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 キリング・ミー・ソフトリー  「Killing Me Softly」の画像です

 2001年作品。アメリカ映画。101分。配給=アミューズ・ピクチャーズ。監督=陳凱歌(チェン・カイコー)。製作総指揮=アイヴァン・ライトマン。製作総指揮=ダニエル・ゴールドバーグ。製作=リンダ・マイルズ。共同脚色=カラ・リンドストロム。撮影=マイケル・コールター。プロダクション・デザイン=ジェマ・ジャクソン。アリス・ラウデン=ヘザー・グラハム、アダム・タリス=ジョセフ・ファインズ、デボラ・タリス=ナターシャ・マケルホーン、クラウス=アルリック・トムセン


 「さらば、わが愛/覇王別姫」でカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した陳凱歌(チェン・カイコー)監督が、ハリウッドに進出し初めて試みた英語作品。R18指定というので、どんなに濃密な官能を描くのかと期待していたが、ハリウッドの壁は厚く、平凡なサスペンスにとどまった。陳凱歌らしい深みがない。この程度の描写でR18は疑問だ。直接的な性描写は抑えられていても「さらば、わが愛/覇王別姫」の方が、はるかにエロティックで激しかった。

 主人公アリス・ラウデン役のヘザー・グラハムは、平凡な日常からめくるめく快楽へと飛び込んでいく。しかしながら、伏線が用意されていないので、立ち止まった男の視線がきっかけというのでは、説得力がない。疑惑を抱いた後の行動も不自然すぎる。アダム・タリス役ジョセフ・ファインズも、確かに魅力的だが、今一つピンと来ない。そんな中でアダムの姉デボラ役のナターシャ・マケルホーンだけが、リアルさを見せていた。


 マルホランド・ドライブ  「マルホランド・ドライブ」の画像です

 2000年作品。アメリカ・フランス合作。146分。配給=コムストック。監督:デイヴィッド・リンチ(David Lynch)。製作・編集:メアリー・スウィニー。製作総指揮:ピエール・エデルマン。美術:ジャック・フィスク。撮影:ピーター・デミング。音楽:アンジェロ・バダラメンティ。リタ、カミーラ・ローズ=ローラ・エレナ・ハリング(Laura Elena Harring)、ベティ・エルムス、ダイアン・セルウィン=ナオミ・ワッツ(Naomi Watts)、アダム・ケシャー=ジャスティン・セロウ、ココ=アン・ミラー、ダン=パトリック・フィッシュラー、ジョー=マーク・ペレグリーノ


 畳み掛けるように襲いかける謎に打ちのめされた「ロストハイウェイ」に比べ、新作「マルホランド・ドライブ」は謎が謎のまま魔術のように消えてしまうので、観終わった直後は物足りない感じがした。しかし、時間が経つにつれて、じわじわと影響され始めた。さまざまな場面が脳裏に浮かび、容易に消えない。印象的なシーンに込められたねらいが気になって落ち着かない。リンチの奔放な想像力とハリウッドに対する愛憎が、独創的な作品に結実したといえる。

 あっと驚く始まりと、あっと言う間もなく終わるラスト。ショックによる記憶喪失になって逃げる妖艶なローラ・エレナ・ハリングの姿を追ううちに、女優を夢見る初々しさをただよわせたナオミ・ワッツの美しさに眼が移る。断片的なエピソードをはさみながら、二人が同性愛に陥る展開に意表をつかれ、ナオミ・ワッツの豹変ぶりに驚愕した。そして物語は大きくねじれ、想像を刺激して止まない迷宮へと閉じ込められる。美しい謎は、長く私の中に留まるだろう。

 敬愛する評論家・滝本誠は「マルホランド・ドライブ」のパンフの中で「『マルホランド・ドライブ』を見ての絶望=他の映画がつまらない、を癒してくれ覚醒させてくれたのが、三池崇史『殺し屋1』だったのである。この作品ぐらいしか『マルホランド・ドライブ』の二重化された映画の時間構造の底無しの魅力に対抗できない」と書いている。 コミックの「殺し屋1」は、確かに覚醒させる力を持っていた。三池崇史の作品は、覚醒ではなく酩酊ではないのか。


 殺し屋1  「殺し屋1」の画像です

 2001年作品。日本映画。128分。配給=プレノンアッシュ。監督=三池崇史。原作=山本英夫(小学館「週刊ヤングサンデー」)。脚本=佐藤佐吉。音楽=KARERA MUSICATION。撮影=山本英夫。照明=小野晃。録音=小原善哉。美術=佐々木尚。衣装=北村道子。イチ・スーツ制作=川上登、高野裕子。CGIプロデューサー=坂美佐子。特殊メイク=松井祐一。音響効果=柴崎憲治。編集=島村泰司。エグゼクティブ・プロデューサー=横濱豊行、三宅澄二。プロデューサー=宮崎大、舩津晶子。垣原=浅野忠信、イチ=大森南朋、カレン=エイリアン・サン(Alien Sun)、金子=SABU、ジジイ=塚本晋也、龍=KEE、二郎・三郎=松尾スズキ、船鬼=國村隼、鈴木=寺島進、高山=菅田俊、藤原=手塚とおる、中沢=有薗芳記、井上=新妻聡、タケシ=小林宏至、売人=風祭ゆき、セーラ=後藤麻衣


 山本英夫のコミックを原作にした、とことん暴力的で悪趣味な三池ワールド。やりたい放題というのは、こういう映画のことを言うのだろう。タブーがない。R18指定も、この作品ならうなずける。タイトルからして、これ以上の悪趣味はないという場所に浮き上がる。全編が刺激的なシーンの積み重ねで、だんだん感覚が麻痺してくる。

