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 飛ぶ教室 「飛ぶ教室」の画像です

 2003年作品。ドイツ映画。114分。配給=メディア・スーツ。監督=トミー・ヴィガント。脚本=ヘンリエッテ・ピーパー、フランツィスカ・ブッフ、ウッシー・ライヒ。プロデューサー=ウッシー・ライヒ、ペーター・ツェンク。原作=エーリヒ・ケストナー「飛ぶ教室」。撮影監督=ペーター・フォン・ハラー。美術=インクリット・ヘン。衣装=ブリギット・サミール。編集=クリスチャン・ナウハイマー。音楽=ニキ・ライザー、ビーバー・ギュラッツ、モーリッツ・フライゼ。ヨーハン・ベク“正義”先生=ウルリヒ・ノエテン、ボブ・ウトホフト“禁煙”=セバスチャン・コッホクロイツカム校長=ピート・クロッケ、カトリン=アーニャ・クリング、ヨナタン・トロッツ=ハウケ・ディーガンフ、モナ・エーガーラント=テレザ・ウィルスマイヤー、マルティン・ターラー=フィリップ・ペータース=アーノルズ、ウリー・フォン・ジンメルン=ハンス・プロイヒ・ヴトケ、ゼバスティアン・クロイツカム=フランソワ・ゴシュケ、マッツ・ゼルプマン=フレデリック・ラウ


 軽快でユーモアに満ち、最後は大きな感動に包まれた。舞台は、旧東ドイツのライプツィヒ。70年前に書かれた原作を現代に置き換えて、場所に大きな意味を持たせた。主人公たちが合唱団のメンバーという設定も、ラストのミュージカル劇へとスムーズに結びついている。大人と子供の信頼関係、友情といったテーマを生かしながら、なんと巧みな改変だろうか。

 子ども向けの作品なのだろうが、大人も引き込まれるきめ細やかな仕上がり。登場する大人も子どもたちも、みな個性的で好感が持てる。友情の大切さというメッセージは、ストレートに届いた。子どもたちの友情、大人たちの友情、大人と子どもの友情。理想論だという意見もあるだろうが、私はさわやかな希望を受け取った。そしてクライマックスのクリスマス劇では、魅力的な魔術にも出会えた。


 女はみんな生きている 「女はみんな生きている」の画像です

 2001年作品。フランス映画。112分。配給=アスミック・エース。製作=アラン・サルド。製作総指揮=クリスティーヌ・ゴズラン。監督=コリーヌ・セロー。脚本=コリーヌ・セロ一。撮影=ジャン=フランソワ・ロバン。美術=ミシェル・アベ。編集=カトリーヌ・ルノー。録音=ピエール・ロラン、ミュリエル・モロー、ジョエル・ランゴン。衣装=カレン・セロー。音楽=リュドヴィク・ナヴァール。製作主任=アラン・サントンズ。ポール=ヴァンサン・ランドン、エレーヌ=カトリーヌ・フロ、ノエミ/マリカ=ラシダ・ブラクニ、マミー=リーヌ・ルノー、ファブリス=オレリアン・ヴィイク、トゥキ=イヴァン・フラネク、マルザ=ミシェル・ラゲリ、パリ=ヴォイテク・ブショニャク


 偶然に出会った主婦と娼婦が協力し、男たちへの復讐を果たす。こう書いてしまうと面白くも何ともない。しかし作品は、とても笑える。女性監督コリーヌ・セローが、フランスの差別的な現実に切り込みながら、お得意のウイットでまとめあげた佳作。女性は強く魅力的、男性は弱く身勝手。誇張して描かれているものの、妙に生々しく感じるのは、細部を丁寧に積み上げているからだろう。

 とにかく展開が早い。特に後半の波乱万丈ぶりはハリウッドも真っ青だ。そして女性差別のほか夫婦関係、親子関係、売春組織、貧困問題などなど、多面的なテーマを盛り込みながら、すっきりとまとめあげてしまう。その手さばきにも感心した。派手な展開の後に訪れるラストシーンの穏やかな美しさは絶品だ。


 ラスト・サムライ 「ラスト・サムライ」の画像です

 2003年作品。アメリカ映画154分。配給=ワーナーブラザーズ映画。監督=エドワード・ズウィック。製作=トム・クルーズ、トム・エンゲルマンスコット・クルーフ、ポーラ・ワグナー、エドワード・ズウィック、マーシャル・ハースコヴィッツ。製作総指揮=テッド・フィールド、チャールズ・マルヴェヒル、リチャード・ソロモン、ヴィンセント・ウォード。脚本=ジョン・ローガン、エドワード・ズウィック、マーシャル・ハースコヴィッツ。撮影=ジョン・トール。編集=スティーヴン・ローゼンブラム。音楽=ハンス・ジマー。ネイサン・オールグレン大尉=トム・クルーズ、勝元盛次=渡辺謙、サイモン・グラハム=ティモシー・スポール、ゼブラ・ギャント軍曹=ビリー・コネリー、ベンジャミン・バグリー大佐=トニー・ゴールドウィン、氏尾=真田広之、たか=小雪、明治天皇=中村七之助、中尾=菅田俊、大村=原田眞人


