キネマ点心のロゴです

pinキネマ霊園pin キネマフォーラム pin掲示板

2005.7


 オランダの光 「オランダの光」の画像です

 2003年作品。オランダ映画。94 分。配給:セテラ。製作・監督: ピーター=リム・デ・クローン(Pieter-Rim de Kroon)。脚本: マールテン・デ・クローン、ヘリット・ウィレムス。撮影監督: パウル・ファン・デン・ボス。 編集: アンドレ・デ・ヨング+シール・ミュラー。音楽: ヘット・パレイス・ファン・ブム。 クリエイティブ・コンサルタント: ヤン・アンドリーッセ。出演=ヤン・アンドリーッセ(現代美術家)、ロバート・ザントフリート(現代美術家)、ギュンター・ケンネン(気象学者)、ヤン・ディべッツ(現代美術家)、フィンセント・イッケ(天文物理学者)、 ジェームズ・タレル(米現代美術家)、エルンスト・ファン・デ・ヴェーテリング(美術史家)、スヴェトラナ・アルパース(美術史家)、リシュアン・フェレロ(農夫)、アレックス・ビーゲン(モニュメント・ヴァレーのガイド)


 2003年ネーデルランド・フィルムフェスティバル「金の子牛(ベスト・ドキュメンタリー)」賞受賞。2004年ミュンヘン・ドキュメンタリーフィルムフェスティバル 特別賞受賞、2004年パラッツオーヴェネチア・ドキュメンタリーフェスティバル(ローマ)最優秀撮影賞受賞、2004年ヨーロピアン・フィルムフェスティバル(ブリュッセル)観客賞受賞。

 フェルメールやレンブラントら17世紀オランダ絵画の特徴の背景となったオランダ独特の光についての美術的ドキュメンタリー。作品は、現代美術家ヨーゼフ・ボイスが、20世紀前半に行われたエイセル湖の開拓が地形に変化を及ぼし、その光が失われてしまったと指摘した点から始まる。「オランダの光」は、すでに失われてしまったのか。なかなか興味深い導入だ。

 しかし、その後が続かない。実際の風景を定点観測しながら、オランダ絵画に描かれた光やゴッホやモネらが他地域で描いた絵画の光を比較。アーティストや美術評論家、気象学者、長距離トラックの運転手らが、それぞれオランダの光について、話す。しかし焦点が絞られず、テーマは拡散していく。静かすぎる映像は、ときに睡魔を連れてくる。

 オランダの、ぽってりとしながら澄んでいる空気感。クローン監督は、婉曲的にオランダの光は、昔と変化したもののまだ失われていないと主張しているが、切れ味は良くない。オランダ絵画の光の技法とオランダの自然光の関係も、うまく整理されていない。自然光と技法の複雑な影響については、なんとなく分かっただけだ。光自体をテーマするという独創的な作品だけに、もう少しまとまっていたらと思う。だが、写し出される緻密な映像美は、劇場でしか体験できない。フジフイルムが採用されている。実際にオランダに行きたくなるので、巧妙な観光CMといえるかもしれない。


 亡国のイージス 「亡国のイージス」の画像です

 2005年作品。日本映画。127分。配給=日本ヘラルド映画、松竹。監督=阪本順治。原作=福井晴敏(「亡国のイージス」講談社刊)。脚本=長谷川康夫/飯田健三郎。音楽=トレヴァー・ジョーンズ。編集=ウィリアム・アンダーソン。撮影=笠松則通。美術=原田満生。録音監督=橋本文雄。「いそかぜ」先任伍長・仙石恒史=真田広之、「いそかぜ」副長・宮津弘隆2等海佐=寺尾聰、「いそかぜ」1等海士・如月 行=勝地涼、「いそかぜ」船務長・竹中 勇3等海佐=吉田栄作、「いそかぜ」水雷士・風間雄大3等海尉=谷原章介、「いそかぜ」砲雷長・杉浦丈司3等海佐=豊原功補、「いそかぜ」掌帆長・若狭祥司=光石研、「いそかぜ」艦長・衣笠秀明1等海佐=橋爪淳、「いそかぜ」海士長・田所祐作=斉藤陽一郎、「いそかぜ」2等海士・菊政克美=森岡龍、「いそかぜ」機関長・酒井宏之3等海佐=中沢青六、「いそかぜ」航海長・横田利一1等海尉=中村育二、 DAIS内事本部長・渥美大輔=佐藤浩市、第204飛行隊・宗像良昭1等空尉=真木蔵人、DAIS局員・小林政彦=松岡俊介、DAIS局員・服部 駿=池内万作、温情のある年配の警官=佐川満男、「うらかぜ」艦長・阿久津徹男2等海佐=矢島健一、防衛庁長官・佐伯秀一=佐々木勝彦、統合幕僚会議議長・木島祐孝=天田俊明、海上幕僚長・湊本仁志=鹿内孝、警察庁長官・明石智司=平泉成FTG・山崎謙二2等海尉/ドンチョル=安藤政信、ジョンヒ=チェ・ミンソ、内閣情報官・瀬戸和馬=岸部一徳、宮津芳恵=原田美枝子、内閣総理大臣・梶本幸一郎=原田芳雄、FTG・溝口哲也3等海佐/ヨンファ=中井貴一


 福井晴敏原作のベストセラー「亡国のイージス」を映画化した。スケールが大きく緻密な大作なので、2時間あまりに凝縮することは不可能。映画的な英断が求められたが、ズタズタに切り裂かれたダイジェスト版という印象が残る。映画の中だけでは、全く意味不明のシーンがあり、はなはだしく唐突な場面も目立つ。基本テーマである日本の有り様、自衛隊の有り様についての問いも、深められない。全体的に脚本の粗さは否定できない。

