風のささやき

春の日に

空からしたたる
春の光りが
植木や芝生の上に
ころげて遊んでいる
小さな公園に
子供が眠っている
母親の胸に
頭をうずめるように抱かれ
ベンチの上で
消え入りそうな
寝息をたてている

ところどころ
はね上がった
とび色の髪は
母親の細い指先に
撫でられながら

その上の藤棚には
藤が
花を咲き垂らし
薄紫に
かすかに薫る色に
陽射しをかえている

風は公園を
遠回りして走り
ブランコは
揺れることをやめている
にわかに
木々のざわめきも黙ってしまい
じっと沈黙を守っている 

子供は
気づくのだろうか
目をさましたときに
優しく見つめていた
穏やかなまなざしや
息づかいを
そっと触れていた
細い指先の体温を

誰一人として
このひとときを
おかしてはならない。