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2007.7

 ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」の画像です

 魔法省という体制、そしてヴォルデモートと闘う自立したハリー。物語は、佳境に入っていく。アクションシーンも、迫力があり、かなりの出来映えだが、ファンタジー色が薄まり、ホラー作品のように怖い場面が続き過ぎるのが、やや気になった。映画も主人公とともに、成長しているということか。対象年齢は、毎回上がっている。

 イギリスの名俳優たちが、たくさん登場する。なかでも、闇の陣営の死喰い人を演じるヘレナ・ボナム=カーターの怪演は、笑いがこぼれるほど。ドローレス・アンブリッジ先生役のイメルダ・スタウントンの名悪役ぶりも見事だった。全編が重苦しい雰囲気だが、試験会場での爆竹、花火のシーンは、唯一解放感があった。ハリーの初キスシーンだけでなく、青春群像劇としての場面も、ちりばめてほしい。


 毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト 「毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」の画像です

 多くの人がダイアン・アーバスを知ったのは、キューブリック監督の「シャイニング」に引用されていた双子の姉妹の写真だろう。私も、あまりにも独創的な恐怖の演出に驚いた。

 そして、ダイアン・アーバスを調べていくうちに、偉大な写真家であることを理解することができた。アメリカが、明るい健康的な写真であふれていたときに、彼女はフリークスたちをはじめ、マイノリティーの人々を被写体に選んだ。既存の美の概念に挑戦し、ポートレイト写真の意味を変革した。しかし、彼女が本当に素晴らしいのは、被写体の人々と親しくなりながらも、彼女がとまどっているからだと思う。彼女の写真は、押し付けがましくない。これ見よがしではない。でも見ていると、不思議な戸惑いの感覚に包まれる。近さと距離感、親しさと孤独感の微妙な揺れの中に、恥ずかしそうに彼女の作品はある。人は皆一人一人異質であるのに、外見的な異質さで差別されてきた人と出会い、交遊することで、初めて見えてくる世界がある。彼女の写真は、そんな世界に生きる私たちを写す鏡だといえる。

 1965年、ダイアンの作品が、ニューヨーク近代美術館の「最新入手作品」四十点のうちの3点として展示される。そのひとつが「ヌーディストキャンプのある家族の夕べ」。作品に対する観客の反応は厳しく、展示されている間、職員は毎日ダイアンのポートレイトに吐きかけられた唾を拭き取らなければならなかった。マスコミや一般の観客の評価は「奇怪」「悪趣味」「覗き趣味」「フリークの写真家」と、悪意に満ちたものがほとんどだった。

 肝炎や鬱病と闘いながら、ダイアンは写真を撮り続け、若手写真家の間で伝説的な存在になっていた。1969年、14歳から彼女を支えてきた夫アランは、ダイアンと正式に離婚し、若い女優と再婚、ハリウッドに移って、俳優の仕事に本格的に取り組み始めた。ダイアンは孤独になる。生前には写真集がなかった彼女は、1971年7月26日に自殺する。そして、死後に世界的に注目を集める。

 私はダイアン・アーバスの映画ができるということで、とても期待してきた。伝記的な内容ではなくとも、彼女の写真の魅力が伝わる作品になるだろうと。しかし、「毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」は、アーバスを裏切っていた。「エレファン・トマン」「美女と野獣」「不思議の国のアリス」を、無理矢理取り入れて、独りよがりな物語がつくりだされる。そこからは、彼女の新しさも苦悩も伝わってこない。 多毛症の男性と恋に落ちるという設定はよいとしても、その毛をすべてそり落として愛し合うという展開は、ありのままを見つめるというアーバスの基本姿勢に反している。アーバスを好奇心だけの「写真家」にしてしまった。


 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の画像です

 本谷有希子原作、吉田大八監督長編デビュー作「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」。題名からして、むちゃくちゃ挑発的だが、内容はさらに挑発的で濃い。家族劇を通じてユーモアたっぷりに人間存在の闇をえぐる。第60回カンヌ国際映画祭批評家週間に正式招待されたのも、うなずける。ことしの邦画を代表しそうな傑作。

