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2005.10


 春の雪 「春の雪」の画像です

 2005年作品。日本映画。配給=東宝。監督=行定勲。製作=富山省吾。プロデューサー=市川南、臼井裕詞、甘木モリオ。企画=藤井浩明、三島威一郎。原作=三島由紀夫『春の雪 豊饒の海(一)』(新潮文庫刊)脚本=伊藤ちひろ、佐藤信介。脚本監修=春名慶。撮影=リー・ピンビン(Lee Ping-bin)。美術=山口修。編集=今井剛。音楽=岩代太郎。音楽プロデューサー=北原京子。主題歌=宇多田ヒカル『Be My Last』。VFXスーパーバイザー=道木伸隆。衣裳デザイン=伊藤佐智子。照明=中村裕樹。松枝清顕=妻夫木聡、綾倉聡子=竹内結子、本多繁邦=高岡蒼佑、洞院宮治典王殿下=及川光博、松枝家執事の山田=田口トモロヲ、洞院宮妃=高畑淳子、綾倉伯爵=石丸謙二郎 、綾倉伯爵夫人=宮崎美子、洞院宮治久王殿下=山本圭、松枝侯爵夫人=真野響子、松枝侯爵=榎木孝明、蓼科=大楠道代、清顕の祖母=岸田今日子、月修寺門跡=若尾文子


 三島由紀夫の遺作“豊饒の海シリーズ”四部作の第一巻「春の雪」の映画化。久々の文芸大作への挑戦。しかもタブー視されてきた三島由紀夫の遺作への挑戦だ。「世界の中心で、愛をさけぶ」「北の零年」の行定勲監督は、手堅い工夫をした。「恋恋風塵」「花様年華」の台湾のカメラマン・リー・ピンビンが撮影を担当。和風美を追求しながら、わずかに距離を置いた微妙な世界をつくり出している。

 大正初期の華族社会を舞台にした悲恋物語。妻夫木聡(つまぶき・さとし)と竹内結子(たけうち・ゆうこ)は、難しい役に挑み、確かに成果を上げた。タブーを破ることで燃え上がる松枝清顕(まつがえ・きよあき)の屈折と切実を演じた妻夫木聡は、評価してよい。伯爵家の令嬢・綾倉聡子(あやくら・さとこ)役の竹内結子も、出家に至る心情を巧みに演し切った。大楠道代、岸田今日子、若尾文子といったベテランの演技も、なかなか見事。別世界に確かなリアリティをもたらした。

 ストーリー運びは穏やか。もちろんハリウッド映画のような派手さはない。涙をしぼり取ろうという仕掛けもない。しかし、たゆたう夢のような華麗な映像に酔いしれることができた。日本映画の伝統に一石を投じた意欲作だろう。


 コープスブライド 「コープスブライド」の画像です

2005年作品。イギリス映画。77 分。配給=ワーナー。監督=ティム・バートン(Tim Burton)、マイク・ジョンソン(Mike Johnson)。製作=アリソン・アベイト(Allison Abbate)、ティム・バートン(Tim Burton)。製作総指揮=ジェフリー・オーバック(Jeffrey Auerbach)、ジョー・ランフト(Joe Ranft)。脚本=パメラ・ペトラー(Pamela Pettler)、キャロライン・トンプソン(Caroline Thompson)、ジョン・オーガスト(John August)。撮影=ピート・コザチク(Pete Kozachik)。プロダクションデザイン=アレックス・マクダウェル(Alex McDowell)。編集=クリス・レベンゾン(Chris Lebenzon)ジョナサン・ルーカス(Jonathan Lucas)。音楽=ダニー・エルフマン(Danny Elfman)。ビクター=ジョニー・デップ(Johnny Depp)、コープス・ブライド=ヘレナ・ボナム=カーター(Helena Bonham Carter)、ビクトリア=エミリー・ワトソン(Emily Watson)


