風のささやき

秋の夜に

中秋の丸い月は
雲の合間から
風景を青白く照らし
首や手には冷たい秋の風は
土手の上で身を堅くする
僕を吹いて
ススキの多い河原にと
流れ寂しく
乾いた音になっている。

その石の上や
枯れかけた草の裏には
この夜の静けさを深めるように
明日にはこの世に
ないかもしれぬ命の
虫達が鳴いている。

僕の耳はそれを聞き、
ああその歌は
どれほど僕には
うらやましく思えることか
閉ざされた時間と場所とに
天命をまっとうしようと
不平も言わず
涙もこぼさず一心に
きしむ羽を震わせる歌は。

高まる歌は歌と重なり
夜の空気が波を打つ
この一夜の輪唱に
僕も加わり
煩雑な思いに煩うこともなく
自分の生命を天に返すように
歌い尽くせたら。

この秋の夜長に鳴く虫達の歌が
どれほど僕には
うらやましく思えることか。