風のささやき

夜に

夜の一時頃に
目を覚まして窓から覗くと
街はひっそりとした寝息を
月明かりの闇の中にたてていた。

明かりがついているビルも
今日は見あたらずに
人が通る靴音の
高い響きの気配さえ
街灯の下に今日はない。

大きな黒い蜘蛛が
足をのばして
地面に這いつくばるように
街は眠っている
家の中では
うごめく小さな人間達が
疲れはてた肢体を
狭い床の上に投げ出して。

昼間見た
あの奇妙な仮面も今は
すっかりと取り外されて
この夜には誰もが
一匹の動物となって
こくこくと
むさぼるように眠る
荒々しい寝息だけを
枕元に吐き出しながら
頭の中に
腐りかけて花開く
青ざめた夢の数々で
満たされない心埋めて。