 しかし、ベテラン俳優たちが共演し、海上自衛隊が全面協力し本物の艦を使用して撮影した映像は、リアルで緊張感があり、退屈しない。説明不足と思うほど説明を省いているので、押し付けがましさはない。俳優たちは、個性的な演技をみせるが、やはり真田広之の好演が光る。ちょっと良い人過ぎるが、映画の要としてぶれない。最後の緊迫した場面での手旗信号は、シリアスとユーモアの見事な融合だった。


 皇帝ペンギン 「皇帝ペンギン」の画像です

 2005年作品。フランス映画。86 分。配給=ギャガ・コミュニケーションズ。監督=リュック・ジャケ(Luc Jacquet)。製作=イヴ・ダロンド(Yves Darondeau)、クリストフ・リウー(Christophe Lioud)、エマニュエル・プリウー(Emmanuel Priou)。脚本=リュック・ジャケ(Luc Jacquet)、ミシェル・フェスレール(Michel Fessler)。撮影=ロラン・シャレ(Laurent Chalet)、ジェローム・メゾン(Jerome Maison)。音楽=エミリー・シモン(Emilie Simon)。声の出演=母ペンギン=ロマーヌ・ボーランジェ(Romane Bohringer)、父ペンギン=シャルル・ベルリング(Charles Berling)、子ペンギン=ジュール・シトリュク(Jules Sitruk)。声の出演(日本語吹替版):母ペンギン=石田ひかり、父ペンギン=大沢たかお、子ペンギン=神木隆之介


 話題の「皇帝ペンギン」を観た。混んでいる。小さな子ども連れが目立つ。基本的には、子育てを中心に皇帝ペンギンの生態を追ったドキュメンタリー作品。冬になると皇帝ペンギンは、外敵が近づきにくい氷山に囲まれた土地に移動し、求愛、産卵を行う。産卵を終えたメスは卵をパートナーのオスに預け、自分と子どものために餌を求めて100キロ離れた海へ向かう。オスは寒さに耐え4か月絶食して卵を孵す。皇帝ペンギンは美しく、地上での動きはコミカル。子どものしぐさは、とびきり愛くるしい。

 マイナス40度という南極での撮影は、本当に大変だったと思う。8880時間撮影したという。貴重な映像がとらえられている。ペンギン好きには、たまらない作品なのかもしれない。しかし、映像編集にも作品構成にも、工夫が足りない。「ディープ・ブルー」に比べると、かなり水準が落ちる。生態の説明が、やや感情的。ナレーションの過度の擬人化は、逆に作品の感動を弱めてしまった。ただ、皇帝ペンギンの目線での映像は、なかなか新鮮。アザラシがあんなに怖い存在とは。


 宇宙戦争 「宇宙戦争」の画像です

 2005年作品。アメリカ映画。114 分。配給=UIP。監督=スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)。製作=キャスリーン・ケネディ、コリン・ウィルソン。製作総指揮=ポーラ・ワグナー。原作=H・G・ウェルズ(H.G. Wells)。脚本=デヴィッド・コープ、ジョシュ・フリードマン。撮影=ヤヌス・カミンスキー。プロダクションデザイン=リック・カーター。衣装=ジョアンナ・ジョンストン。編集=マイケル・カーン。音楽=ジョン・ウィリアムズ。ナレーション=モーガン・フリーマン(Morgan Freeman)。レイ・フェリエ=トム・クルーズ(Tom Cruise)、レイチェル・フェリエ=ダコタ・ファニング(Dakota Fanning)、オギルビー=ティム・ロビンス(Tim Robbins)、ロビー・フェリエ=ジャスティン・チャットウィン(Justin Chatwin)、メアリー・アン=ミランダ・オットー(Miranda Otto)


 まず「宇宙戦争」という邦題が、しっくりこない。そして結末が弱い。古典的なSFに忠実な展開は、やはり古さを感じさせる。宇宙人を登場させたのも逆効果だった。あの程度なら、見せない方が緊張感が持続する。どうしてアメリカ映画では知的なはずの宇宙人が間抜けに描かれるのだろう。信じられないほど無防備に描かれるのだろう。知性をなめているとしか思えない。傑作「マーズアタック!」につながるシニカル・コメディか。

 トム・クルーズは、絶対に死なない。主人公が幸運が続いて生き残るのは、まあ許されるとしても、あの状況の中で家族全員が無傷で無事というのは、あまりにも不自然すぎる。さまざまな場面でイラクでの空爆を連想させるシーンがあり、スピルバーグの政治的メッセージを深読みすることはできるが、ルーカスほど鮮明ではない。スピルバーグの優柔不断さ、思想的な弱さが見えかくれする。

 しかし、トライポッド出現のハラハラ、ドキドキ感の演出は、さすがスピルバーグだ。デザインもなかなか秀抜。平凡な男性、一市民の視点を貫き、妙なヒロイズムがない点も評価したい。子どもたちが聞き分けがないのも、なかなかリアル。ダコタ・ファニングのパニック症候群による叫びは名演だが、神経を逆なでされた。炎の暴走列車、地下室で目隠しされて童謡を歌うダコタ・ファニングの横顔など、記憶に残るシーンもあった。

 


 
やむちゃ・バックナンバー
1996年       4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1997年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1998年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1999年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2000年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2001年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2002年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2003年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2004年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2005年 1月 2月 3月 4月 5月 6月

点です バーのカウンター(HOME)へ

 Visitorssince2005.07.17