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 ヘドウィグ・アンド 

・アングリーインチ  

「Hedwig and the Angry Inch/ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の画像です

 2001年作品。アメリカ映画。92分。配給=ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ。監督・脚本=ジョン・キャメロンミッチェル。作詞作曲=ステイーヴン・トラスク。製作=クリスティーヌ・バァション、ケイティリレーメル、パメラロフラー。撮影監督=フランク・デマルコ。プロダクション・デザイン=テレーズ・デープレス。衣装デザイン:アリアンヌーフィリップス。アニメーション・シークエンス&アートワーク創作=エミリー・ハブリー。ヘドウィグ=ジョン・キャメロン・ミッチェル、スキシプ=ステイーヴン・トラスク、イツハク=ミリアム・ショア、トミーノーシス=マイケル・ピット、フィリス・スタイン=アンドレア・マーチィン


 ロック・ミュージカルを、舞台と同じく監督、脚本、主演で映画化した。冷戦下の抑圧的な東ドイツ。アメリカへの憧れ。米兵との恋。性転換手術の失敗。相次ぐ恋人の裏切り。怒りのバンド演奏。1970年代の熱いグラムロックと、ヘドウィグの数奇な運命が共振して、心にストレートに訴えてくる。何と言っても歌の迫力がすごい。プラトンの「饗宴」にヒントを得た「カタワレ探し」という愛のモチーフは、かなり時代錯誤的だが、ヘドウィグが熱唱すると、彼の深刻な欠如感を表現していて、とても説得力がある。バンド「アングリーインチ」の異様な迫力は、ヘドウィグの不幸に支えられている。

 なげやりだったヘドウィグは、各地で演奏会を続けるうちに、次第に輝きを増していき、自分を取り戻す。ヘドウィグの夫イツハク(女装への憧れを持つ)を演じた女優ミリアム・ショアも見事。この二人の存在が作品自体を魅力的にしている。アニメの使用は、映像に変化を与えてはいるが、それほど奇抜な表現ではない。むしろ、ヘドウィグの圧倒的な切なさをやわらげる効果を上げていた。


「アレクセイと泉」の画像です アレクセイと泉  

 2002年作品。日本映画。104分。配給=サスナフィルム、BOX東中野。監督=本橋成一。制作=神谷さだ子、小松原時夫。撮影=一之瀬正史。録音=弦巻 裕。編集=村本 勝。撮影助手=山田武典。現地録音=永井雄介。現地コーディネーター=ドミートリ・スレリツォフ。音楽=坂本龍一。


 第52回ベルリン国際映画祭のベルリナー新聞賞を受賞した。チェルノブイリ原発事故で被爆したブジシチェ村。大地は放射能に汚染され600人いた村民たちは移住勧告に従って村を出た。しかし、55人の老人と青年のアレクセイ1人は、村でそのまま暮らし続ける道を選んだ。この村の中心に位置する泉の水からは、まったく放射能が検出されない。こう書くと、深刻な社会告発作品と思われるだろうが、映画はタルコフスキーの映画を彷佛とさせる美しい自然風景に満ちあふれ、家畜たちと共存したのどかな自給自足の生活が、淡々と描かれていく。ユーモアと愛おしさが全編を包み込んでいる。

 チェルノブイリ原発事故の悲劇と村の生活を支配するのどかさ。このあまりにも大きい落差に打ちのめされ、原発事故が何というおぞましいものであるかをあらためて認識せられた。この物語のストーリーは、ほとんど寓話の高みにあるが、すべて実話だというのが奇跡的。アレクセイ青年の静かだが、含蓄に満ちた言葉が、耳に残る。一之瀬正史の撮影、坂本龍一の作曲も、本当に素晴らしい。  


「折り梅」の画像です 折り梅  

 2002年作品。日本映画。111分。配給=パンドラ/シネマワーク。製作・監督=松井久子。原作=小菅もと子(「忘れても、しあわせ」日本評論社刊)。脚本=松井久子、白鳥あかね。エグゼクティブ・プロデューサー= 福島昭英。プロデューサー=新藤次郎、里中哲夫。アソシエイト・プロデューサー= 吉井久美子。撮影=川上皓市。照明=水野研一。音楽= 川崎真弘。美術=斉藤岩男。録音=芦原邦雄。編集=渡辺行夫。記録=堀ヨシ子菅野巴=原田美枝子、菅野政子=吉行和子、菅野裕三=トミーズ雅、菅野みずほ=田野あさみ、菅野俊介=三宅零治、中野先生=加藤登紀子、山際夫人=金井克子、ヘルパー夏子=乾 貴美子、坂田愛子=岡本麗、政子の母・つや子=中島ひろ子、鈴本みどり=天衣織女丸山知美=安田ひろみ、星野保子=鶴間エリ、絵画教室の先生=りりィ、パン屋の主人=蛭子能収、パン屋の奥さん=角替和枝、茶髪の女の子=芝山香織、時子=今井和子、政子の子供時代=松田花穂、川島えりな、医師=有福正志、順子=江崎順子、彩=小菅あゆみ、港の男=山室一貫、老人たち=丸子礼二、伊佐治高光、早川治平、田中利光、加藤八代、今野常子、成瀬よ志子、加瀬功


