風のささやき

欅に

すみれ色の空が裸の欅の梢に
丸い帽子を被せている
白い雲の刺繍をお洒落にあしらって

まだまだ寒いから
風邪などひかぬようにねって
春を待ち焦がれる枝々に
もう少し我慢をしようねって
そうなだめ賺すかのように

確かに道路にはまだ雪が残って
凍りついた足元は歩きにくいけれど
電車も恐る恐る
走っているようにも見えたけど

そうは言っても
今日の陽射しはこんなにも
目の前の春を予感させるものだもの
僕以上に欅が浮き浮きとしていたとて
何の不思議もないさ

思いっきり背伸びをしながら
期待に風に
小刻みに揺れていること
止めることはできない

素直に嬉しさを表現できる機会は
そうそうにはないことだしね

嬉しすぎて慌てすぎて
まだ寒いのに
芽吹いてしまうことがなければね

僕も欅には負けていないよ
人の中にも埋まっている
季節を感じるアンテナを空高く立てて
春の行方を逸早く捕まえようとしている