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pinキネマ霊園pin第52回カンヌ映画祭・結果pin掲示板

 クレイドル・ウィル・ロック 「CRADLE WILL ROCK」の画像です

 1999年作品。アメリカ映画。134分。 配給=アスミック・エース エンタテインメント。脚本・監督・製作=ティム・ロビンス(Tim Robbins)。製作=ジョン・キリク、リディア・ディーン・ビーチャル。製作総指揮=ルイーズ・クラコワー、フランク・ビーチャム、アラン・ニコルズ。撮影監督=ジャン=イヴ・エスコフィエ。美術監督=リチャード・フーヴァー。編集=ジェラルディン・ペローニ。衣装=ルース・マイヤーズ。挿入曲=マーク・ブリッツスタイン。音楽=デイヴィッド・ロビンス。キャスティング=ダグ・エイベル。マーク・ブリッツスタイン=ハンク・アザリア、ディエゴ・リヴェラ=ルーベン・ブラデス、ヘイゼル・ハフマン=ジョーン・キューザック、ネルソン・ロックフェラー=ジョン・キューザック、ジョン・ハアウスマン=ケアリー・エルウィズ、グレイ・マザーズ=フィリップ・ベイカー・ホール、ハリー・フラナガン=チェリー・ジョーンズ、オーソン・ウェルズ=アンガス・マクファデン、トミー・クリック=ビル・マーレイ、ラグランジェ伯爵夫人=ヴァネッサ・レッドグレイヴ、マルゲリータ・サルファッティ=スーザン・サランドン、ジョン・アデア=ジェイミー・シェリダン、アルド・シルヴァーノ=ジョン・タトゥーロ、オリーヴ・スタントン=エミリー・ワトソン


 ティム・ロビンス、5年ぶりの新作。不況と労働者のストライキが続く1937年の荒れたアメリカ。マーク・ブリッツスタインが作曲し、オーソン・ウェルズが演出した舞台『ゆりかごは揺れる』は、政府によって初日前日に中止された。しかし危険を顧みず舞台を成功させようと立ち上がった人々が、奇跡の舞台を生み出す。この歴史的な実話を中心に、大資本家ロックフェラー、大富豪マザーズ、ムッソリーニの元愛人サルファッティ、メキシコ人画家ディエゴ・リヴェラなどなど、じつに多彩な人物が登場する。広い視野で多面的に1930年代のアメリカを描こうという意気込みが感じられる。その意欲は貴重だ。

 歴史を複眼的に取り上げようという狙いは理解できる。しかし、そのためには3時間は必要だろう。さまざまな魅力的な人物が登場し、俳優たちも熱演しているが、駆け足の展開ではやはり物足りない。もっとじっくりと人間を描いてほしかった。感動的な舞台をそれだけに終らせるのではなく、資本家たちの思惑に抗した表現者たちの誇りとして位置付けたかったのだろうが、多くの話を盛り込み過ぎて焦点がぼけてしまいがちだった。歴史の多面性は伝わるが散漫な印象も残った。


 初恋のきた道 「初恋のきた道」の画像です

 2000年作品。米中合作映画。89分。 配給=ソニーピクチャーズエンターティンメント。 監督=チャン・イーモウ。 脚本=パオ・シー。製作=チャオ ・ユイ。美術=ツァオ・ジュウピン。サウンド=ウー・ラーラー。 編集=チャイ・ルー。音楽=サン・パオ。撮影=ホウ・ヨン。製作総指揮=チャン・ウェイピン。製作=チャオ・ユイ。衣装=トン・ホアミアオ。チャオ・ディ(若)= チャン・ツィイー(Zhang Ziyi)、ルオ・ユーシェン=スン・ホンレイ、チャオ・ディ= チャオ・ユエリン、ルオ・チャンユー=チェン・ハオ、祖母=リー・ピン


 力強く熱気に満ちあふれた「紅いコーリャン」や、スタイリッシュで濃密な空間描写に徹した「紅夢」を突き付けたチャン・イーモウ監督は、まったく別の世界を紡ぎ出した。町から赴任してきた若き教師と村の娘の恋を中心にした小さな物語。美しい自然描写の中で、けなげな恋が描かれる。いとおしく忘れがたい味わいを残す。映像は変ぼうしたが、テーマにふさわしい映像を作り上げる確かな手腕は変わらない。

 チャン・ツィイーのデビュー作である。いち早くツィイーの才能を見つけたチャン・イーモウ監督の慧眼に感心する。私は、先に「グリーン・デスティニー」(アン・リー監督)の勝ち気で意志の強いチャン・ツィイーの演技を知っている。だから、「初恋のきた道」での素朴な笑顔やちょこちょこ歩きが、自然なしぐさではなく演技であることも分かる。それでも、彼女の愛くるしい表情は、私の胸をときめかせる。私にとってツィイーは、2000年の新人賞だ。


