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2007.4

 劇場版 キノの旅-病気の国 「劇場版 キノの旅-病気の国」の画像です

 原作=時雨沢恵一。原作イラスト=黒星紅白。監督=中村 隆太郎。脚本=小中千昭。キャラクターデザイン=伊藤良明。アニメーション制作=シャフト。キノ/前田愛。エルメス/相ヶ瀬龍史。イナーシャ/川澄綾子

 正式な題名は「劇場版 キノの旅 the Beautiful World 病気の国 For You」。いろいろな国を訪れて、いろいろな人々との出会いを経て3日目に旅立つキノとエルメスが新たに訪れた国は、科学が発達した高い文明を持つ国。そこでは一般市民は、安定した環境に制御された巨大なドームの中で暮らしていた。ほのぼのとしているようで、切なく、ときに辛辣で毒がある展開が持ち味。劇場版は、丁寧に雰囲気を醸し出していたが、もう少し毒が欲しかった。


 劇場版 灼眼のシャナ 「劇場版 灼眼のシャナ」の画像です

 原作=高橋弥七郎。原作イラスト=いとうのいぢ。監督=渡部 高志。脚本=小林靖子。キャラクターデザイン=大塚 舞。アニメーション制作=J.C.STAFF。

 炎髪灼眼の少女シャナと、すでに死んで存在亡き者(トーチ)となっていた高校生・悠二の冒険物語。原作小説第I巻を再構成し、すべての始まりを描く。私は、かつてこのTVアニメを観て、すでに死んでいる高校生を中心に据えるという設定に驚いた。そこに、現代の希薄な生の感覚を深読みした。

 劇場の大きなスクリーンに、シャナの姿が栄える。ツンデレが、かわいい。戦闘シーンの迫力も満点。次の劇場版は2時間バージョンで、じっくり見せてほしい。1時間では、この独特な世界観を描くことは難しいと思った。


 いぬかみっ! THE MOVIE 「いぬかみっ! THE MOVIE」の画像です

 原作=有沢まみず。原作イラスト=若月神無。監督=草川啓造。脚本=玉井☆豪。キャラクターデザイン=友岡新平。アニメーション制作=セブン・アークス。

 正式な題名は「いぬかみっ! THE MOVIE 特命霊的捜査官・仮名史郎っ!」。何のパロディかは明白。それにしても、すごいテンションで爆走してくれた。下ねた満載のドタバタ・ラブコメディ。1980年代前半に流行った「がきデカ」+「うる星やつら」のテイストに近い。今どき、「ゾウさん」ネタで笑わされるとは。しかし、面白かった。


 ハンニバル・ライジング 「ハンニバル・ライジング」の画像です

2007年作品。アメリカ・イギリス・フランス合作。121分。配給=東宝東和。監督=ピーター・ウェーバー。原作・脚本=トマス・ハリス。撮影=ベン・デイヴィス。編集=ピエトロ・スカリア。音楽=アイラン・エシュケリ。

 トマス・ハリス原作の「ハンニバル・レクター」シリーズ「羊たちの沈黙」「ハンニバル」「レッド・ドラゴン」に続く映画化第4弾。トマス・ハリスが、脚本も手がけている。ハンニバル・レクターの少年から青年期にスポットを当てる。1944年のリトアニアで空腹な逃亡兵に幼い妹ミーシャを食べられるという体験をしたハンニバル・レクターが、妹を食べた男たちに復讐していく。

 ハンニバルの人格形成に、悲惨な戦争体験が影を落としているのは、分かっていたが、今回は前半で激しい戦争シーンが繰り返される。多くの人が死んでいく。生き延びたハンニバルは、長い間悲惨な記憶に悩まされ続ける。視覚的に戦争の惨さを見せつける。その意味では、戦争映画と言ってもいいだろう。

 珍妙な日本文化が登場する。日本人のムラサキ夫人役を、コン・リーに奪われてしまったので、中国文化も混ざっている。相変わらず、こんなレベルなのかと嘆きたくなるが、ストーリー自体に日本人とのつながりが乏しいので、笑うしかない。「ハンニバル」のラストでも、日本を匂わせていたが、ハンニバル人気の根強い、日本へのサービスのつもりかもしれない。