 「ラスト・サムライ」を観て、複雑な気持ちになった。優れているからこそ、そこに潜む危うさにも目を向けなければならない。思わぬ毒が隠されている。

 ほぼ全編にわたって映像が緊張を保ち、カメラワークも高い水準にある。日本の近代化の中で滅びていく武士的な倫理、生き方を正面から描いている。多少の単純化、誇張はあるが、武士道については研究した跡がうかがえる。さらに、ネイティブ・アメリカン虐殺の歴史も描かれ、近代化の野蛮性が示される。アメリカや近代化を相対化する視点は、極めて現代的な批評になっている。ただ、勝元が戦死した後の展開は、いかにもハリウッド映画。凛とした空気が湿ってしまった。

 この作品の質を支えている資金力だけでなく、妥協のない良く訓練された戦闘、殺陣シーン、人間的な明治天皇を登場させる試みなど、現在の日本映画では実現し得ないレベルにあることは、間違いない。侍の生きざまに接して、政府側から反逆者の道を選んだトム・クルーズが演じるネイサンの戦士としての心情も、よく理解できる。だが、武士道は、主君への絶対的な服従が基本であり、戦のために心身を鍛えるという姿勢が根幹にある。その潔癖さだけを評価し、武士道を美化するのは危険だ。

 武士道を全否定するつもりはない。しかし歴史を踏まえながら、慎重にとらえ返さなければならない。「勝元はかっこいい」と舞い上がることなく、日本人は近代化とともに、武士道の限界性をもあらためて自覚すべきだろう。その危険性は、けっして過去のものではない。


 ファインディング・ニモ(字幕版) 「ファインディング・ニモ(字幕版)」の画像です

 2003年作品。アメリカ映画。101分。配給=ブエナ ビスタ インターナショナル。監督=アンドリュー・スタントン。共同監督=リー・アンクリッチ。製作=グラハム・ウォルターズ。製作総指揮=ジョン・ラセター。脚本=アンドリュー・スタントン、ボブ・ピーターソン、デイヴィッド・レイノルズ。音楽=トーマス・ニューマン。編集=デイヴィッド・イアン・サルター。プロダクション・デザイナー=ラルフ・エッグルストン。撮影=シャロン・カラハン、ジェレミー・ラスキー。スーパーバイジング・アニメーター=ディラン・ブラウン。マーリン=アルバート・ブルックス、ドリー=エレン・デジェネレス、ニモ=アレクサンダー・グールド、ギル=ウィレム・デフォー、ブロート=ブラッド・ギャレット、ピーチ=アリソン・ジャネイ、ガーグル=オースティン・ペンドルトン、バブルス=ステファン・ルート


 相変わらずピクサーは、面白い。今回も良くできていた。CGの美しさとともに、皆でアイデアを出し合って、楽しんでつくっている。海の生き物の特徴を生かした笑いの質は、驚くほど高度。差別的な笑いではない。ストーリーの根幹は父親と子どもの成長と和解だが、周囲のサポートも重要。登場するキャラクターたちは、必ず一ひねりしてある。ニモは片方のひれが小さく上手く泳げないというハンディを持っている。病的な健忘症のドリーが、前向きにマーリンを励まし、サメたちとも仲が良いという設定も考えさせられる。

 単純なストーリーに見えて、憎悪をかき立てない配慮、友愛に満ちた展開に心が温まる。毒がなさ過ぎると思うかもしれないが、現代への批評もさり気なく行っている。魚たちが「人間は傲慢だ」と言った後、「アメリカ人?」という一言を付け加えるところが、いかにもピクサーらしい。エンドクレジットでは、これまでのように爆笑NG集はない。しかし、さまざまなキャラクターが心憎いかたちで再登場する。最後の最後まで席を立たないように。


 アララトの聖母 「アララトの聖母」の画像です

 2002年作品。カナダ映画。115分。配給=ギャガGシネマ。監督・脚本・製作=アトム・エゴヤン。音楽=マイケル・ダナ。製作=ロバート・ラントス。撮影=ポール・サロッシー。編集=スーザン・シップトン。プロダクション・デザイン=フィリップ・ベイカー。衣装=ベス・ペスターナク。ラフィ=デヴィッド・アルペイ、エドワード・サロヤン=シャルル・アズナブール、アニ=アーシニー・カンジャン、シリア=マリ・ジョゼ・クローズ、アリ=イライアス・コティーズ


