風のささやき

別れに(卒業の日に)

もうこんな気持ちとともに
歩くこともない
欅並木の道では
晴れた三月の空に
レースを縫い込むように
枝々がその手を延ばして
かたい蕾からは
はや小さな生命が
顔を覗かせている
新しい季節の陽射しを
その身
一杯に感じて。

繋ぎ止めておくことのできなかった
愛しい人の面影も
かなわないであった
幾つもの思いの悲しみや痛みも
流れ込んでゆく
煉瓦作りの正門を通り
古びた校舎の教室や
木陰のベンチの上に
今は穏やかな
僕の好きな季節の風をまとって
何のとがめの言葉も
憂いの思いも
もうつぶやくこともなく。

見慣れたバス停に立ち
バスを待つ人々の姿も
今日は少し寂しく
僕の目には映る
誰もいない電話ボックスが二つ
日陰には静かに
並んでいる・・・・・

過ぎては
流れゆく時に
いつしかまぎれては
忘れ去られて行く
日々の思い出だから
愛しく僕の胸の中には
見果てぬ日々の訪れを
不安な眼差しで見つめている
僕を支えていてくれ。