風のささやき

悲鳴

芽吹いたばかりの葉が風にもぎ取られてゆくときの悲鳴が
僕の耳に青い嵐のように鳴り響いた
「どうして僕がって」その謂われを問いただされて
真剣な最後の問いの前に突然突き出されて
何も答えられない僕の悲鳴がその悲鳴と重なった

青い風はその時に僕の頭上で渦を巻いた
太陽の陽射しが点滅するかのように
目の中がチカチカと焦げくさくなった
青空はその時深い藍を吸い込んで黒ずみ
僕はその中心にあって息ができなかった

僕は落雷のように叱責された
その失われたけれど僕の耳に残る悲鳴に
「なぜ君ではなくて僕だったの」って
「もう誰からも忘れられて行くんだよ、僕は」って

僕ではないよと僕の心が軋んで答える
それは小さな子供のささやかな抵抗の怒りにも似て無力で
僕ではない確かに僕ではないのだけれど
その悲鳴が何処か僕につながっていること
僕からの見えない糸にしっかりと結ばれていることを感じて
僕はまた一心に謝りたくなるのだ

忘れない忘れないよ
ごめんねごめんよと

出来もしない約束だと
その場凌ぎの念仏のようだと知っている
木々の新緑の唇の嘲笑
背中にも頭にも投げつけられて

謝ることで許されると信じるお気楽な心
黒く染みだした自分の影に睨みつけられ

春のすべての気配が体中に痛い
毛穴の一つ一つから留めようもなく
僕が一つの悲鳴となっていた午後