 死体の花嫁=コープスブライド。ロシアの民話を題材に描くダークなファンタジー・ラブストーリーだ。ティム・バートン監督の久しぶりのストップモーション・アニメ。パペットをひとコマずつ動かして撮影する手づくり感が魅力的。金銭欲にまみれた現世の登場人物は沈鬱なモノトーン調、あの世の住人たちはカラフルでパワフルという往年のバートン・テイストが嬉しい。パブでのガイコツバンド(ボーンジャングルス)のショーは、バートンアニメの楽しさにあふれている。

 死体の花嫁(コープス・ブライド)の揺れ動く思いと優しさにうたれた。ヘレナ・ボナム=カーターがうまい。ビクターもビクトリアも愛すべき人たちだ。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」ほどの驚きはないが、77分間にきれいにまとめられた美しい物語だった。静かなラストシーンに涙が流れた。「チャーリーとチョコレート工場」に続いて、ティム・バートンの作品を観ることができた幸せ。


 輝ける青春 「輝ける青春」の画像です

 2003年作品。イタリア映画。366 分。配給=東京テアトル。監督=マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ(Marco Tullio Giordana)。製作=アンジェロ・バルバガッロ(Angelo Barbagallo)、ドナテッラ・ボッティ(Donatella Botti)。製作総指揮=アレッサンドロ・カロッシ(Alessandro Calosci)。脚本=サンドロ・ペトラリア(Sandro Petraglia)、ステファノ・ルッリ(Stefano Rulli)。撮影=ロベルト・フォルツァ(Roberto Forza)。美術=フランコ・チェラオーロ(Franco Ceraolo)。衣装=エリザベッタ・モンタルド(Elisabetta Montaldo)。ニコラ・カラーティ=ルイジ・ロ・カーショ(Luigi Lo Cascio)、マッテオ・カラーティ=アレッシオ・ボーニ(Alessio Boni)、 アドリアーナ・カラーティ=アドリアーナ・アスティ(Adriana Asti)、ジュリア・モンファルコ=ソニア・ベルガマスコ(Sonia Bergamasco)、カルロ・トンマージ=ファブリツィオ・ギフーニ(Fabrizio Gifuni)、ミレッラ・ウターノ=マヤ・サンサ(Maya Sansa)、フランチェスカ・カラーティ=ヴァレンティーナ・カルネルッティ(Valentina Carnelutti)、ジョルジア=ジャスミン・トリンカ(Jasmine Trinca) アンジェロ・カラーティ=アンドレア・ティドナ(Andrea Tidona)、ジョバンナ・カラーティ=リディア・ヴィターレ(Lidia Vitale)、ヴィターレ・ミカーヴィ=クラウディオ・ジョエ(Claudio Gioe)、アンドレア・ウターノ=リッカルド・スカマルチョ(Riccardo Scamarcio)、ベルト=ジョヴァンニ・シフォーニ(Giovanni Scifoni)、 サラ・カラーティ=カミッラ・フィリッピ(Camilla Filippi)


 まだ、6時間6分の雄大な映画の世界から抜け出していないが、感想をまとめてみる。1966年から2003年までのフィレンツェの大洪水や「赤い旅団」などイタリアの歴史と重ねて、カラーティ家の人々の人生を描いていく。時代と向き合う人間群像というヨーロッパ映画の伝統に沿った映画。イタリアの20世紀前半を描いたベルトリッチ監督の「1900年」(316分)を連想した。「1900年」は、ファシズムに対して社会主義の正義を訴えるという、かなりイデオロギー的な映画だったが、「輝ける青春」は政治的な事件の真相に踏み込むことをせず(近過ぎてできないというべきか)、家族の物語へと収れんする。ひとつ違いの兄弟ニコラとマッテオを中心に、物語は静かに進む。

 6時間の映画観賞は、やはり格別な体験。物語が進むに連れて、登場人物と同じ空気を吸いはじめる。はらはらし、心を傷め、ともに笑う。長編小説にのめり込んでいる時と同じだ。そのことを可能にしたマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督の力量を、まずは讃えたいと思う。そして登場した俳優は、みな愛すべき人たちだった。驚くべき傑作ではないが、しばし忘れていた映画の楽しさをたんのうできた。


