風のささやき

冷たくはない雨に

いつの間にか降り出した雨が
降り積もった雪に吸い込まれていく
音までも一緒に吸い込まれたように静かに

雪のない路面だけには文句でもあるのだろうか
音を立て騒ぐあまり冷たくはない雨だから
傘の間から紛れ込んでも僕は驚かずにいるよ
それは後ろをついて歩いてくるあなも同じ

水気を含んで膨らんで見える雪の塊が
昨日よりも角をなくして見えるのは
僕の目の錯覚でないとしたなら
はっきりと春は侵食を始めている

昨日は晴れ渡った青空に
一本の飛行機雲がスーッと引かれた
随分と空も柔らかくなったんだな
冬の空にはとても色の乗らない
力強いパステルの線がいつまでも消えずに
僕の瞳には残っていた

さっきは一瞬
僕を怯えさせた強い風が
裸の木々を大きく鳴らした
けれどもうその威嚇も通じることはない
木々はどこか揚々としていた
だから風はすぐに諦めて
逃げていってしまったんだ

道のところどころには
もう地面が顔を覗かせている
春になればあの場所は
どんな草花に埋め尽くされるのだろう

季節はいつでも僕が気がつかないうち
その歩みを進めている
僕はただその時々の季節の足音
ようやく聞くことを学び始めた者
新鮮なままの驚きと尽きぬ慰めとを
いつでも胸に抱いていられる