 Party7 「Party7」の画像です

 2000年作品。日本映画。104分。配給=東北新社。監督・原作・脚本・編集=石井克人。撮影=町田博。美術=都築雄二。編集=土井由美子。音楽=ジェイムス下地。アニメーション制作=マッドハウス。三木シュンイチロウ=永瀬正敏、オキタソウジ=浅野忠信、フグタハンモリ=原田芳雄、ソノダシンゴ=堀部圭亮、トドヒラトドヘイ=岡田義徳、ミツコシカナ=小林明美、若頭=我修院達也、出崎親分=島田洋八


 「鮫肌男と桃尻女」でさっそうと登場した石井克人監督が、独特のユーモアをさらに押し進めた新作。アニメも音楽もかなりテンションが高い。何よりも心地よい空虚な笑いが、最高にポップだ。ばかばかしい会話がえんえんと続く、バラバラの会話劇のような構成だが、ラストで帳じりを合わせる見事さに脱帽。映画から離れているようで、しっかり映画している。

 会話劇を盛り上げているのは、コミカルなキャラクターに徹した俳優たちの努力のたまもの。浅野忠信は、どんな役にも難なく入り込んでしまうが、今回の役はそんな中でもピカ一だろう。「風花」での文部省官僚役よりも驚いた。そして、特筆すべきなのは原田芳雄のおかしさ。これまでのハードなイメージを一変させている。くすりとさせるユーモアのセンスは持っていたが、今回は抱腹絶倒の演技。60歳の原田芳雄、恐るべし。


 Dancer in the Dark 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の画像です

 2000年作品。デンマーク映画。140分。 配給=松竹、アスミック・エース。監督・脚本=ラース・フォン・トリアー(Lars von Trier) 。音楽=ビョーク(Bjork)。製作=ヴィベケ・ウィンデロフ。撮影監督=ロビー・ミュラー。振付=ビンセント・パターソン。美術=カール・ユリウスン。衣装=マノン・ラスムッセン。編集=モリー・マレーネ・ステンスガード&フランソワ・ゲディギエール。セルマ=ビョーク(Bjork)、キャシー=カトリーヌ・ドヌーブ (Cathrine Deneuve)、ビル=デビッド・モース、ジェフ=ピーター・ストーメア、オールドリッチ・ノヴィ=ジョエル・グレイ、サミュエル=ビンセント・パターソン、リンダ=カーラ・セイモア、ノーマン=ジャン・マルク・バール、ジーン=ブラディカ・コスティク、ブレンダ=ジョブハン・ファロン


 第52回カンヌ国際映画祭のパルムドールと主演女優賞をダブル受賞した。ドキュメンタリー風の映像とミュージカルシーンの緊張した二重構造で、チェコからアメリカに移民したシングル・マザー・セルマの痛ましい悲劇が描かれる。深々とした裂け目をつないでいるのが、セルマ役のビョークの演技を超えた身ぶりと歌声。アメリカ社会の絶望的現実と人間の尊厳に満ちた希望が、こんな形で映像化されるとは。ハリウッド映画では、けっして到達できない奇跡的な高みが、実現している。

 ミュージカルを愛しつつアメリカミュージカルの浅さ、いいかげんさを認識していたトリアー監督は、思いもかけない方法で、ミュージカルを蘇らせた。これほどまでにミュージカルを生かしながら、既存のミュージカルを批判しえた作品は初めてだ。ミュージカルの国アメリカに移り、ミュージカルの舞台に立つことを夢見ていたセルマは、最も過酷な場面で、その夢を実現する。想像するだに恐ろしいアイデア。そして、打ちのめされるラストシーンが、ひとつの希望の形態、セルマの勝利だということに気がつくのだ。


  THE END OF THE AFFAIR 「ことの終わり」の画像です

 1999年作品。イギリス映画。101分。配給=ソニー・ピクチャ一ズエンタテインメント。監督・脚色=ニール・ジョーダン(Neil Jordan)。製作=スティーブン・ウーリー、ニール・ジョーダン。原作=グレアム・グリーン。撮影監督=ロジャー・プラット。プロダクション・デザイナー=アンソニー・プラット。編集=トニー・ローソンA.C,E.。作曲・指揮=マイケル・ナイマン。衣装デザイナー=サンデイ・パウエル。モーリス・ベンドリックス=レイフ・ファインズ(Ralph Fiennes)、サラ・マイルズ=ジュリアン・ムーア(Julianne Moore)、ヘンリー・マイルズ=スティーブン・レイ、パーキス=イアン・ハート、スマイス神父=ジェイソン・アイザックス、サベージ=ジェームズ・ボーラム、ランス・パーキス=サミュエル・ホールド


 「クライング・ゲーム」「インタビュー・ウイズ・バンパイア」で、濃厚にして屈折した愛を表現したニール・ジョーダン監督だが、今回はグレアム・グリーンの原作の味わいを保ちながら、戦時下の激しい不倫劇を気品に満ちた映像で描き出した。神の視点を加えた古典的な展開ながら、見終った後には狂おしい思いが残る。少しばかり胸が締め付けられるような気持ちになった。

 「イングリッシュ・ペイシェント」(アンソニー・ミンゲラ監督)で、忘れがたい演技を見せたレイフ・ファインズ。ベットシーンを含めて、どんな場面でも品位を醸し出す存在感は貴重だ。ジュリアン・ムーアは高級官吏の妻にしては、崩れかけた雰囲気が強すぎるものの、不倫の関係に溺れていく姿は説得力があった。マイケル・ナイマンの音楽が、悲劇を盛り上げるが、どの作品も同じように聞こえるのはいただけない。


