風のささやき

高原にて

標高1800メートルの燕は
随分と低く飛ぶ
白い腹を見せて僕の2メートル目の前を
一直線に飛んで行く

暮れて行く山肌は頬紅を塗り
白樺の木々が骨を浮き彫りにする

薄藍を引いた空には解きほぐされた雲
その繊維質が絡まり織りなす
一時の絵模様が空を横切っては
また解きほぐされる

月を掴み口を開いた龍と爪
その上を駆けて行く一角獣の長いたてがみ
それを追いかける速さ足らずの翼畳んだ鷲と
どこか泣いているような女の顔と

そうしてその上には
彫金を施された薄い三日月が
揺るがずに一点に収まり
薄い空気を吸い込みながら
見上げる僕の視線を受けている

やがて夜が近づき
一しきりの雲も退場をして
一人取り残された君、月よ
「地上1800メートル
 君までは、まだまだ遥か遠い」