未完のスケッチ
青のスケッチ
- 冬の夕日に黄色の電車から
- 雪の中に寒い空から
- 夢夜中に僕は
- ある日願っても 願っても
- ある日幾度となく
- 訣別の朝朝に目覚めて
- 九月僕らの夏が飛び去ってゆく
- 九月灰色の空の下で
- 九月水平線に
- 夏の終りに夏の終わりの
- 夏の弔い過ぎてゆく夏を惜しんで
- 心けれど幾度でもまた
- 別れにどうしようもなく
- 砂浜にてあたたかい潮風に
- 牛一人で
- かまどうまかまどうまという
- 誕生日昨日までは変わらずに
- 七月扉を開けたら
- 六月しっとりと
- 五月春が言葉を交わすのは
- 五月首から上だけになって
- 四月誰かがこぼした
- 四月(公園で)萌えぎ色の
- 三月水が冷たい小川で
- 三月早く春になるといいねと
- 三月まぶしいぐらいの朝が
群青のスケッチ
- ある日大きな夕日が 背中を押してくるから
- 冬の日に冬の日の午後の
- ある日寂しい夕暮れ時には
- ある日今日も一日
- 秋の日に寂れゆく風景を
- 秋秋が
- 別れに僕らが
- 高原にて寂しい夏の日の
- 秋の夜に中秋の丸い月は
- 土方「工事中」
- 漁師夕日に錆びつき
- 街で誰か
- 夜に夜の一時頃に
- 星星が見えない。
- 人ゴミの中で貧弱に痩せた
- 故郷僕の故郷には
灰色のスケッチ
- 降りなかった駅今しがた 通った線路の
- 沖合いの夜沖合の夜 コールタールの
- 人生の澱静かに 雪は降り積もる
- 朝に夢の中に
- 夕暮れ血の滴るような夕べ
- 一日一日は今日も
- 隔たり肩を落としながら二人
- 雨の夜に雨粒が白い糸を引きながら
- 野辺にて野辺には
- 夕暮れその時
- 悲しみ悲しいのは
- とある日こぎれいな白い椅子の
- 別れに(卒業の日に)もうこんな気持ちとともに
- 風の中で歩き疲れ
- 手紙僕は
- 公園でもうすぐ
- 花柔らかな今朝の
- 街で春の日の
- 時のなか初夏になると
- 春の日に空からしたたる
- 朝に夕暮れよりも
- 春の日に今日
- 一日の終りに今日という日の労働を終えて
- ある日人も訪ねない
- 故郷にて冬を迎えるおやすみ・・・・・
- 遠くで柔らかい緑の草地が続く
- ある日今日一つの思いが
- 草原に身を横たえてもう浮かび来るな
- 朝にやがて生まれ来る
- 夜にやがて
- 落日釣りをする人の竿の先に
未完のスケッチ
- 有り難いこと詩を綴り始めてからもう
- ギャラリーにて丁寧な手仕事の上には
- 茫々とした風に茫々とした風が休むことなく
- 底知れず思いはどれ程に溢れてくるものなのだろう
- 笑い笑いは憂い
- 手品師その日 心の煩いを
- 祝福にシェードランプから漏れたような仄かな明かりの中に
- 高原にて標高1800メートルの燕は
- とある朝に目覚めれば僕を
- 悲鳴芽吹いたばかりの葉が風にもぎ取られてゆくときの悲鳴が
- 迷い子少しの間迷子になっていた
- 朝霧目覚めとともにまた
- 忘れ行く日々に忘れ果てて行くこと
- 白い羽可憐な花の下にも影がある
- 革の鞄にこの見窄らしく小さな革の鞄に
- クローバー畑に寝ころんで野原の一隅を
- ポケット時間優しい春雨に隠された部屋で
- 欅にすみれ色の空が裸の欅の梢に
- 夕日に夕日が川面に落ちている
- 雨の朝にいつの間にかもう朝だ
- 桜色の夕日に車は帰路にあって
- 風が吹いてくる風が吹いてくる
- 夕暮れの野原に楕円の夕日が稜線に落ちて行くと
- 雨の一滴にさっきまで降っていたにわか雨が
- 悲しみと雨と雨が降っている
- 雨の朝に高い雨音に目覚めた朝
- 小さな窓駅舎の高いところに見つけた小さな窓
- 列車に乗って先ほどから降り始めた雨は少し冷たく
- 朝日の昇る頃に暗く凍りついた水面に触手を拡げ
- 25年後の春に25年後の春の空は
- とある日に野球場に歓声がこだましている
- 君が走っている君が走っている
- 冷たくはない雨にいつの間にか降り出した雨が
- 朝日の中でレースの細かい網目でも
- 眠れる処眠りの中にも
- 青空を見上げながら大きく枝を広げた
- 物語の終わりに僕はそこで
- いつの間にか雨はいつの間にか外には 雨が降っていた
- 一冊の本にもうカバーも取れて
- 銀色の時計に逃れるように僕の腕から
- 引越し1年僅かの短い暮らしが
- 時間の化石いつの間にか針を止め
- 風吹けば悲しさで一杯の 僕なのに
- 通り雨突然に空を 黒く変えた通り雨は
- 飛行機に今朝あますことなく 大地を濡らした
- 青い虫今朝 青い水をなめて
- 公園であれはさっきまで 僕が座っていた木のベンチ
- 夢の続きいつからか 僕は
- 春の岬灯台の光も届かない水平線に
- 目の中からもうそれは 持っていられなくなって
- 風の委託僕の詩は魂の
- 買い物ベランダにはじょうろが投げ出されていた