 ターネーション 「ターネーション」の画像です

 2004年作品。アメリカ映画。88分。配給=日本ヘラルド映画。エグゼクティブ・プロデューサー=ガス・ヴァン・サント、ジョン・キャメロン・ミッチェル。監督・脚本・編集=ジョナサン・カウエット。出演=ジョナサン・カウエット、レニー・ルブラン、デヴィット・サニン・パス、ローズマリー・デイヴィス、アドルフ・デイヴィス


 「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェル監督の新作映画のための俳優オーディション用に送ったビデオが、ジョン・キャメロン・ミッチェル、ガス・ヴァン・サントに評価され、映画完成に至ったジョナサン・カウエット監督。11歳から31歳の間に撮りためた膨大なフィルムと写真、そして母親のビデオ映像を編集し、壮絶な自分史をまとめた。狂気と血の繋がりというテーマにひるむことなく挑戦し、真摯に向き合っている姿に感動する。

 編集にMacのiMovieを用い、218ドルという超低予算で完成させた。そのこと自体は、もう驚くべきことではない。むしろ簡易な編集ソフトで、あれほどのインパクトを生み出したという編集センスの良さこそ、強調されなければならない。ただ、天使が生まれてくる人間の鼻の下を押して記憶を消すというエピソードをはさみ、ラストシーンで主人公がトラウマを抱える母親の鼻の下を押さえてきれいにまとめたことに対する賛否は分かれると思う。ドキュメンタリー映画の最新型という枠にとらわれなけれど、切なくて微笑ましい場面だろう。


 セブンソード 「セブンソード」の画像です

 2005年作品。香港・中国合作。153 分。配給=ワーナー。監督=ツイ・ハーク(Tsui Hark)。アクション監督:ラウ・カーリョン(Lau Kar-Leung)。製作=リー・ジョウイ、マー・ジョンジュン、パン・ジージョンツイ・ハーク。製作総指揮=レイモンド・ウォン、ホン・ボンチュル、チャン・ヨン。原作=リャン・ユーシェン『七剣下天山』。脚本=ツイ・ハーク、チェン・チーシン、チュン・ティンナム。撮影=ヴィーナス・クェン。音楽=川井憲次(Kawai Kenji)。武術指導=トン・ワイ、ホン・ヤンヤンヤン・ユンツォン(青幹剣)=レオン・ライ(Leon Lai)、チュウ・チャオナン(由龍剣)=ドニー・イェン(Donnie Yen)、ウー・ユエンイン(天瀑剣)=チャーリー・ヤン(Charlie Young)、ハン・ジィパン(舎神剣)=ルー・イー(Lu Yi)、フー・チンジュ(莫問剣)=ラウ・カーリョン(Lau Kar-Leung)、ムーラン(日月剣)=ダンカン・チョウ(Duncan Chow)、シン・ロンヅ(競星剣)=タイ・リーウー(Tai Li-Wu)、 風火連城=スン・ホンレイ(Sun Honglei)


 1600年代半ばの中国が舞台。明に取って代わった清王朝が建国、新政府は反乱分子の息の根を止めようと禁武令を出している。この禁武令を悪用して無差別な虐殺が続いていた。7つの剣を授けられた7人の剣士が、人々を守るために立ち上がる。最初に断っておくが「『HERO』『LOVERS』に続く第3弾」という宣伝は、詐欺に等しい。中国で、どれほどヒットしたかは知らないが、映画としての格がまるで違う。似て非なる作品で、同列に並べるセンスを疑う。

 最初の大虐殺シーンは、白黒に近い映像に鮮烈な赤が映え、ある意味で「シン・シティ」を連想させた。過度な様式美ではなく、いかがわしさが加味された力強い映像表現を期待させた。ワイヤースタントに頼らないアクションを見せようとした姿勢は悪くないと思った。しかし、その先はテンションが落ちたまま。あまりにもおざなりだ。ストーリー展開に力がなく、登場人物もないがしろにしている。2時間以上あるのに、異なる力を持つ7つの剣や、それを使う7人の剣士の特徴がほとんど説明されない。7人の剣士は、魅力ある人物として浮き上がってこない。むしろ悪役の風火連城やその手下たちの濃厚な個性が強烈な印象を残した。


