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 風花 「風花」の画像です

  2000年作品。日本映画。116分。配給=シネカノン。監督=相米慎二。原作=鳴海章(『風花』講談社刊)。脚本=森らいみ。撮影=町田博。美術=小川富美夫。照明=木村太朗。編集=奥原好幸。衣裳=小川久美子。音楽=大友良英。澤城廉司=浅野忠信、富田ゆり子=小泉今日子、美樹=麻生久美子、風俗店の店長=尾美としのり、廉司の上司=小日向文世、富田 (ゆり子の亡夫)=鶴見 辰吾、空港の芸能人=椎名桔平、住職 (ゆり子の義父)=高橋長英、温泉宿の親父=柄本明、ゆり子の母親=香山 美子、カエルの声=笑福亭鶴瓶


 監督デビュー20周年の相米慎二監督、13本目の作品。北海道でのロケがとても良く生かされているからか、さっぽろ映画祭2000のオープニングを飾った。小泉今日子と浅野忠信の顔合わせ。小泉今日子は落ち目の風俗嬢、浅野忠信はアル中の文部省官僚という意外な役どころ。二人とも、新しい魅力を見せた。小泉今日子にとっては、アイドルから完全に脱した記念碑的な作品となった。目尻のしわが、とてもいい。それにしても、小泉今日子には花火が似合う。

 東京で生きている実感を失いかけ、死を望み始めた二人が、死に場所として北海道へと旅立ち、富田の実家に向かう。春の兆しを感じさせながら、なお雪深い山の中で、富田は睡眠薬自殺を図り、澤城は必死に介抱する。大自然の癒し力が、二人を立ち直らせる。こう書いてしまうと、つまらないストーリーになる。しかし、相米監督の緊密にしてとりとめのない映像、ユーモアに満ちた屈折した会話によって、不思議な味わいのラブストーリーに仕上がっている。


 ANGELA'S ASHES  「アンジェラの灰」の画像です

 1999年作品。アメリカ=アイルランド合作。145分。配給=アスミック・エース。監督=アラン・パーカー(Alan Parker)。原作=フランク・マコート。脚色=ローラ・ジョーンズ、アラン・パーカー。製作=デイヴィッド・ブラウン、アラン・パーカー、スコット・ルーディン。製作総指揮=アタム・シュローダー、エリック・スティール。共同製作=ジェイムズ・フリン、モーガン・オサリヴァン。製作補=キット・ゴールデン、ドゥーチィ・モウルト。音楽=ジョン・ウイリアムズ。撮影=マイケル・セレシン。編集=ジェリー・ハンブリング。衣装=コンソラータ・ボイル。アンジェラ=エミリー・ワトソン(Emily Watson)、パパ(マラキ・シニア)=ロバート・カーライル、フランク(幼年時代)=ジョー・ブリーン、フランク(10代前半)=キアラン・オーウェンズ、フランク(10代後半)=マイケル・リッジ、祖母シーハン=ロニー・マスタースン、アギー叔母=ポーリーン・マクリン、キーティング叔父=リアム・カーニー、パット叔父=ヤンナ・マクリアム、ナレ一夕ー=アンドリュー・ベネット、マラキ(幼年時代)=ショーン・マレイ=コーコラン、マラキ(10代前半)=デヴォン・マレイ、マラキ(10代後半)=ピーター・ホーピン、マイケル(新生児)=アーロン・ゲラフティ、マイケル(乳幼児)=ショーン・カーニィ・デイリー、マイケル(乳幼児)=オイジン・カーニィ・デイリー、マイケル(幼年時代)=シェーン・スミス、マイケル(少年時代)=ティム・オブライエン、アルフィ(新生児)=ブライズネイド・ハウ、アルフィ(乳幼児)=クララ・オレアリー、アルフィ(乳幼児)=キャロライン・オサリヴァン、アルフィ(幼年時代)=ライアン・フィールディング、マーガレットメアリ=デア・ライナム、ユージーン=ベン・オゴーマン、オリヴァー=サム・オゴーマン