 この作品には、社会派作品にありがちな感傷性や説教調がみじんもない。家族や人間の生き方を描いた、極めて深い人間ドラマだ。映画として一級の出来といえる。

 世話するために引き取った義母・政子が、アルツハイマー型痴呆症を患って奇行を繰り返し、主婦の巴をはじめとする家族4人は、深刻な危機を迎える。しかし、グループホームに入れる日、政子は巴に実の子にも話していない自分の過去を整然と話し始める。巴の中の痴呆のイメージが変わる劇的な場面だ。そして、痴呆が進む政子に、絵画という思い掛けない才能が開花する。私の痴呆観も大きく変化した。それは、人間の豊かさの再認識でもある。

 梅が、こんなにも深く、美しいイメージとともに映画の中核に位置する作品を私は知らない。「折り梅」という言葉が、高齢者のメタファーとなって、魅力的に立ち表れる瞬間が素敵だ。吉行和子、原田美枝子という名俳優は、競い合うのではなく、響き合うように感動を高めていく。吉行和子が添い寝した原田美枝子の胸に触って甘えるシーンが素晴らしい。子役たちも健闘している。加藤登紀子、金井克子、りりィは、3人とも印象的な役で登場する。


 友へ チング  「友へ チング」の画像です

 2001年作品。韓国映画。118分。配給=東宝東和。監督・脚本=クァク・キョンテク。プロデューサー=ヒョン・キョンリム、チョ・ウォンジャン 。撮影=ファン・ギソク。編集=パク・コクチ。音楽=チェ・マンシク、チェ・スンシク。照明=シン・ギョンマン。録音=カン・ボンソン。美術=オ・サンマン 。衣装=オク・スギョン 。メイク=チョン・ナムギョン。ジュンソク=ユ・オソン、ドンス=チャン・ドンゴン、サンテク=ソ・テファ、ジュンホ=チョン・ウンテク、ジンスク=キム・ボギョン


 チングとは、古くからの親友の意味。1970年代後半から90年代前半のプサンを舞台に、4人の男たちの友情を描いた感動作。無理に泣かせようとしない抑制が、かえって深い感動を残す。70年代のプサンを描いたノスタルジックな風景は、韓国の中年の人たちには、ジーンとくる場面だろう(私たちが「クレヨンしんちゃん・嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」に、うるうるしていまうように)。プサンの名所が次々に登場し、4人が高校から映画館まで駆け抜けた通りは「チング通り」と命名されたという。このシーンから、映画は急にテンポを上げ、より輝きはじめる。そして、暴力が目立ちはじめる。映画館での乱闘シーンの迫力に驚いたが、ヤクザの血で血を洗う抗争のリアルさもすさまじい。フイルム・ノワールの味わいだ。

 クァク・キョンテク監督が、プサンでの実体験をもとに、書き上げた半自叙伝的な作品。監督に近い立場のサンテクが、少し善人すぎる以外は、どの人物も造形がしっかりしている。そして俳優たちが、素晴らしい演技をみせる。ユ・オソンは、ジュンソクの強さと弱さを演じ分け、人間的な魅力を十分に引き出している。ジュンソクと心ならずも対立するドンス役チャン・ドンゴンは、陰影のあるしなやかな演技。刺し殺されるシーンの見事さは、長く記憶に残るだろう。紅一点のジンスクを演じたキム・ボギョンは、とてもチャーミング。今後に期待したい。

 どの国の映画にも、その国に住んでいる人だけに分かる笑いがある。この作品でも、そんな場面があった。サンゴンがドンスをスカウトする時の言葉「自分は日陰に住んでいながら、日なたに住む人々をより輝かせるのがヤクザではないか」は、かの悪名高いKCIAの標語「我々は陰地で働き、陽地を志向する」をもじったもの。知っている人は苦笑したことだろう。私は、残念ながら映画を観た後で知った。


