風のささやき

25年後の春に

25年後の春の空は
僕の上にまだ暖かくあるだろうか
一陣の風が金粉のような砂埃を巻き上げて
僕は目を細めてそれを見るのだろうか

25年後の春の空の下で
桜はまた目の中に惜しげもなく
花びらを舞わせるのだろうか
僕の手のひらは惜しきものよと
その花びらを追いかけるのだろうか

何年も会わずにいた人からの手紙は
手の上に零した嬉し涙のように温かだった

昔と同じ懐かしい言葉で
その後の暮らしをしたためた便箋に
僕の胸はわだかまりない青空のように
晴れ晴れと穏やかな明るさでいた

それからの月日の長さを僕は指折り数えた
両手を行き来するその長さと
足早に過ぎた短さとの茫茫とした思いに茫々として
未来の僕へと問いかけていた

ちょっと前に飛行機雲が
空を十字に切り裂いていったその跡が
ゆっくりと傷口を広げている
その先にある25年後の春の僕へと

雲よりも行く末を知らずに漂い
風に迷っては形を変えて
僕はまた迷走を繰り返して行くのだろうな
そこは少しも今と変わらず
その戸惑いを言い訳に置き換えたりしながら
後悔に火照る体には
アルコールの一杯も染み渡らせて

その行き着く果ての25年後の春の空を
僕はどんな気持ちで眺めているのだろう
せめては身じろぎもせずに堂々と
その青さを眺められる者でいたいと思うんだ