風のささやき

とある日

こぎれいな白い椅子の
カフェテラスの片隅
痴呆症のような
九月の陽射しが降り注ぐ
表を眺めながら
苦いコーヒーをすすっている
気の抜けたような今日の僕と
降りしきる夕立のなか
ずぶ濡れになりながら
考え事をしていた昨日の僕と。

過ぎ去った昔日の
過去の記憶の断片の中で
あなたを愛した微笑みを
頭の上に浮かべている僕と
まだ見ない明日のなかに
苦々しくその僕を
嫌悪している顔と顔と顔と。

あるものはただ
変わり続けて
止まることを知らない
心の姿で。

 (明日の朝
  窓を叩く朝の光りに
  眠り足りない目を覚ましたときに
  僕は今日の
  僕の姿であるのだろうか)

表をゆく仲のいい恋人達は
何を見つめあい
愛を語り合うのだろう
お互いの上
吸い付くしあうには
あまりにも痩せ細っている
姿なのに。

僕はまた
とりとめのない虚脱感に
身を浸すばかりで。