ただ観終わった後に、謎解きなどをしてはいけない。


 IZO 「IZO」の画像です

 2004年作品。日本映画。128分 。配給=チームオクヤマ。企画・原案・脚本=武知鎮典。監督=三池崇史。スーパーバイザー=奥山和由。製作=高野秀夫、波多野保弘、伊藤秀裕。企画=服巻泰三、松島富士雄。企画プロデュース=前田茂司。プロデューサー=向井達矢。CGIプロデューサー=坂美佐子。撮影=深沢伸行。照明=杉本崇。録音=小原善哉、鶴巻仁。美術=松宮敏之。編集=島村泰司。音楽=遠藤浩二。唄=友川かずき。イゾー=中山一也、槍仕置き人一=遠藤憲一、槍仕置き人二=寺島進、歌手=友川かずき、位相の絶対者=松田龍平、男蝶=高野八誠、女蝶=夏山千景、領袖=美木良介、壱番の男=石橋蓮司、弐番の男=内田裕也、参番の女=中山麻理、トシゾー 新撰組=勝野洋、ソウジ 新撰組=及川光博、門番一=山口仁、門番二=本宮泰風、僧兵一=菅田俊、僧兵二=TEAH、僧兵三=村上竜司、位相の権威=ミッキーカーチス、位相の権威=石山雄大、大僧正=長門裕之、ミトコンドリア・イブ=高瀬春奈、宰相=ビートたけし、財界のドン=曽根晴美、官僚の長=岡田眞澄、軍閥の将軍=片岡鶴太郎、学界のドン=篠田三郎、鬼一=大橋吾郎、鬼二=山本太郎、イゾーの母親=樹木希林、判事一=原田大二郎、判事二=加藤正人、判事三=塩田時敏、茶室の老人客=大滝秀治、茶室の老主人=原田芳雄、新郎=小林滋央、新婦=天手千聖、女教師=夏樹陽子、剣豪=緒形拳、浪人=魔裟斗、地蔵菩薩=秋野太作、サヤ=桃井かおり、SAT隊長=松田優、ボブ・サップ=門衛の怪物、与力=須藤雅宏、やくさの貸元=力也、ヤンキーのアタマ=原田龍二、ヤンキーのサブ=ERIKU、雑兵一=山口祥行、雑兵二=古井榮一、ハンペイタの執事=ジョー山中、やくざのボス=松方弘樹、ボスの手下一=武蔵拳、ボスの手下二=田島好人、ボスの手下三=内山仁


 三池崇史監督の「IZO」は、位相システムに生じたノイズであるIZOの殺りくの描写の連続。戦争などの記録映像や登場人物たちの重そうで軽い会話は、脱きゅうしている。「IZO」と「位相」の闘い、以上!と言ってしまえば終わり。血がおびただしく流れるが、知は乏しい。「マトリックス」はシステムとノイズの関係を探ろうとしながら結局問いから逃げてしまったが、「IZO」は最初のアイデアから物語を練り上げるのではなく、安直な血みどろアクションシーンの繰り返しに終始している。難しそうには見えるが、古い権力観から抜けだせない単純な構造をしている。映画の文法を打ち壊したと言うよりも、構成を放棄したとしか思えない。もっともっと脚本を鍛えなければだめだ。

 さらに信じ難いことには、オールスターと呼べそうなほど、豪華なキャスティングなのだ。大半の有名俳優が、大袈裟な芝居をして、すぐに退く。ギャグとしての軽さがあれば、昔流行った芸能界の年末隠し芸大会になったのだが。それでも、さすがに俳優がしっかりしているのでワーストワン「デビルマン」の地位を脅かすには至らなかった。友川かずきが1970年代フォークを歌う場面が繰り返し出てくる。しかし情念のほとばしりの表現にも、人間の愚かさを示すギャグにもならなかった。

 


 オールド・ボーイ 「オールド・ボーイ」の画像です

 2003年作品。 韓国映画。120分 。配給=東芝エンタテインメント。監督=パク・チャヌク。原作=土屋ガロン、嶺岸信明。脚本=ワン・ジョユン、イム・ジュンヒュン、パク・チャヌク。撮影=ジョン・ジョンフン。美術=リュ・ソンヒ。音楽プロデューサー=チョ・ヨンウク。音楽=イ・ジス、チェ・スンヨン、シム・ヒョンジュン。プロデューサー=キム・ドンジュ。オ・デス=チェ・ミンシク(Min-sik Choi)、イ・ウジン=ユ・ジテ(Ji-tae Yu) 、ミド=カン・ヘジョン(Hye-jeong Kang) 、スア=ユン・ジンソ(Jin-seo Yun)、チ・デハン(Dae-han Ji)、オ・ダルス(Dal-su Oh) 、キム・ビョンオク(yeong-ok Kim) 、キム・スヒョン(Su-hyeon Kim)、イ・スンジン(Seung-jin Lee)、ユン・スギョン(Su-kyeong Yun)、パク・ミョンシン(Myeong-shin Park)