 この作品を観ただけでは、「アンジェラの灰」という題名の意味は分らない。フランク・マコートの自伝的小説の前半部分を映画化しているから。アイルランドでの貧しい家族の姿を手堅く描写するアラン・パーカー監督。アイルランドがあまりに暗く、アメリカがあまりに明るく描かれているのは、時代的な制約だろう。こういう「おしん」的な作品は、久しぶりだ。確かに歴史的な真実ではあるが、次第に実感が伴わなくなっている。それでも、こうした作品で貧困と差別の過酷さ、そして希望を失わない少年のまなざしが描かれると、現在も同様な事実があることに気付かされる。

 フランク少年を演じるジョー・ブリーン、キアラン・オーウェンズ、マイケル・リッジの素晴らしさは、いうまでもない。 こういう作品は、子役で決まるといっても過言ではない。母親アンジェラ役エミリー・ワトソンと父親役のロバート・カーライルは、ともに不幸と屈折した心情が似合う側面を持っている。ロバート・カーライルの父親は、繰り返し繰り返し描かれてきた愚直で不器用な父親像なのだが、やはり胸に迫る。ラストは、明るいが複雑な思いが残る。アメリカへ向かうフランクの笑顔に、次々に死んでいった兄弟たちの影がちらついてしょうがなかった。


 漂流街  「 漂流街 」の画像です

 2000年作品。日本映画。103分。配給=東宝。監督=三池崇史。原作=馳星周。製作総指揮=徳間康快。制作=植村伴次郎、後藤亘、山本洋。企画=戸川勉、秋本一、薬師寺衛、佐藤勝也。プロデューサー=橋口一成、木村俊樹。脚本=龍一郎。音楽=遠藤浩二。撮影=今泉尚亮。照明=白石成一。録音=湯脇房雄。美術=石毛朗。編集=島村泰司。マーリオ=テア、ケイ=ミッシェル・リー、カルロス=奥野敦士、コウ=及川光博、ルシア=パトリシア・マンテーロラ、リク=テレンス・イン、山崎= 野村 祐人、伏見=吉川 晃司、カーラ=勝又ラシャ


 相変わらず、驚異的なペースで新作を発表し続ける三池崇史監督。好き放題、したい放題に独自世界を突き進んでいる。今回も馳星周の原作を、自分の映像センスでねじ伏せた。冒頭、日本の入国管理局のバスをヘリコプターで襲撃するシーンで、もう開いた口がふさがらない荒唐無稽さ。軍鶏に「マトリックス」させるために、わざわざ緻密なCGを使う不敵さ、クライマックスシーンになんと卓球を登場させる馬鹿馬鹿しさ。映像にセンスとパワーがなければ、投げ出してしまいそうになるが、そこは三池マジック、しっかりと楽しませてくれる。

 登場人物の背景説明はほとんどない。しかし、誰もが生々しい個性を露出させながら、あばれまわる。チャイニーズマ フィア・コウ役の及川光博の冷え冷えとしたニヒリズムにぞくぞくした。13年ぶりに映画出演した吉川晃司は、新しいヤクザ像を映像に刻み込んでいる。蹴った缶がカメラのレンズに当たるというラストは、やや平凡。一度はやってみたいシーンだとは思うが。


 グリーン・デスティニー 「グリーン・デスティニー」の画像です

  2000年作品。中国・アメリカ合作。119分。配給=ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。監督=アン・リ(Ang Lee)。アクション監督=ユエン・ウーピン(Yuen Wo Ping)。撮影=ピーター・パウ。製作=ビル・コン、シュー・リーコン、アン・リー。製作総指揮=ジェームズ・シェイマス、デビッド・リンド。脚色=ワン・ホエリン、ジェームズ・シェイマス、ツァイ・クォジュン。デジタル特殊効果=シネ・アジア、マネックス・ビジュアル・エフェクツ。音楽=タン・ドゥン、ヨーヨー・マ。リー・ムーバイ=チョウ・ユウファ、ユー・シューリン=ミッシェル・ヨー、イェン=チャン・ツィイー(Zhang Zi Yi)、ロー=チャン・チェン、ユィ長官=リー・ファーツォン


