風のささやき

革の鞄に

この見窄らしく小さな革の鞄に
僕は何を入れて持ちあるこう

いつも一緒のこの鞄には
たくさんのものは入らないから

新鮮な驚き 新鮮な笑顔 新鮮な涙
新鮮な雨粒 新鮮な青空 新鮮な朝の日
とにかく新鮮なものがいいな

新鮮なものは湖のように
鞄の中で細波だって
青い宝石のように光りを照り返す

鞄の中に手を伸ばす
僕の毛細血管の隅々に広がり
僕を瑞々しく潤わせてくれるから

それから幾冊かの手垢のついた本
心静かにする音楽の断片と
入るものならば好きな絵も持ち歩きたいな
絵葉書サイズの大きさでいいから

何度も言葉を交わした
僕の一番の友人たちを持ち歩くように
鞄を開ければ聞こえてくる楽しい言葉に
僕は決して退屈することはしないから

もうそれで僕の鞄は
きっとパンパンに膨らんで
今にも悲鳴を上げそうになるだろう

なんて人の持って歩けるものは少ない
あるいは僕の鞄が小さ過ぎるだけなのか

小さすぎる鞄も
いいことはあるのだけれど

さっき流した涙の訳は
入りきらずに
もう取りこぼしている