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2005.4

 真夜中の弥次さん喜多さん 「真夜中の弥次さん喜多さん」の画像です

 2005年作品。日本映画。124 分。配給=アスミック・エース。監督=宮藤官九郎。プロデューサー=宇田充、藤田義則。エグゼクティブプロデューサー=椎名保、藤島ジュリーK、島本雅司、吉田博昭、長坂まき子。原作=しりあがり寿『真夜中の弥次さん喜多さん』(マガジンハウス刊)/『弥次喜多in DEEP』(エンターブレイン刊)/『小説 真夜中の弥次さん喜多さん』(河出書房新社刊)。脚本=宮藤官九郎。撮影=山中敏康。美術=中澤克巳。編集=上野聡一。音楽=ZAZEN BOYS。音楽プロデューサー=安井輝。VE=宇津野裕行。VFXスーパーバイザー=田中浩征。VFXプロデューサー=曽利文彦。スーパーバイザー=柘植靖司。照明=椎原教貴。整音=浦田和治。装飾=柴田博英。弥次郎兵衛=長瀬智也、喜多八=中村七之助、お初=小池栄子、金々=阿部サダヲ、呑々=柄本佑、瓦版男=生瀬勝久、岡っ引き=寺島進、木村笑之新=竹内力、旅籠の女将=森下愛子、旅籠の番頭=岩松了、浪速ホット=板尾創路、浪速サンド=桑幡壱真、拷問される侍=大森南朋、旅籠の客=おぎやはぎ、ザル売り=皆川猿時、オカマの店主・おちん=山口智充、店主の娘・お幸=清水ゆみ、たわぁ麗満堂の店主=しりあがり寿、ヒゲのおいらん=松尾スズキ、籠を背負った老人=楳図かずお、アーサー王=5代目・中村勘九郎、毒蝮三太夫=毒蝮三太夫、奪衣婆=研ナオコ、バーテン=ARATA、バーテンの妻=麻生久美子、別人=妻夫木聡、魂=荒川良々


 すさまじい妄想の狂喜乱舞。宮藤官九郎の初監督映画は、しりあがり寿のシュールな原作を生かし、思い切りギャグで膨らませ、2時間をハイテンションで突っ走った怪作だ。畳み掛けてくるギャグは、かなり下らなく、ときに下品だが、ここまで連打されると快感に変わってしまう。エネルギッシュな妄想力の勝利だ。キャスティングも腰が抜けてしまう。めまいがする。傑作と断言するが、欲を言えば、もう少し「せつなさ」の分量を増やしてほしかった。

 十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」を、独創的によみがえらせたしりあがり寿の原作は、現実と幻覚、生と死の境が見えなくなるという極めて現代的なテーマを扱っている。「リアルが分からない」という感覚は、薬物依存の喜多さんだけでなく、私たちの日常感覚に近いといえる。シリアスな現実をギャグでかわすという滑稽本の精神が生かされている。映画化を機に、しりあがり寿の作品が注目されたのは喜ばしい。


 海を飛ぶ夢 「海を飛ぶ夢」の画像です

 2004年作品。スペイン=フランス合作。配給=東宝東和。監督=アレハンドロ・アメナバール(Alejandro Amenabar)。製作総指揮=アレハンドロ・アメナバール)、フェルナンド・ボバイラ(Fernando Bovaira)。脚本=アレハンドロ・アメナバール、マテオ・ヒル(Mateo Gil)。撮影=ハビエル・アギーレサロベ(Javier Aguirresarobe)。プロダクションデザイン=ベンハミン・フェルナンデス(Benjamin Fernandez)。編集=アレハンドロ・アメナバール。音楽:アレハンドロ・アメナーバル+(スペシャルコラボレーション)カルロス・ヌニェス。美術監督:ベンハミン・フェルナンデス。音響:リカルド・スタインバーグ。衣装:ソニア・グランデ。特殊メイクアップ・デザイン:ジョー・アレン。メイクアップ:アナ・ロペス-プイグセルベル。ラモン・サンペドロ=ハビエル・バルデム(Javier Bardem)、フリア=ベレン・ルエダ(Belen Rueda)、ロサ=ロラ・ドゥエニャス、 ジェネ=クララ・セグラ、マヌエラ=マベル・リベラ、ホセ=セルソ・ブガーリョ、ハビ=タマル・ノバス、ホアキン=ホアン・ダルマウ、マルク=フランセスク・ガリード