 シン・シティ 「シン・シティ」の画像です

 2005年作品。124 分。アメリカ映画。ギャガ・コミュニケーションズ。監督=フランク・ミラー(Frank Miller)、ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)、クエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)。製作=フランク・ミラー(Frank Miller)、ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)、エリザベス・アヴェラン(Elizabeth Avellan)。製作総指揮=ボブ・ワインスタイン(Bob Weinstein)、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)。原作=フランク・ミラー(Frank Miller)。脚本=ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)、フランク・ミラー(Frank Miller)。撮影=ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)。特殊メイク効果=KNB EFX。編集=ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)。音楽=ジョン・デブニー(John Debney)、グレーム・レヴェル(Graeme Revell)、ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)。ハーティガン=ブルース・ウィリス(Bruce Willis)、 マーヴ=ミッキー・ローク(Mickey Rourke)、ドワイト=クライヴ・オーウェン(Clive Owen)、 ナンシー=ジェシカ・アルバ(Jessica Alba)、ジャッキー・ボーイ=ベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)、ケビン=イライジャ・ウッド(Elijah Wood)、シェリー=ブリタニー・マーフィ(Brittany Murphy)、ミホ=デヴォン青木(Devon Aoki)、ザ・マン=ジョシュ・ハートネット(Josh Hartnett)、ゲイル=ロザリオ・ドーソン(Rosario Dawson)、マヌート=マイケル・クラーク・ダンカン(Michael Clarke Duncan)、ロアーク・ジュニア/イエロー・バスタード=ニック・スタール(Nick Stahl)、ルシール=カーラ・グギーノ(Carla Gugino)、ボブ=マイケル・マドセン(Michael Madsen)、ゴールディ/ウェンディ=ジェイミー・キング(Jaime King)、ベッキー=アレクシス・ブレーデル(Alexis Bledel)、ロアーク枢機卿=ルトガー・ハウアー(Rutger Hauer)、ロアーク上院議員=パワーズ・ブース(Powers Boothe)、 神父=フランク・ミラー(Frank Miller)


 こんなに興奮した映画は久しぶり。嬉しくて、ぞくぞくする。「シン・シティ」は、デジタル技術を駆使し、フランク・ミラーの濃厚な劇画テイストを存分に生かしたアクション映画だ。計算された構図に巧みなストーリー展開。最高に面白い仕上がり。はっきりとした白黒の映像に印象的な赤やオレンジ、黄色が映える。全編血みどろだから、白黒中心の映像は、過激さを抑える効果もある。暴力的なシーンが目立つが、基本は魅力的な女たちへの愛に目覚めた男の純情だ。救いのなさと残虐さの裏にギャグとユーモアも隠されている。

 老刑事ハーティガンを演じたブルース・ウィリスは、近年にない良い仕事ぶり。ドワイト役のクライヴ・オーウェンもセクシーだ。そして屈強な醜男マーヴを演じたミッキー・ロークには、驚かされた。なかなかの演技派だ。イライジャ・ウッドが無口なサイコキラー役で登場したのにもうなった。怖くて、悲惨極まる最後を迎える。ロアーク枢機卿役のルトガー・ハウアーもしぶい。一方、ジェシカ・アルバをはじめ、女性たちも皆存在感がある。中でもデヴォン青木は、今後大化けしそうだ。続編は、女性たちが前面に出た作品になるらしい。

 物語の構造、登場人物の配置が男女差別的だという指摘は、当然あるだろう。そういう側面があることは否定しない。しかしハリウッド的な配慮による「平等」の演出だけが良識だとは思わない。歪んだまま、それでも突き抜けた作品として私は評価する。

 


 
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