風のささやき

朝霧

目覚めとともにまた
冷たい朝霧が僕の頭を覆う
ドライアイスのような冷気に
締め付けられる大脳と
白く凍てつく水晶体
すべての映像も思考も立ち遅れて体を巡り

きっと頭の中には白い息を吐く
鋭い牙を生やした竜がいるに違いない 
何かが隠されていると
僕が思い定めるその霧の向こうから
僕を遠ざけるための使者として
僕が立ち入れない危険な場所なのだと
警告を発するように

ここにこうして立ち尽くすこと
それは僕には決められたこと
生れ落ちた時からの定めだと
半ば諦めて自分の定めを
呪ってみたりもするのだが

それは否
白い息吐く化け物は
僕が作り出した
番人なのかも知れない
思った以上に脆い
飴細工のような僕の心が
折れてしまわないための
体の素直な拒絶反応

僕は確かに恐れている
新しい一歩が僕に打ち込む楔
ようやくのこと身の回りの事象
蓑虫のように寄せ集めて身に纏う
不安が正体の僕を
バラバラに解体しようとする

僕はさらにまた深く
足を踏み入れることを自分に
命じなければいけない
頭に広がる白い霧の先を見定めながら
体に刻まれた恐怖心を我が心に治めて
きっとその先に坐す
印を結んだ微笑仏に相まみえるために