風のささやき

ある日

人も訪ねない
石段を上がる
地図にものらない
小さなお寺に
ひっそりと置かれた石の上
刻まれた柔らかい仏の姿
誰がどんな思いをこめて
彫り込んだのか
ー彼の思いは
 かなったのだろうか

その台座には
汚れた五円玉が一枚
置かれて
屋根もなく
雨風にさらされた
青い空の下で憩う
顔の輪郭は穏やかに
ゆれるコスモスの
花影に
飾られて

長い年月が
その面持ちをけずり
石の中に再び
閉じこめてしまうときに
誰かがまた
取り出すことがあろうか
一つの願いと供に
祈りの姿の仏を
灰色の石の
深い眠りの中から