風のささやき

迷い子

少しの間迷子になっていた
おかっぱ頭の二歳位の女の子
やっと出会えた母親に
抱かれてまだ泣きじゃくったままだ

人の出の多い春の公園だから
幼い梢の緑が陽ざし色づけるから
シャボン玉が風に舞い
犬も鎖一杯に走る
夢中になって女の子が
あらぬ方向に進んでしまったとして仕方がない
いつの間にか早く動けるようになった
その足の力に気づくこともなく

もう直ぐに泣きやむだろう
その迷子の心細さ
僕にも手に取るように解るよ

だって何時まで経っても僕は
迷い子のままだから
一人ぼっちになることの怯え
知らない人の間に漂う不安
意味の解らない言葉への理解の苦しみ
いつでも僕の中にあるから

それを隠さずに泣き続けられる心
それを受け止めてくれる人の胸の中にあること
うらやましく思えてくるぐらいに
僕は今でも世の中に迷ったままだ
もう十分に時間を与えられてきたはずなのに
幼子のころから何も変わってはいなくて

あの青い風船を僕も欲しいなと
いつからか素直に
言葉に出すことができなくなって

僕はここにいるよとドキドキとして
かくれんぼをしていた
誰かが見つけてくれる期待を
いつの間にか押し殺しながら

食い違う言葉の意味を飲み込みながら
笑いたくもないのに笑いながら
理解ができないものにも頷きながら

僕はいつまでたっても
置き去りにされた子供の心のままで

少しの優しい心使いには
直ぐにでも涙ぐみたくもなって