 武術の達人たちが大自然の中で闘い、悲劇的なロマンスが繰り広げられる。闘いは壮絶の一言。そのすさまじさに圧倒された。とりわけ、女性同士の闘いは、美しさと激しさが交差しながら、長い時間、息もつかせぬ格闘が続いていた。さらに、ロマンスまでも、格闘なしには進展しないほど、全編を闘いが支配している。格闘から抱擁につながっていく流れは、意外な官能性でため息が出た。絶えまなく移動して壮大で多彩な自然の表情に浸り、美意識に支えられた武術の高みを楽しみつつ、大時代的な悲恋を味わう。一歩間違うと大味な作品になりがちな題材を、巧みに料理し、大作の風格を持たせることに成功している。

 リー・ムーバイ役チョウ・ユウファとユー・シューリン役ミッシェル・ヨーの二人は、ベテランの貫禄。人間離れした技を見せても、場がしらけない。予想外の存在感があったのが、イェン役のチャン・ツィイー。政略結婚を間近に控え、自由への憧れに胸を焦がす少女が、密かに学んできた武術を生かして、無謀な冒険を始める。華奢な身体ながら、その情熱が全身にあふれ、なによりも勝ち気で意志的なまなざしが印象的。可憐さと暴力性を兼ね備えたイェンを見事に演じていた。


 17歳のカルテ 「17歳のカルテ」の画像です

 1999年作品。コロンビア映画。127分。配給=ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。共同製作=ジョージア・カカンデス。音楽=マイケル・ダナ。衣装=アリアンヌ・フィリップス。編集=ケビン・テント。美術=リチャード・フーバー。撮影=ジャック・グリーン。原作=スザンナ・ケイセン。製作総指揮=キャロル・ボディ、ウィノナ・ライダー。脚本=ジェームズ・マンゴールド、リサ・ルーマー、アナ・ハミルトン・フェラン。製作=ダグラス・ウイック、キャシー・コンラッド。監督=ジェームズ・マンゴールド。スザンナ=ウィノナ・ライダー、リサ=アンジェリーナ・ジョリー、ジョージーナ=クレア・デュバル、デイジー=ブリタニー・マーフィ、ポリー=エリザベス・モス、トピアス・ジェイコブス(ドビー)=ジャレッド・レト、ポッツ博士=ジェフリー・ダンバー、ウイック博士=バネッサ・レッドグレープ、ヴァレリー=ウーピー・ゴールドバーグ、ジャネット=アンジェラ・ベティス、シンシア=ジリアン・アルメナンテ、ジョン=トラヴィス・ファイン、ギルクレスト教授=ブルース・アルトマン、バーバラ・キルクレスト=メアリー・ケイ・プレイス、ボニー・キルクレスト=ケイディ・H・ストリックランド


 ボーダーライン・ディスオーダー(境界性人格障害)と診断された17歳の少女が、精神科で過ごし交流する中で、次第に自分を取り戻していく。スザンナ・ケイセンの原作に惚れ込んだウィノナ・ライダーが、製作総指揮と主演を務めている。17歳というのは、いかにも無理があるが、力の入った演技を見せる。ただ、1967年という時代の精神医療への批判は、すでにかなり克服されているので、個性や多様性を尊重しようという主張は、それほどインパクトがない。

 ウィノナ・ライダーの演技が、ややきれいごとに流れている一方、アンジェリーナ・ジョリーが反抗的な少女像をくっきりと浮かび上がらせる。なかなかの迫力。アカデミー賞最優秀助演女優賞もうなずける。ラストでのウィノナ・ライダーとアンジェリーナ・ジョリーの対決は見ごたえがあった。その他、ハリウッドの新進若手俳優たちも難しい役柄を掘り下げ、好演している。