 実在の人物ラモン・サンペドロの手記「レターズ・フロム・ヘル」をもとに映画化した。ラモンは25歳のとき、岩場から海へダイブした際に海底で頭部を強打、四肢麻痺となった。以来、家族に支えられてきたが、事故から26年を迎え尊厳死を決意する。尊厳死を法的に支援する団体の女性や弁護士に援助され、尊厳死を求めて闘う。重いテーマにもかかわらず、ときにユーモアを交えながら、ラモンと周囲の人たちをリアルに描いていく。はっと驚くような、心憎い映画的表現に満ち、アメナバールの力量が発揮されている。

 ラモン・サンペドロを演じたハビエル・バルデムは、確かに素晴らしいが、その最後の選択には共感できない。監督は明確な意志表示は避けているが、計画通りに尊厳死した後の清清しささえ感じる映像が、ラモンへの共感を示している。私は自己決定権としての尊厳死に反対しているわけではないが、家族の愛に包まれ、好意を寄せる女性たちに囲まれ、雄弁で創造的であった彼は、やはり特権的、例外的な存在だったと思う。認知症が進行し一時はラモンとともに死のうとした弁護士のフリアが、ぎりぎりのところで生きる道を選んだ方が、はるかに共感できた。それは、ハリウッド的な人生賛歌とは違う。


 鏡心・完全版 「鏡心・完全版」の画像です

 2005年作品。日本映画。61分。製作/監督/脚本/撮影=石井聰亙。録音=古谷正志。助監督=市原大地。海外ロケスタイリスト=市井麻由。編集=井上雅貴。3D音響MIX=勝本道哲。音楽=小野川浩幸。女優=市川実和子、私=町田康、女性=猪俣ユキ、男優=(KEE 改め)渋川清彦、医師=田中麻樹、看護士A=菜木のり子、看護士B=石井育代、看護士C=實川裕佳


 韓国全州映画祭「デジタルショート・フィルム3人3色、2004」の3本の中の1本として映画祭に提出された短編作品「鏡心」を完成後、映画祭側が定めた制限時間の枠、画質や音質の枠、予算の枠等に収まらない作品内容にするため、追加撮影し、映像をハイビジョン24Pフォーマットに全面変換、音響や音楽を100%やり直し、石井監督が自力で完全版を制作した。デジタルの技術を生かし、一切の制約から完全に自由な自主制作体制で創られた。上映場所を選び、監督のトークなどを同時に提供する「ライブ」としての上映ツアーを行っている。デジタルとライブの組み合わせがユニーク。新しい映画の可能性をめぐるスリリングな試みだ。

 作品自体が、個人映画のように虚構化されている。完全ノーライト、ゲリラ的オールロケ、小型カメラでの撮影によって、独特の生々しさが映像に定着している。一方で、陶酔的なデジタル加工も徹底的に追究されている。一人の女性の都会での現実喪失とバリ体験による回復を幻想譚として描いているように見せて、そういう都合の酔い神話化を批判しているように見える。身体性と霊性という石井聰亙監督の基本テーマが浮き上がってくる。


 トニー滝谷 「トニー滝谷」の画像です

 2004年作品。日本映画。75分 。配給:東京テアトル。製作=株式会社ウィルコ。企画=市川準事務所 。監督・脚本=市川準。村上春樹著「トニー滝谷」(文藝春秋社刊『レキシントンの幽霊』所収)より。音楽=坂本龍一。製作=橋本直樹 米澤桂子。プロデューサー=石田基紀。撮影=広川泰士。照明=中須岳士。録音=橋本泰夫。 美術=市田喜一。編集=三條知生。スタイリスト=平尾 俊。ナレーション=西島秀俊。トニー滝谷と滝谷省三郎=イッセー尾形、英子とひさこ=宮沢りえ、篠原孝文、四方堂亘、谷田川さほ、小山田サユリ、山本浩司、塩谷恵子、猫田直、木野花


 村上春樹の短編小説の映画化。市川準監督は村上春樹の愛読者であり、春樹ワールドを映像空間に移し替えた。シンプルだが、丁寧な仕上がりだ。これまでの作品でも場の空気感を巧みに醸し出してきた市川監督は、村上春樹の小説の持つ空気感を見事に演出している。無駄を省いた75分という長さも、心地よい。

 「孤独」な人生を歩んできた主人公のトニーをイッセー尾形が好演。あっさりとしているが、味がある演技だ。英子役の宮沢りえは、ほわっとした忘れ難い存在感を漂わせていた。とりわけ足の美しさが眼に焼き付いている。物語は、ほとんど二人だけで進行する。いや、西島秀俊のナレーションが加わり、絶妙な間で物語が進んでいく。


