風のささやき

漁師

夕日に錆びつき
重たげな水面の上
小さな船に揺られながら
一人網を打つ漁師
彼はくる日もくる日も
あの小さな船に乗り
広い海原へと出かけてゆくのだ

ところどころが破れかけた
彼の網にかかる魚は少ないだろうに
あるいは魚がとれない日が
何日も続くだろう
彼はそれでもあの海原へと
不平もこぼさず
向かってゆくのだ
時折は厳しさに
唇を噛みしめながら

彼の頼りの小さな船は
嵐が来れば木の葉のように
もて遊ばれて海の深くに
沈んでしまうだろう
あるいは薄い船の底は
尖った岩に穴をあけて
キリキリと海中に
ねじり込まれるかもしれない
視界の悪い霧の夕べには
帰る港を失って

何が起こるかもわからないあの海へと
彼はそれでも向かってゆくのだ
彼はあの広い海原を愛するのだ
そうしてあの船の上にある自分を愛するのだ

干物のにおいのしみついた
この浜辺へと
小さな船はやがて帰ってくる
いかりを沈める
短い夜を休むために
もし彼が今日魚をとっていたならば
僕のわずかながらのお金でそれを買おう
きっと彼は日に焼けた人なっこい顔で
微笑みしながら分けてくれるだろう
そうしたら僕は
その魚を手に持って
喜びながら家路につこう
家に帰ってゆっくりと
彼の取ってきた魚を
きれいな皿の上に飾って
涙を流しながら味わおう