 ビューティフル・マインド  「ビューティフル・マインド/A Beautiful Mind」の画像です

 2001年作品。アメリカ映画。134分 。配給=UIP映画。製作=ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード 。製作総指揮=カレン・キヒラ、トッド・ハロウェル。監督=ロン・ハワード 。脚本=アキバ・ゴールズマン 。原作=シルビア・ナサール 。撮影=ロジャー・ディーキンズ 。編集=マイク・ヒル、ダン・ハンレー 。衣装=リタ・ライアック。音楽=ジェイムズ・ホーナー。主題歌「オール・ラヴ・キャン・ビー〜奇跡の愛」(シャルロット・チャーチ)。ジョン・ナッシュ=ラッセル・クロウ、ウィラリアム・パーチャー=エド・ハリス、アリシア・ラード・ナッシュ=ジェニファー・コネリー、チャールズ・ハーマン=ポール・ベッタニー 、ソル=アダム・ゴールドバーグ、ヘリンガー=ジャッド・ハーシュ、ハンセン=ジョシュ・ルーカス、ベンダー=アンソニー・ラップ 、ドクター・ローゼン=クリストファー・プラマー、トーマス・キング=オースティン・ペンデルトン 、エインスレイ=ジェイソン・グレイ=スタンフォード 、マーシー=ヴィヴィアン・カードーン


 数学の天才が精神分裂(統合失調)病と闘い、妻の愛に支えられ病いと共存しながらノーベル賞を受賞するまでの感動の物語。2002年のアカデミー賞で作品賞と監督賞を獲得した。数学の天才を主人公にした作品は、少ないようで結構ある。最近でも「π(パイ)」(ダーレン・アロノフスキー監督)や「グッド・ウィル・ハンティング」(ガス・ヴァン・サント監督)が、思い浮かぶ。「ビューティフル・マインド」は、ジョン・ナッシュの伝記をもとに脚色したものだが、「グッド・ウィル・ハンティング」、「シャイン」(スコット・ヒックス監督)、「ファイト・クラブ」(デイビッド・フィンチャー監督)を足して3で割ったような印象を受けた。米ソ冷戦下の緊張を強調した脚本は良くできているが、原作にあった同性愛の問題を避けたので、ナッシュの苦悩の深さが十分に生かされていないと思う。

 ジョン・ナッシュ役のラッセル・クロウは、さすが。今回も、知性と精神の病が共存する役になりきっていた。ただ、かすかなあざとさが鼻につく。特筆すべきはアリシア・ラード・ナッシュを演じたジェニファー・コネリー。私にとって注目の俳優だが、メジャーな適役に乏しかったのは事実。やっと、話題作のはまり役に巡り会い、アカデミー賞の助演女優賞を受けた意味は大きい。艶やかさと意志の強さと聡明さが共存している。


 魚と寝る女  「魚と寝る女」の画像です

 2000年作品。韓国映画。90分。配給=GAGAアジアグループ。監督・脚本=キム・キドク。製作総指揮=ソク・ドンジュン。プロデューサー=イー・ウン。プロダクションマネージャー=シン・チョル。助監督=キム・ヒョンソク。編集=キョン・ミンホ。撮影監督=ファン・ソシク。照明監督=シン・ジュンハ。美術監督=キム・キドク。セットデザイナー=オ・サンマン。衣装デザイナー=ジュ・ウンジョン。メイクアップ=ジュ・ウンジョン。ロケーション音響効果=ハン・チョルヒ。音響監督=イー・スン・チョル。音楽=ジョン・サンユン。製作=CJエンタテインメント、ミョン・フイルム。ヒジン=ソ・ジュン、ヒョンシク=キム・ユソク、ユンア=パク・ソンヒ、マンチ=チョ・ジェヒョン、中年客=チャン・ハンソン、司書=キム・ヨジン、警察に撃たれる男=ソン・ミンソク


 2001年ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。不思議な作品である。墨絵のように幽玄で美しい湖に叙情的な音楽が重なる耽美的な映像。優れた日活ロマンポルノのような情念あふれる猟奇的なストーリー。そして、寓話的なラストシーン。釣り針の束を飲み込み、それを引き抜くという痛覚を刺激される場面もあるが、シリアスにみせかけたコメディのようにも思える。魅力的というば魅力的、中途半端というば中途半端。ただ、このところ活力のある韓国映画の新しい側面を見せてくれた作品と言える。

 何といっても、一言も口を聞かず、いつも不機嫌そうにしている官能的な釣り場支配人のヒジンを演じたソ・ジュンに最大級の拍手を送ろう。スタイルもルックスも美形の俳優なのだが、釣りのえさのミミズを食いちぎったり、カエルをたたき潰して皮を剥いだり、股に釣り針の束を押し込んだりと、怪演の域に達している。ただ、あまりの熱演のために、今回のイメージが強すぎて、今後の芸域が狭まってしまうことが心配だ。


 
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