 コンスタンティン 「コンスタンティン」の画像です

 2004年作品。アメリカ映画。121分。配給=ワーナー・ブラザース映画。監督=フランシス・ローレンス(Francis Lawrence)。原作=ケビン・ブロドビン(Kevin Brodbin)。脚本=ケビン・ブロドビン、ランク・カペロ。撮影=フィリップ・ルスロ,A.F.C.,A.S.C.。音楽=ブライアン・タイラー、クラウス・バデルト。美術=ナオミ・ショーハン。編集=ウェイン・ワーマン。ジョン・コンスタンティン=キアヌ・リーヴス(Keanu Reeves)、アンジェラ・ドッドソン=レイチェル・ワイズ(Rachel Weisz) 、チャズ=シア・ラブーフ(Shia LaBeouf)、ミッドナイト=ジャイモン・フンスー(Djimon Hounsou)、ビーマン=マックス・ベイカー(Max Baker)、 ヘネシー神父=プルイット・テイラー・ヴィンス(Pruitt Taylor Vince)、 ガブリエル=ティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)、 バルサザール=ギャヴィン・ロズデイル(Gavin Rossdale)、サタン=ピーター・ストーメア(Peter Stormare)


 アメリカン・コミック「ヘルブレイザー」を映画化したオカルト・アクション作品。天国と地獄、天使と悪魔と宗教的なテーマを基本にしているが、あまりまじめに考えず、頭を空にして楽しむタイプの映画だ。キアヌ・リーヴスの活躍は「マトリックス」というよりも、「ブレイド」。「カンフー・ハッスル」並みの「ありえねえ」展開が続く。

 天使や悪魔を見分ける能力を持つジョン・コンスタンティンは、肺の末期ガンに冒され、余命は1年。以前自殺しかけたので天国に行けず、何とか天国行きを認めてもらうため、人間界に潜む悪魔を地獄へ送り返し続けている。利己的な動機によるダーク・ヒーローという設定だ。しかし、たえずタバコを吸い続け、派手なアクションを繰り広げるコンスタンティンは、とても余命1年には見えない。出来の悪い禁煙キャンペーンみたいだ。「コンスタンティンではなく、オタンチン」という映画評があったが、確かに少しオタンチン(オタンコナス)だ。エンドロールの最後の最後に、どうでもいい種明かしの映像があるというのも、おかしい。それを見ずに席を立った人が、オタンチンかどうかは、分からない。


 ZOO 「ZOO」の画像です

 2005年作品。日本映画。119分。配給:東映ビデオ。企画:黒澤 満。原作:乙一「ZOO(集英社刊)」。プロデューサー:結城良熙、山口敦規。脚本:東多江子/奥寺佐渡子/古屋兎丸/山田耕大/及川章太郎。主題歌:「奇跡」THE BACK HORN(スピードスターレコード)。撮影:高瀬比呂志(J.S.C.)。照明:小野 晃。美術:和田 洋。録音:井家眞紀夫。音楽プロデューサー:津島玄一。■「カザリとヨーコ」=監督:金田龍。出演:小林涼子/松田美由紀/吉行和子。■「SEVEN ROOMS」=監督:安達正軌。出演:市川由衣、須賀健太、佐藤仁美、東山麻美、サエコ■「So-far」=監督:小宮雅哲。音楽:栗山和樹 。出演:神木隆之介/杉本哲太/鈴木杏樹。■「陽だまりの詩」=監督:水崎淳平。キャラクターデザイン:古屋兎丸。■「ZOO」=監督:安藤尋。音楽:栗山和樹。出演:村上淳/浜崎茜。出演:鈴木かすみ、龍坐。


 乙一原作の5つの物語「カザリとヨーコ」「SEVEN ROOMS」「So-far」「陽だまりの詩」「ZOO」で構成。「ZOO」以外は、悪くない出来だ。「カザリとヨーコ」は母親による子ども虐待。新人・小林涼子が一人二役を演じ分けた。恐怖と笑顔の対比が印象に残る。「SEVEN ROOMS」は監禁・惨殺がテーマ。市川由衣の名演技に拍手しよう。子役の須賀健太も立派なものだ。感動的で胸の詰まるラストは忘れ難い。ただ、助かった人たちがのんびり警察呼びに行くのは、変だ。

 「So-far」は、とにかく神木隆之介の演技力に圧倒される。カメラワークも計算されている。唯一のCGアニメーション「陽だまりの詩」は、古屋兎丸が脚本とキャラクターデザインを担当し、水崎淳平監督が後味の良い不思議なラストを演出している。静かで清清しくてせつない。表題作の「ZOO」には、魅力を感じない。死体腐乱もシマウマも、生かされていない。オムニバスが台なしだ。「ZOO」を最初に持ってきて、徐々に盛り上げ「陽だまりの詩」で締めくくったら、満足して観終わることができたかもしれない。


 
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