 What Lies Beneath 「ホワット・ライズ・ビニース」の画像です

 2000年作品。アメリカ映画。130分。配給=20世紀フォックス。監督=ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)。脚本=クラーク・グレッグ。ストーリー=サラ・ケノシャン、クラーク・グレッグ。製作=スティーブ・スターキー、ロバート・ゼメキス、ジャック・ラプケ。製作総指揮=ジョーン・ブラッドショー、マーク・ジョンソン。撮影=ドン・バージェス、A.S.C.。プロダクション・デザイナー=リック・カーター、ジム・ティーガーデン。編集=アーサー・シュミット。音楽=アラン・シルヴェストリ。衣裳デザイナー=スージー・デサント。視覚効果スーパーバイザー=ロバート・レガート。ノーマン・スペンサー=ハリソン・フォード(Harrison Ford)、クレア・スペンサー=ミシェル・ファイファー(Michelle Pfeiffer)、ジョディ=ダイアナ・スカーウィッド、ドクター・ドレイトン=ジョー・モートン、ウォレン・フューアー=ジェームズ・レマー、メアリー・フューアー=ミランダ・オットー、マディソン・エリザベス・フランク=アンバー・バレッタ、ケイトリン・スペンサー=キャサリーン・トーネ、ドクター・スタン・ポーウェルー=レイ・ベイカー、エレナ=ウェンディ・クルーソン


 ロバート・ゼメキス監督が、全身全霊でヒッチコック監督に捧げたオマージュ。ヒッチコック作品の変奏の嵐。その徹底ぶりに感心し、ときには口元が緩む。大きな仕掛けではなく、細部を積み重ねることで恐怖や謎を膨らませいく繊細な手つきは、ヒッチコックが乗り移ったように見事だった。私はゼメキスと感性が合わず、評価が高かった「コンタクト」「フォレスト・ガンプ 一期一会」も、神経を逆撫でされて不快な印象を持った。しかし、今回は鏡を効果的に使う繊細な演出によって、するりと作品の世界に入り込むことができた。ラストのホラーは、ヒッチコックからの逸脱だが、ゼメキスのお遊びとして許してあげよう。

 ハリソン・フォードが、ノーマンという名前で登場したときから、ただならぬ展開が予想された。これまでの俳優像を利用して、意外性を高めていく知能犯的な配役だ。ハリソン・フォードにとっても、大きな位置を占める作品となっただろう。そして、ミシェル・ファイファー。最初からラストまで、彼女の演技にくぎ付けになった。不安が増殖していく過程を、美しい表情の変化でみせる。「恋のためらい」とは、まったく別の新しいファイファーがいた。ぞくぞくするほど魅力的だ。


 TITUS 「タイタス」の画像です

 1999年作品。アメリカ映画。162分。配給=ギャガ・ヒューマックス。監督・脚本=ジュリー・テイモア(Julie Taymor)。原作=ウィリアム・シェイクスピア。衣装=ミレーナ・カノネロ。美術監督=ダンテ・フェレッティ。撮影監督=ルチアーノ・トポリ。音楽=エリオット・ゴールディング。タイタス=アンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)、タモラ=ジェシカ・ラング(Jessica Lange)、カイロン=ジョナサン・リース・マイヤーズ(Jonathan Rhys Meyers)、ディミトリアス=マシュー・リース、アーロン=ハリー・レニックス、ルーシャス=アンガス・マクファーデン、サターナイナス=アラン・カミング、バシアヌス=ジェームズ・フレイン、マーカス=コーム・フィオール、ラヴィニア=ローラ・フレイザー(Laura Fraser)


 「ライオン・キング」の舞台演出で、高い評価を得たジュリー・テイモアの初映画作品。シェイクスピアの戯曲中、最も残虐と言われている「タイタス・アンドロニカス」を大胆に組み替えて、ケレン味に満ちたスキャンダラスな映像世界を構築している。確かに果敢な挑戦であり、想像力の豊かさも認めるが、今一つ突き抜けた美しさに欠ける。残酷なシーンの手前で引き返してくるような躊躇が感じられる。だから、ラストの希望もさほど心に響いていない。ピーター・グリーナウェイ監督に似ている面もあるが、知的な悪意は感じられない。

 何と言ってもタイタス役アンソニー・ホプキンスの名演技をたたえなければならない。彼の存在感がなければ、この作品は総花的なイメージの乱舞に拡散していたかもしれない。強引な展開にリアルさを与える力には脱帽する。個性的なキャステイングだが、ラヴィニア役のローラ・フレイザーが鮮烈に印象に残った。まずタイタスの従順な娘として可憐な美しさを見せる。やがて、彼女は強姦され、舌を抜かれ、両手首を切り落とされて、そこに小枝を刺される。血を吐きながら無言で嘆く悲壮な姿は、痙攣的な美しさに満ちていた。文句なく残酷美と呼べるのは、このシーンくらいだろう。


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