風のささやき

ポケット時間

優しく透明な雨で隠された
部屋で微睡む春の午後は
小さな宝石箱に横たわるように
贅沢な時間だ

窓を控えめにノックする
街にあふれた騒音を
雨音は手なずけ静かにさせて

いつも以上にすやすやと眠る
子供たちの吐息が
丸いシャボン玉のように
部屋にフワフワと浮かんでいる

僕の憂いも眠った・・・・・

閉ざされたままの僕の瞼の上には
宝石が混ざりあった色彩が浮かび
そこに見覚えのある
懐かしい友達のような古い夢が描かれて行く

僕がいつしか
夢日記に書き写そうとして忘れた
もう戻って来ないはずだった夢

音のないセピア色の
映画眺める観客のようになって
僕はすっかりと
世間から切り離されていた・・・・・

子どもに飴をあげたら
それを大事にポケットにしまった
後から食べるんだと
膨らんだその場所を触りながら
いつまでも楽しげにしていた

僕らの部屋もそんな飴玉のように
誰かのポケットに
人知れず滑り込んでしまったのかも知れない
雨が大事に隠したポケット時間

夢を眺め続けようと思いながらも
眠りに落ちてしまった僕の寝息も
子供と同じように安らかな
シャボン玉だったかも知れない