風のささやき

有り難いこと

詩を綴り始めてからもう
幾年が過ぎて
誰よりも僕と一緒の時間を過ごし
誰よりも僕の心の闇を知っている

最初は新鮮な驚きと感動と
眩しすぎる夏の陽ざしが触っていた言葉が
いつしか陰影を帯び自由に羽ばたけ無くなり
ちっとも進歩が見られない
ざらざらとした苦い舌触りの
書き散らかしの残骸が残り

それでもまだまだ
詩を書く時間を許されているのだから
詩を書く筆を動かせるのだから
本当に本当にありがたい

例えば古人の詩の美しい調べ
その言葉使いに驚き
詠唱して心に沁み込ませ
悲しい時には祈りのように思いだし
肩に手を置かれているように感じながら

まだまだ学べる余地もあるのだと
信じていられると
自分の言葉の下手さ加減に
挫けている場合では無い
残された時間は
幾らあってもきっと足りない

もっとも
怠けている時間を差し引けば
少しは足りるのかも知れないが
そこまでは勤勉になれない自分は
ちょっと酒を入れて
高揚した気分で英雄気取りで

生きていられる時間はありがたい
何度でも詩を書きなおす事ができる
新しく詩を着想することもできる
抱き上げた子供の重さを感じながら
向かい合った笑顔に励まされながら
幾つもの涙に一緒に心を濡らしながら
胸に起こる悲しみと喜びとを十分に噛みしめて

詩がうまくなりたいと祈ることもできる
僕は僕の祈りで生きて行く
その僕の詩で
人を喜ばせることができれば
この上無く幸せなんだけれどな