 カル 「カル」の画像です

 1999年作品。韓国映画。118分。 配給=クロックワークス。監督=チャン・ユニョン(Chang Youn-hyun)。製作= ク・ボンハン、チャン・ユニョン。原案= ク・ボンハン。脚本=コン・スチャン、イン・ウナ、シム・ヘオン、キム・ウンジョン、チャン・ユニョン。撮影=キム・ソンボク。照明= イム・ジェヨン。美術=チョン・グホ。音楽=チョウ・ヨンウク、パン・ジュンソク。特殊=メーク シン・ジェホ(イメージ)、飛行船美術工房。チョ刑事= ハン・ソッキュ(Han Suk-gyu)、チェ・スヨン= シム・ウナ(Shim eun-ha)、オ・スンミン= ヨム・ジョンア、オ刑事= チャン・ハンソン、ギヨン= ユ・ジュンサン、検死官ク博士= アン・ソクァン


 複数の死体を切り刻み、パラバラにして人の集まる場所に捨て、気に入ったパーツを取っておいて縫合する。猟奇殺人ものがタブー視されている韓国で、猟奇殺人の王道を行く本格的なスプラッター・スリラーが誕生した。スーパーのエレベーター、高速道路、グラウンドなど、死体の発見されるシーンが素晴らしい。映像とストーリーに迫力がある。韓国の警察には「現場検証」という言葉がないのか、と突っ込みを入れたくなる場面もあるが、展開が早く、意外性に富み、複雑な謎が散在し、飽きさせない。韓国映画の勢いが感じられる1作だ。

 「8月のクリスマス」(ホ・ジノ監督)で共演したハン・ソッキュとシム・ウナが、全く違う役柄で登場する。刑事役ハン・ソッキュは最後に職業意識を失い、シム・ウナは弱々しく清楚なイメージが豹変する。ハン・ソッキュの俳優としての力量は、折り紙付きだが、スヨン役のシム・ウナは「8月のクリスマス」以上に美しくなり、演技もうまくなった。可憐に見えながら、底なしの男性嫌悪を内に秘め、殺人を楽しんでさえいる悪女を演じて、背筋を凍らせる。心に大きな闇を抱えたまま理不尽に殺されるオ・スンミン役ヨム・ジョンアも、強く印象に残った。


 SEUL CONTRE TOUS 

 カノン 

「カノン」の画像です

 1998年作品。フランス映画。93分。配給=アスミック・エース。監督・脚本・製作・カメラ=ギャスパー・ノエ(Gaspar Noe)。製作=ルシール・アザリロヴィック。共同製作=アニエスb.=ラブ・ストリームス・プロダクション。映像=ドミニク・コラン。録音=オリヴィエ・ル・ヴァゴン。特殊効果=ジャン=クリストフ・スバダチーニ。編集=ルシール・アザリロヴィック。馬の肉を売る男=フィリップ・ナオン(Philippe Nahon)、娘=ブランディーヌ・ルノワール、愛人=フランキー・パン、叔母=マルティーヌ・オドラン


 馬肉的な質感の「カルネ」。あの衝撃は、忘れられない。そして、待ちに待った続編が完成した。予想通りのねちっこい感触。娘に恋をした父親の世界への憎悪と赤裸々な欲望が、独白となってこだまする。怒りは、叩き付けるような映像によって、増幅されていく。私たちは引きずられるように、彼の後をついていかざるをえない。あらゆるタブーに頓着することなく、己の下品な感情をむき出しにする父親に、爽快感さえ感じた。

 問題のラスト。いかがわしさとリアルさのぎりぎりのところで遊ぼうとするギャスパー・ノエ監督の真骨頂だろう。「Attention!」の点滅では笑いと期待がないまぜになった。良識派の批判にも配慮したユーモアだ。近親相姦のシーンも巧みに回避している。そして2つの結末が用意された。血塗られた破滅と愛による救済。多くの観客は時間的な関係で、希望に満ちたラストと受け取ることだろう。ここにも批判をかわす狡獪な遊びがみえる。ヤン・クーネン監督が「上映したら殺される」と警告した作品は、高い評価を得ることになった。天晴れ!。


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