 女優を目指す自意識過剰な勘違い女・澄伽を演じる佐藤江梨子の切れっぷりも見事だが、その姉にいたぶられながらも、姉をテーマにホラー漫画を描き続ける清深を演じた佐津川愛美の屈折ぶりが、さらに見事だ。しかし、一番の名演技は、兄嫁役の永作博美だ。彼女の作る人形が恐ろしい。彼女の笑顔が恐ろしい。底抜けのお人好しにみえて怪物的な闇を抱えている。いや人間存在の闇と戯れている。彼女が切れたらどんな惨劇が起こるだろうと想像したら、とても怖い。おぞましい家族関係の重圧に押しつぶされる兄を演じた永瀬正敏は、見事に3人を引立たせていた。


 ダイ・ハード4.0 「ダイ・ハード4.0」の画像です

 「アンダーワールド」のレン・ワイズマン監督「ダイ・ハード4.0」。全編が見どころと言っても良いほど、アイデアに満ちたアクションシーンが満載。カメラアングルもシャープでスリルがある。大規模なITテロとの闘いだが、ハイテク対アナログの対決ではない。今回は、ジョン・マクレーンとともに、ハッカーのマット・ファレルも活躍する。この世代を超えた信頼が、古くて新しい。二人の英雄を巡る会話も、味わい深い。アクションの間に挟まれた会話は、とてもウィットに富んでいる。

 ジョン・マクレーン=ブルース・ウィリスは、渋い魅力に磨きがかかった。ハッカーのマット・ファレルを演じたジャスティン・ロングは、さわやかな雰囲気。娘ルーシー・マクレーン役のメアリー・エリザベス・ウィンステッドも、なかなか強い。そして悪役マイ・リンを演じたマギー・Qの魅力にやられた。素敵な悪役の存在はアクション映画を輝かせる。


 転校生−さよならあなた− 「転校生−さよならあなた−」の画像です

 名作のリメークは、ほとんどが失敗する。まして、自分の作品をリメークするなんて、あまりにも無謀だ。「転校生」を大林監督自身がリメークすると聞いて、そう思った。さらに舞台を長野に移すと知って疑念は高まった。何を考えているのだろう。

 しかし、作品を観て、この不安は解消した。「転校生」のテーマは、より深められていた。より広げられていた。面白い映画には出逢うが、こんなにも魂を揺さぶられる作品には、なかなか出逢えない。抱きしめてしまいたくなる大林作品が、またひとつ誕生した。古くからのファンだけでなく、未来の子供たちへの贈り物でもある。

 尾道から長野に転校してきた一夫と、老舗そば屋の娘・一美は、“さびしらの水場”に落ち、身体が入れ替わってしまう。おなじみの「転校生」の設定だ。男役を演じた蓮佛(れんぶつ)美沙子の見事な演技には、誰もが拍手するだろう。ピアノ演奏と歌も素晴らしい。一方の森田直幸の演技も、高く評価されていいと思う。傍役たちもとても楽しく作品を膨らませている。笑って泣いて、切なくて心がちくちくする感覚。久しぶりの映画体験だ。


 キサラギ 「キサラギ」の画像です

 こんなに嬉しくなる作品は、1年に何本もない。焼身自殺したマイナーなD級アイドル・如月ミキ。ファンサイト知り合った男5人が、彼女の1周忌に集まる。最初は、思い出話で盛り上がるが、やがて本当に自殺だったのかと疑問が広がり、「彼女は殺されたのだ」と、熱い推理が始まる。そして真相を探るうちに、ファンと思われていた各自の驚くべき秘密が明かされる。最初は,小ネタで笑いをとり、やがて怒濤の展開になだれ込む。

 ののしり合いやつかみ合いはあるものの、会話中心の室内劇。しかし,全く飽きさせない緻密で巧みな脚本。小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之が、それぞれの個性を生かし合ったコラボレーションを見せる。5人のあうんの呼吸が気持ちよい。次々に主役が変わり、ボケとツックミがめまぐるしく入れ替わる。「ええっ!」「おおっ!」と、心の中で声を上げ続けた。ハイテンションの集団コントが続き、最後は、信じられないくらいに暖かな気持ちにさせられる。エンドロールまで、しっかりあんこが詰まっている傑作。この映画は古くて新しい。

 監督は佐藤祐市(さとう・ゆういち)。脚本は『ALWAYS 三丁目の夕日』の古沢良太(こさわ・りょうた)。2003年から、長い時間をかけて企画を練り込んだ。


 
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