 原作の基本にあるのは人間の欲望の屈折。映画は、ほぼ原作通りに過激な暴力と性を描いているが、人間洞察というよりは、お祭り気分で悪乗りしていく。ブラックユーモアやギャグは楽しめるが、映画としての手ごたえが少ない。同じく解離性人格障害を描いた「オーディション」の方が、はるかにズシリときた。

 ユニークなスプラッターシーンがたくさん出てくるが、内臓の描き方が下手。臓物をばらまけばいいというわけではない。内臓の祝祭のように誇張して描かれた「ブレイン・デッド」(ピーター・ジャクソン監督)の方が、まだリアリティがあった。情夫に殴られて歪んだセーラの顔も、ハリボテみたいで迫力がない。こういうところを手抜きすると、ガクンと質が落ちる。精力的な多作ぶりは評価するが、粗製濫造にならないことを願っている。

 もしスプラッターをギャグ調で描くなら三家本礼(みかもと・れい)のリッパー・ザ・ホラー「ゾンビ屋れい子」を、ぜひとも映画化してほしいものだ。このマンガが持つギャグとシリアスが交錯した無類の面白さと三池崇史の力強いスピード感は、相性が良いと思う。


 仄暗い水の底から  「仄暗い水の底から」の画像です

 2001年作品。日本映画。101分。配給=東宝。監督=中田秀夫。プロデューサー=一瀬隆重。原作=鈴木光司。脚本=中村義洋、鈴木謙一。音楽=川井憲次。主題歌=スガシカオ「青空」。撮影=林淳一郎。照明=豊見山明長。美術=中澤克巳。装飾=松本良二。録音=岩倉雅之。整音=柿澤潔。サウンドエフェクト=柴崎憲治。編集=高橋信之。視覚効果=橋本満明。特殊効果=岸浦秀一。松原淑美=黒木瞳、松原郁子(5歳)=菅野莉央、美津子=小口美澪、浜田郁子(高校生)=水川あさみ、弁護士・岸田=小木茂光、不動産屋・太田=徳井優、管理人・神谷=谷津勲、淑美の元夫・浜田邦夫=小日向文世


 「リング」で新しいホラーのスタイルを作り上げた中田秀夫監督の新作。今回も都市伝説風の鈴木光司の原作。ゆっくりとしたペースで、映画的な恐怖を引き出している。さまざまな水の表情を生かしつつ、恐怖を演出する。あざといほども感じるが、ついつい引きずり込まれる。「東海道四谷怪談」を頂点とする日本の怪奇映画の伝統をしっかりと踏まえながら、ホラーの文法を築いた功績は大きい。

 映画としての面白さは、巧みな編集とともに、黒木瞳と菅野莉央の熱演に支えられている。娘を思う神経質な母親役の黒木瞳は、やや過剰な演技で叫び続ける。貯水槽に登るシーンは、ぞくぞくした。そして、娘役の菅野莉央が素晴らしい。場面場面で、じつに的確な表情を見せる。周りを固めるほかの俳優がかすんでしまうほどだ。それだけに、クライマックスでの腐乱した亡霊の特殊効果の弱さが目立った。腐乱した子どものリアルさが出ていたら、恐怖は数倍になっていたはずだ。


 ジェヴォーダンの獣  「ジェヴォーダンの獣」の画像です

 2001年作品。フランス映画。138分。ギャガ・ヒューマックス共同配給。監督=クリストフ・ガンズ(Christophe Gans)。脚本=ステファン・ガベル。編集=デヴィッド・ウー。撮影=ダン・ローストセン。プロダクション・デザイン=ガイ=クロード・フランソワ。製作=サミュエル・ハディダ、リシャール・グランピエール。スタント・コーディネート=フィリップ・クウォーク。フロンサック=サミュエル・ル・ビアン(Samuel Bihan)、ジャン=フランソワ=ヴァンサン・カッセル(Vincent Cassel)、シルヴィア=モニカ・ベルッチ(Monica Bellucci)、マリアンヌ=エミリエ・デュケンヌ(emilie Dequenne)、マルキ・トマ・ダプシェ=ジェレミー・レニエ、マニ=マーク・ダカスコス


 期待してはいたが、ここまで面白い作品だとは思わなかった。大満足の仕上がり。フランス史上最大の謎と言われている18世紀のフランス・ジェヴォーダン地域で起こった野獣による残虐な怪事件をベースにしている。フランスお得意のコスチューム歴史劇に、派手なカンフーアクションを詰め込み、ラブストーリー、ミステリーにホラーまで盛り付けし、映像処理もめりはりがあって素晴らしい。余韻の残るラストも、見事だ。B級活劇の楽しさを基本にしながら、隠された歴史の重みまで伝わってきて、得した気持ちになる。

 ヴァンサン・カッセルのあくの強さは天下一品。ぞくぞくするほど魅力的。ぞくぞくするといえば、モニカ・ベルッチも負けてはいない。高級娼婦として登場し、官能美を振りまきながら、ラストでは意外にも主役に躍り出てくる。そして、「ロゼッタ」(リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督)で生な存在感をみせたエミリエ・デュケンヌが、こんなにも貴族の衣装が似合うことにも驚いた。その可愛らしさと美しさに見とれた。主人公フロンサック役のサミュエル・ル・ビアンも、けっして悪くはない。複雑な性格を良く演じている。しかしながら、周囲があまりにも輝いているので、分が悪かった。あれだけ、激しいアクションを見せても、地味に感じてしまう。


 
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