 映画のチラシに「この映画の結末は絶対に口外しないでください。秘密を漏らすと15年監禁される事があります」と書いてあった。「何故、平凡に暮らしていた男が突然誘拐され、15年間監禁されたのか」というネタをばらさずに、この作品の魅力を説明することは、なかなか難しい。とにかく緊張感があって、とても濃い作品だ。生きて動いているタコを食いちぎるシーンや電車に乗っている巨大なアリのシーンが、独特のおかしさと悲しさを醸し出していた。ただし、私は先読みして映画を見る方ではないのに、前半で結末の予測がついてしまい、つまらない思いをした。残念。「SAW」のように、驚きたかったなあ。

 チェ・ミンシクの熱演は、文句の付けようがないレベル。原作は日本の劇画だが、なまじ日本で映画化しなくて良かった。ここまでの迫力を出すことは困難だ。そしてヒロインのカン・ヘジョンが素晴らしくキュート。この可愛らしさが、意外な結末をより痛々しいものにしている。最初はやや軽薄に見えたユ・ジテも、最後はバシッと見事に決めた。そしてユン・ジンソの手鏡シーンと写真を撮った後に橋から落ちるシーンが印象に残った。  


 血と骨 「血と骨」の画像です

 2004年作品。日本映画。144分。配給:松竹、ザナドゥー。監督=崔洋一。原作=梁石日『血と骨』(幻冬舎文庫刊)。脚本=崔洋一、鄭義信。撮影=浜田毅。美術=磯見俊裕。編集=奥原好幸。録音=武進。照明=高屋齋。金俊平=ビートたけし、李英姫=鈴木京香、金正雄=新井浩文、金花子=田畑智子、朴武=オダギリジョー、高信義=松重豊、山梨清子=中村優子、金春美=唯野未歩子、鳥谷定子=濱田マリ、張賛明=柏原収史、大山(金成貴)=塩見三省、元山吉男=北村一輝、趙永生=國村隼、朴希範=寺島進


 梁石日の傑作小説「血と骨」を崔洋一監督が構想期間6年をかけて制作した。ことし、もっとも完成を楽しみにしていた邦画のひとつ。確かに熱はこもっている。肝臓をつかまれているような感覚にも襲われた。しかし、原作が持つ壮大な叙事詩的広がり、主人公・金俊平の人間離れしたバイタリティ・凶暴さいう設定が、生かされていない。歴史と神話がひとつに溶け合ったような魅力が、映画からは伝わってこない。歴史のうねりや争乱が大幅にカットされている点には眼をつぶるとしても、主人公のスケールがここまで小さくなってしまっては、映画化の意味はない。暴力団との壮絶な喧嘩のシーン、深い傷を自分で直す場面がないので、家庭内暴力の男たちと、あまり変わらない印象になった。とても怪物には見えない。原作を知らなければ、相当派手な映画に感じられたかもしれないが。

 汚れ役に挑戦と注目されていた鈴木京香は、今回はおとなしすぎる。金俊平の暴力に耐えながらしぶとく生き抜く強さが感じられない。代わりに、山梨清子役の中村優子、鳥谷定子役の濱田マリの二人の熱演に驚かされた。朴武役のオダギリジョーは、短いシーンにも関わらず、強い印象を残す。演技に華があった。ビートたけしでなければ金俊平を演じられなかったかもしれないが、もっと派手な演技がほしかった。表情だけでも怒りで煮えたぎるような迫力が見たかった。


 珈琲時光 「珈琲時光」の画像です

 2003年作品。日本映画。108分 。配給=松竹。監督=侯孝賢(ホウ・シャオシェン)。プロデューサー=宮島秀司、廖慶松(リャオ・チンソン)、山本一郎、小坂史子。脚本=侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、朱天文(チュー・ティエンウェン)。撮影=李屏賓(リー・ピンピン)。録音=杜篤之(ドゥー・ドゥージ)。編集=寥慶松(リャオ・チンソン)。主題歌=一青窈「一思案」。井上陽子=一青窈(ひとと・よう)、竹内肇=浅野忠信、誠治=萩原聖人、母親=余貴美子、父親=小林稔侍


 夕張映画祭で握手してもらったホウ・シャオシェン監督の新作「珈琲時光」。派手で騒がしい作品が映画界を支配している中で、人と人の触れ合い、場の空気感を静かに味わうタイプの作品は、素晴らしく新鮮だ。小津安二郎生誕100年を記念してつくられただけのことはある。携帯電話やAppleのPowerbookG4が登場しなければ21世紀の東京とは思えないほど、情緒にあふれた映像が流れる。その香りに耳をすませた。ライター陽子と古書店を営む肇の関係も、ほのぼのとしている。「妊娠している。相手は台湾にいる人。結婚するつもりはない」と話す陽子と、とまどう両親の関係も流れる空気が表現する。

 これといった事件が起こらないにもかかわらず、退屈することがない。気をてらった映像表現があるわけではないが、いつも心地よく緊張している。ぶっきらぼうに話す一青窈は、地を生かして違和感がない。浅野忠信、余貴美子、小林稔侍は相変わらずうまい。交差してすれ違う電車を映し続ける映像が見事な締めくくりとなった。電車マニアには、たまらないシーンだろう。浅野忠信がPowerbookG4でイラストレーターを使い電車をモチーフにしたイラストを見せる場面が印象的。自作らしい。なんとOS9を使っていた。一青窈が食べた肉じゃがも美味しそうだった。MACファンで肉じゃが好きの私は大満足。


 
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