風のささやき

白い羽

可憐な花の下にも影がある
白い花びらの姿をなぞり
茎をなぞり小波だつ葉をなぞる
黒い造詣がぶら下がっている

その上を飛ぶ蝶の影を地面は逃さない
花に隠れても飛び立つ瞬間には
また捉えられる白い羽の黒い影

だからその罪に白い花は散って行くのだ
強い風の指先に千切られ
そうして蝶は
羽根をもぎ取られ
空から舞い落ちるのだ
真っ逆さまに地面へと向かって

その羽を引きずって行く
黒い蟻の群れの午後の航海
終ることなく彼等に課せられた労苦
黙々とそれをこなすことだけが
彼等の生に重なる
そのことだけに生きることが許されていること

僕がこの人差し指で押しつぶせば
きっと逃げ惑う蟻たちの
順序だった仕事は乱されて

僕がそれをしなかったので
地面に折りたたまれた蝶の白い羽は
綺麗に穴の中にしまわれたのだが

何のために僕は
生きることが許されているのだろう
この黒い影を引きずりながら
耳の奥に黒い渦のような眩暈を感じながら

重たい影を背負って生きた蝶という
言葉の墓標だけが僕の胸に残った