風のささやき

とある朝に

目覚めれば僕を
その胸に抱いてくれていたのは誰
いつまでも悪い夢に魘されて眠っていた僕を
目を開くことを恐れていた僕を
じっと我慢強くその胸に
花開くまで抱いてくれていたのは誰

温かい涙が湧いてくることを抑えられない
一人ではないこと
一人であると意固地になった思いを
溶かしていく涙は
暖かな波のような繰り返し僕を洗い

砂浜に「後悔」の文字を刻んで
それを青い波に洗い
真っ新になった砂浜には
「何もない」と書き込みそれをまた
白く泡立つ波で洗って

爪の間に入り込もうとする
金の砂の粒の微かな痛みが快い
乾かない涙をそれ以上の潮の香りが舐めて行く
日向に群れる浜昼顔の花に触れ
海の鐘を鳴らそう

それは遠く放り投げてしまった
がらくたの記憶の目覚めの合図
いつしか僕の体に戻ってきて
一つになろうとする
僕が拒んでいただけの体の一部の

それは柔らかな陽射しのようだった
潮風の匂いの微笑よ
一瞬一瞬の笑顔が愛おしくて
返す微笑と微笑とが
重なって一つになってゆく
静かな途切れない流れであった