風のささやき

桜色の夕日に

車は帰路にあって
黙々とタイヤを回していた

一仕事を終えて気がぬけてしまったのだろうか
その音はあまりにも静かで
横を追い越す車の数々
追いかける力
無くしているようだった

僕らはシートに深く腰かけ
思うことなく外を眺めていた

目には留まることのない風景がたくさん
押し流されていった
気がつくと空は
桜色に染まっていた

初めて見る淡い淡い夕日の色合い
まるで散っていった桜の花びらが
空に溶け込んでしまったように

すべてのものは
その色合いに手なずけられて
従順な牛の瞳のように穏やかになった

もちろん僕らもその例外からは漏れずに
誰からとも無く黙り込んでいた

言葉は発するも聞くも
すべてが物憂く
始めから言葉は
無いことが自然だとさえ思えて

けれど僕らの胸は
言葉以上の何かで満たされていた
あるいは僕らの体が
同じベールのようなもので
包まれていたのかもしれない

桜色の夕日のように懐かしく暖かく
自然と人が恋しく思えて
隣にいる人の心の動きも
自分のそれであるかのように良く分かっていた

僕らを仲良くさせた夕日が
色合いを濃く過ぎ去った後も
僕らの肩にはまだ人恋しさが手を置いたまま

車を降りて力のないまま僕らは
思い出した言葉で
また明日とつぶやき別れた