風のささやき

茫々とした風に

茫々とした風が休むことなく
俺に吹きつけていた

鳥の大きな羽ばたきのように
遥か遠くから飛んで来て
風は俺の体を目指した

少しよろめきながらも俺は
吹きつける風を真正面から受けた
目には硬いつぶてのあたる
見開けない風景は
砂ぼこりに灰色にかすんだ

言葉もすっかりと乾き切って
口の中は砂でじゃりじゃりとしていた
喉の奥は唾液さえも落ちることを止めて
俺は真一文字に口を結んだ

俺は自分の脚をさすって
風に向かって真っ直ぐに
歩くのだと命じた
まだまだその力が残っていると信じた
両脚は少し熱を帯びた

心は高らかに言い放った
道なき場所を進めと
約束された道の幻影に
惑わされることは無いようにと

その言葉のままに俺は
足跡の無いところを踏みしめた
行き着く先は分からないまま
歩くべき道を俺に従えるために

風は茫々と吹いていた
胸に渦巻く不安を俺は聞いていた
それは決して止むことはない
俺の鼓動と重なった
その一拍一拍を勇気に
換えるすべを強く強く俺は願った

俺を目指して風は
茫々と吹いた
逃げても逃げても
風が吹き荒れる中に
俺の生は置かれている

靡く髪は風に
毟ってくれてやった
よもや風の吹きつけない
生は無いことを知って
俺はますます体に力を入れるのだった
蓄えて来た力の
少ないことを感じながらも

茫々とした風に俺は歯を食いしばって
自分の脚で真っ直ぐに歩いた
そうして踏みしめた場所が
俺のために続く長い道になる・・・・・