風のささやき

とある日に

野球場に歓声がこだましている
フェンス越しには一喜一憂する人の群れ
何に身を焼かれれば
あんなにも我を忘れられるのだろう

ほんとうは僕もそこに溶け込んで
楽しく笑っていられればいいのだが
きっと居心地の悪さに支配される僕の笑顔は
脂汗にまみれ紫色に変色をする

素直な心で人といられない惨めさ
きっと僕には時間の向こうに囚われて
囚人となっているもう一人の僕がいる
僕の素直さをすっかりと持ち合わせて捕まっている彼が
暗がりの中に閉じ込められている

僕らはいつまでも隔てられている
ついには一つに溶け合うこともないのだろう
片割れの僕にはあまりにも納まりの悪いこの場所で
僕は顔色を変えながら生きながらえるだけ

今誰かがヒットを打った
外野の間を転々と白いボールが転がって行く
それを追って走る外野手
一生懸命に塁を駆け抜けるバッター
湧き上がる大きな歓声

すべては間の悪い喜劇のように
僕には笑い高ぶる場所がわからない

青空がどぎつい色に光りだす
白い雲が大きな口を開けて嗤う
太陽が針のように目に痛い
僕の視覚はこのまま奪い去られればいい