 映画を見始めて、その映像の繊細な美しさに驚いた。悲惨な戦争シーンと対比するように、静かな美しさをたたえたシーンが目立った。ただ、後半になると、復讐劇に重点が移り、繊細な映像美が少なくなった。しかし、レクター役のギャスパー・ウリエルの知的で妖しい美しさが、この作品を支え続けた。アンソニーホプキンスとは似ていないが、若きレクターとしての魅力は十分だ。


 ブラックブック 「ブラックブック」の画像です

 23年ぶりにオランダにもどって完成させた最新作「ブラックブック」。ナチスと戦ったオランダレジスタンス内部の腐敗をあばく作品。ある意味で歴史的なタブーに挑戦している。どんな奇抜な趣向で見せてくれるかと思っていたが、ポール・バーホーベン監督らしからぬ、手堅いつくりだ。まず風景が美しい。主人公ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)は、とてもクール。周到な伏線が活きている。最後まで緊張感あふれるサスペンスは、片時も飽きさせない。なかなかの娯楽大作だ。

 ただ、最初にネタばらしする構成は、かなりユニークだろう。主人公の生死に、はらはらさせるハリウッド的な展開を自ら禁じている。そして、ラスト近くの糞尿版「キャリー」のシーンで、監督の悪趣味が全開する。やってくれました。オランダ映画史上最高の25億円の製作費を投じた作品を、糞尿まみれにするとは、さすがバーホー便。


 ブラッド・ダイヤモンド 「ブラッド・ダイヤモンド」の画像です

 エドワード・ズウィック監督の「ブラッド・ダイヤモンド」は、アフリカ・シエラレオネでのでの激しい内戦と紛争ダイヤモンドを巡る物語。ダイヤモンド業界の暗部に光を当てるとともに、誘拐され兵士にされる少年たちの問題がクローズアップされる。元傭兵でダイヤ密売人ダニーにレオナルド・ディカプリオ、紛争ダイヤモンド問題を追う女性ジャーナリスト・マディーにジェニファー・コネリー、偶然大粒のピンク・ダイヤを見つけた男ソロモンにジャイモン・フンスー。それぞれ、手堅く好演している。中でも、ディカプリオは役者として大きくなったと思う。

 社会派エンターテインメント作品。アフリカの抱える深刻な問題、欧米の紛争への関与を明らかにするという側面と、息もつかせないアクションシーンの連続という娯楽性が、共存している。テンポを良くするため、あり得ない「ご都合主義」が随所にみられるものの、ハリウッド作品としては、品格を持った仕上がりだと思う。主人公のダニーが死んだ後、ダイヤモンド業界の暗部が暴かれ、紛争ダイヤモンドの問題が明るみに出る。ソロモンが演壇に立つ場面は、アフリカの当事者を尊重した見事なラストシーンだった。


 善き人のためのソナタ 「善き人のためのソナタ」の画像です

 1984年、東西冷戦下の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)局員のヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は、劇作家のドライマン(セバスチャン・コッホ)と舞台女優で恋人のクリスタ(マルティナ・ゲデック)が反体制的であるという証拠をつかむよう命じられる。国家を信じ忠実に仕えてきたヴィースラーだったが、上司が舞台女優を劇作家から奪う目的であることを知り、加えて二人の魅力的な生活を盗聴器を通して知り、ヴィースラーは大きく変わっていく(なんと、ヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエは、女優である妻が民間のシュタージだった。十数年もの間、自らの行動を密告され続けていたのだ!!)。静かだが、見応えのある展開。重苦しいようで、少し滑稽でもある。

 ドライマンへの協力が上層部に知られたヴィースラーは、封書の開封作業員という閑職に。5年後ベルリンの壁は崩壊する。ドイツ統一後の彼は郵便配達員になる。ある日、書店の横を通ると、ドライマンの著した本の広告が目に入る。彼は書店に入り本を開くと、そこには「HGW XX/7へ捧げる」という献辞があった。「HGW XX/7」とは、シュタージ時代のヴィースラーのコードネーム。店員は「包装しますか」と聞く。「いや、私の本だから」と彼は答える。個人の行いが、わずかでも歴史を動かしているという確かな感触。軽くて重い絶妙なラストシーンだ。「ドイツ映画史上、最も素晴らしい作品である」(ヴェルナー・ヘルツォーク監督)というのは、いくら何でも誇張だが、忘れがたい傑作であることは間違いない。


 
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