風のささやき

列車に乗って

先ほどから降り始めた雨は少し冷たく
明かりのともる高層ビルを濡らしている
滲んでいく広告のネオン
まだ働く人のいる部屋の灯
信号の色も溶け合ってしまい
横断歩道の人々も静かに列をなす

濡れた電車の車窓から
青白い自分の顔と
街の灯りを眺めている僕は
疲れた今日の出来事を忘れてしまおうと
自分の体の重さを感じながら
深く座席に身を沈めている

その雨の冷たさから逃れるように
発車のベルの終わり待たず滑り出す列車
僕の体が一瞬重みをまして
背骨が少しきしみを上げる

一秒毎に加速する列車の速度
摩擦熱に上がるレールの悲鳴
風は砕かれ塊となって
暗闇の中に飲み込まれて行く
やがてトンネルを抜ける頃には
雨も振り切られ夜空には
青い月がかかるほどの速度で

僕はこのまま何処へ連れて行かれるのだろう
さっきまで僕をとらえていた雨の街の記憶も遠く
電車の上の時間は疲れとる重苦しい眠りに費やされて
想像を超えるほどの遠い何処かへの不安に
僕は首筋の寒さを覚える

やがて列車の速度をいさめるようなブレーキが
僕の背骨を軽くきしませ
とある駅で列車は化石のように静かになる

降り立つたくさんの乗客
ありきたりの会話
僕の見慣れた場所
君と続けている暮らし
僕は少しだけほっとして
僕の歩調で家路へと歩みを始める