三月の一礼
みんな 明日も会えるように手を振って でも教室には誰もいない 愛しい人の隣にいられない 忘れ物の本を 取りに戻ることもない 晴れた三月の欅並木 レースを縫い込むように 枝が青空にのびる 若芽がのぞいている。 繋ぎ止めておけなかった 愛しい人の手のぬくもり かなわなかった夢 すれ違った言葉さえ 何のとがめの棘もない。 煉瓦作りの正門を抜けて 古びた校舎に そっと一礼をする 見慣れたバス停 寂しげな友人も 旅立ちに晴れやかな顔で 掲示板のポスターは やがて賑やかな色で 新入生を迎えるのだろう 誰もいないベンチが二つ 陽射しだけを座らせて 今日は誰も休む人がいない。 春風のように 吹きすぎて 忘れられてゆく 穏やかな若き日よ この胸には愛しいままに まだ見ぬ明日を 不安に眼差している 背中をそっと押してくれ
卒業の日の思い出に。Last Updated 2026/03