風のささやき

風が吹いてくる

風が吹いてくる
雪降りそうな曇天の空の下から
細長い葉の並ぶ平原を鳴らし

吹いてきた風は僕に来た
その勢いに胸一杯になって
僕はどきまぎとしていた
その驚きの透明な色合い
風はさらっていった
僕を通りすぎてどこへ

僕の溜息と涙とを
いつかの夜に僕は風に
渡していたことを思い出す
風は僕のまわりで
水を含んだ真綿のように湿った
あの悲しみの跡はまだ風の胸に
抱かれたままなのだろうか

風も最初は誰かの発した
小さな吐息だったのかも知れない
健やかなる幸いへの憧れの
吐息は吐息を集めて
世界を渡り始めた
やがて大きな流れとなり
留まることを知らず
明日へと向って

風が吹きすぎていった
僕はその余韻に浸っている
風があまりにもたくさんの
中身を含んでいたから

僕はそれを自分の言葉で捉えなおし
風にまた返すだろう
風がこれから吹いて行く
見えない地平へと向けて

今日も風が吹いている
透明な人の思いをたくさん集めながら
それはどこへ吹いて行くのか
願わくば
たくさんの人の喜びと笑いを摘むものとして
吹いていくことをと