風のささやき

夕暮れ

その時
外には木枯らしが吹いていた
街路樹は
その冷たさに葉を落とし
あなたは
何やら本を読んでいた
薄暗い照明の下
唇を固く
少し難しい顔をして
闇に
ほのかに浮かぶその顔が
思い出されて愛しい
今は
その人の面影も
浮かばない部屋に
肩にもたれようと
頭を傾げても
闇に飲み込まれて行くだけの
記憶は
それ以上先には行けない
悪い夢のように
僕は何をしてきたのだろうと
ほうこうを続ける街角は
無表情な顔を飼い慣らし
戻り来る部屋から
一人覗く外界は
僕の心を不安にする
窓を叩く風は
これ以上何に僕を呼ぶのか
僕は
覚えなければ
良かったのかもしれない
こんな魂を連れて
自分の足でたち
一人で歩き始めることを