 アトム・エゴヤン監督の新作「アララトの聖母」は、トルコ政府が1915年に行ったアルメニア人大虐殺を主題にしている。犠牲者は150万人と言われている。ヒトラーがユダヤ人虐殺の参考にしたらしい。これほどの大虐殺だが、ユダヤ人虐殺のように世界にはあまり知られていない。そのことに、胸が締め付けられる。劇中劇で再現された虐殺シーンは、当時のアメリカ人宣教師クラレンス・アッシャーの著作に基づいている。日本の三光作戦を連想させるようなひどい殺し方をしている。

 映画は、この事実を告発するだけではなく、母と子のきずなや映画を制作する監督自身の姿勢を問うような複雑な構造になっている。この点は「マグダレンの祈り」と、かなり違うアプローチだ。そのことで、虐殺の史実を強く訴えるという側面が、やや弱くなっていることは否定できない。しかし監督が亡命画家ゴーキー、映画監督サロヤンに託した思いは、理解できる。


 東京ゴッドファーザーズ 「東京ゴッドファーザーズ」の画像です

 2003年作品。日本映画。90分。配給=ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント。企画=丸山正雄。監督・原作・脚本・キャラクターデザイン=今敏。脚本=信本敬子。音楽=鈴木慶一。演出=古屋勝悟。キャラクターデザイン・作画監督=小西賢一。美術監督=池信孝。撮影監督=須貝克俊。撮影=スタジオイプセ。音響監督=三間雅文。制作プロデューサー=豊田智紀。アニメーション製作=マッドハウス。ギンちゃん=江守徹、ハナちゃん=梅垣義明、ミユキ=岡本綾


 今敏監督の「東京ゴッドファーザーズ」は、文句なく楽しめるアニメーション作品。ホームレスという低い視点から東京が描かれていく。宮崎駿作品のようなスケール感、スピード感はないが、物語を気持ち良く転がしていくセンスは、今監督の方が一枚上だろう。そんなに都合良く運ぶわけないよなあ、という思いが、次々とはまっていく快感に変わる。ちりばめられたピースが、最後にすべてはまったジグソーパズルのようだ。

 主人公は、ホームレスの3人。交わされる会話が、とても面白い。それぞれに複雑な過去を持っているが、それを説明的にではなく、物語の展開に合わせて明らかにしていく手さばきが鮮やか。江守徹、梅垣義明の話術の巧みさは良く知られているが、声優初挑戦の岡本綾が信じられないほどに上手い。この3人のどたばたコンビは、捨てられた赤ちゃんを助けたことで、幸せな奇跡を体験する。アニメは次第に3D主流になりつつあるが、従来のアニメ手法でも、こんなに素晴らしい感動を運んでくれる。あらためてアニメの多様な可能性を痛感した。


 アンダーワールド 「アンダーワールド」の画像です

 2003年作品。アメリカ映画。121分。配給=ギャガ・ヒューマックス。監督=レン・ワイズマン(Len Wiseman)。製作=ゲイリー・ルチェッシ、トム・ローゼンバーグ、リチャード・S・ライト。製作総指揮=スキップ・ウイリアムソン。共同製作=ケヴィン・グレボワ。脚本=ダニー・マクブライド。原案=ケヴィン・グレボワ、ダニー・マクブライド、レン・ワイズマン。撮影=トニー・ピアース=ロバーツ。編集=マーティン・ハンター。美術=サバ・ストーク。特殊効果スーパーバイザー=ニック・アルダー。クリーチャーショップスーパーバイザー&パペッター=ガイ・ヒンバー。クリーチャーデザイナー=パトリック・タトポロス。セリーン=ケイト・ベッキンセール(Kate Beckinsale)、マイケル医師=スコット・スピードマン、クレイヴン=シェーン・ブローリー、ライカン=マイケル・シーン、ヴィクター=ビル・ナイ、シング=アーウィン・レダー、エリカ=ソフィア・マイルズ、ピアース=リチャード・セトロネ、レイズ=ケビン・グレボア


 吸血鬼(ヴァンパイア)と狼男族(ライカン)の死闘を描くサイバー・アクション映画。ヴァンパイアとライカンが何故に戦うようになったのかだが、次第に明らかになっていく動機は、興味深くはあるものの、説得力は乏しい。冒頭から、銃撃戦を展開するのは、新しいといえば新しいが、このタイプの作品としては月並みなアクション映画になってしまう。ラストの剣のシーンが決まっていたように、殺陣の方が雰囲気に合うのではないか。

 レン・ワイズマンの美意識で統一されたダークな雰囲気はあるが、ゴシックさは強くない。この作品を魅力的にしているのが、終始クールな表情を崩さないケイト・ベッキンセール。これまでのイメージを一新し、新しいタイプのアクション・ヒロインを目指した。しかし、美しくはあるが全体に線が細く、眼の力が弱い。汚れ役に挑戦し、もっと力強く、もっとセクシーになれば、より魅力的になれる。次作に期待しよう。


★アネモネ・プログ(blog)ケイト・ベッキンセール、アクション・ヒロインの可能性

 
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